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がん化学療法看護認定看護師 かみうせまゆの「忘れえぬ患者さんたち」
第3回 23歳のクリスマスカード

掲載日:2019年12月19日 9時47分

1ヶ月以上前からプレゼントを準備

迫力満点の大きなサンタさん

 師走に入り、街中はいつの間にかクリスマスの装飾となり、イルミネーションとクリスマスソングが聴こえてきます。私の病院近くでも、海外の食材店の店頭に、ある日突然大きなサンタがお目見えしました。夜道には何ともびっくりする存在です。

 病院では、クリスマスに、入院中の患者さんに、小さなキャンドルサービスのイベントを楽しんでいただいています。1ヶ月以上前から、心を込めて手作りのクリスマスカードや治療に差し障りのないプレゼントを準備します。

 イベントの日の患者さんは、朝からソワソワしています。普段は就寝されていたり、リハビリを拒否されたりする方、デイルームでサバイバーカフェ(私が勝手に名付けました)を開いている患者さんたちも、日中に入浴や身支度を整え、クリスマスイベントを、まだかまだかと待っています。


だれがサンタになるかは秘密

 この日は、学生から病院職員が一丸となり、サンタやトナカイに扮して病棟から外来まで順に回ります。そして、クリスマスソングを、音楽部の演奏、ゴスペル部の歌の指導を受けながら、患者さんお一人お一人へ、ささやかなプレゼントと共に届けます。

 サンタ役、トナカイ役は患者さんにはヒ・ミ・ツです。ある年、患者さんにも看護師にも人気の内科のO先生がサンタに、後期研修医のY先生がトナカイになり、陽気なクリスマスソングを歌い始めました。後日、サンタのO先生の密かな想いが新聞記事に掲載されていました。

 外来で留守番をすることの多い私は、トナカイのカチューシャをつけて、真っ赤なお鼻にして、夕方まで治療中の患者さんと、大みそかのテレビは「紅白歌合戦派かお笑い派か?」とか、年明けは「駅伝を見るか初詣に行くか?」などの話で盛り上がります。


突然の悪性リンパ腫

いつの間にか街を彩っているクリスマスの夜景

 つい最近、以前担当した患者さんからのクリスマスカードを眺める時間がありました。

 大学の法学部を優秀な成績で卒業後、悪性リンパ腫を患い、化学療法と放射線療法を受けたY太さんからの手作りメッセージです。彼は23歳、法律事務所に勤務し、わずかな休日は高校時代からのバンド活動もしている、エネルギッシュで爽やかな青年でした。

 風邪の症状が長引くため、精密検査を受けたところ、悪性リンパ腫が見つかり、そのまま治療生活へ入りました。悪性リンパ腫にはたくさんの種類があり、治療法も治療期間も人によって異なります。彼の場合は、抗がん剤の全身投与および髄腔内注射、放射線治療が必要でした。

 Y太さんはAYA世代(15~39歳)で、今後の仕事、夢、恋愛、趣味の制限や、治療の副作用による見た目の変化により、毎晩悩んでいるようでした。AYA世代のがんサバイバーのケアは、昨今、さまざまな学会やがん関連のスペシャリストが力を入れているものの、私も含めてまだまだ不足しています。


Y太さんがポツリポツリと話し始めた

 Y太さんは、担当医や看護師、リハビリスタッフが訪問しても、布団にくるまってしまいます。彼の苦痛を和らげることの難しさを思い知りました。

 それでも、悩み、つらさ、治療に関する不安を少しでも軽減できればと思い、私は仕事終わりに彼の病室に行き、本当の悩み事を聴ける日が来るまで、会話は少なかったのですが、対話する時間を彼に分けてもらいました。

 10日を過ぎた頃に、Y太さんがぽつりぽつりと話し始めてくれました。小さい頃にお母さんが乳がんで亡くなり、5つ離れた姉と会社員の父と3人暮らしであること。治療費を稼ぐために父や姉が働いているから自分が弱音を吐くわけにはいかないこと。大切に育ててくれた父親よりも早く死ねないこと。彼女がいるけれど、退院後に健康な身体に戻り、今まで通り恋愛ができるのか心配なこと……。

 私は、ベッドサイドで彼の思い、怒り、誰にもぶつけられない苛立ちをただ受け止めるしかありませんでした。

 治療に対し、医療に対しても不信感が募っていた彼を、どうにか前向きな気持ちへ導く必要があると感じ、主治医や関連職種と調整する等、裏方のケアにも力を入れることにしました。すると、だんだんと、Y太さんの気持ちも変わってきました……。


「意外にセンスあるっしょ?」

Y太さんからもらったクリスマスカード。本人も自慢するだけあって、なかなかのセンス

 退院を控えたクリスマスのイベントの日、Y太さんは、病室の入り口に出てきて、お父さん世代、おじいさん世代の同室者たちと、目を輝かせながら楽しんでいました。

 その夜、Y太さんからナースコールがありました。「退院が近いのに、何の用事かしら?」不思議に思って病室を訪ねると、「いつもありがと。これ、昨日の夜に僕が描いたんだ。意外にセンスあるっしょ?」と、画用紙のクラフトと手描きのサンタ、サンクスレターが1枚に収められていました。

 私はY太さんの看護を通して、患者さんの希望、医学的な入院継続の可否、ご家族を含めた細やかな支援が重要だと感じました。今年も外来で、「年末年始はご予定ありますか?」とお声がけし、ときに医療チームで連携をしていきます。

Merry Christmas & May your new year be happy!

石垣島にいる友人のグラスジュエリー作家、あゆみさんがつくったガラスのクリスマスツリー。
クリスマスを感じる小さな小物があるだけで気持ちが和む。

上鵜瀬 麻有(かみうせ まゆ)

 2002年に看護師免許を取得。現在は千葉県の医療法人財団明理会新松戸中央総合病院のがん化学療法看護認定看護師として、患者さんの心身のケア、精神面のサポート、生活情報の提供などを行っている。
 このエッセイでは、これまでに出会った患者さんたちの物語や忘れえぬ場面、言葉などを看護師ならではの視点で描いていきます。なお個人のエピソードは、プライバシーを守るため一部改変しています。

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