マスク着用で熱中症のリスクがあがる

気づかないうちに、室温が上がることもある。暑いと感じなくても、温度計をみて対策を取りましょう。
がんの治療中は、治療に伴う免疫力の低下、血液がんの特定の治療においては、免疫抑制剤を使用する等、見えないウイルスや細菌に対する感染予防として、マスクは欠かせないアイテムになっています。
ましてや、新型コロナウイルス対策で、現在は治療の内容にかかわらず、マスクは手放せません。
しかし、マスクのある日常が、気づかぬうちに熱中症のリスクを高めることがあります。
人間は、口からの呼吸や皮膚呼吸で、体温調節をしています。 マスクの使用は、口呼吸による体温調節機能を妨げ、知らない間に身体の熱がこもってしまい、熱中症になるリスクがあります。
熱中症の初期症状としては、めまい、ほてり、だるさ、吐き気、足がつる、強い疲労感などがあります。 対処が遅くなれば、高体温や自分で歩けない等、症状が進み、場合によっては意識障害や命に関わることもあります。
そこで、日本気象協会が推進するサイト「熱中症ゼロへ」も参考にしながら、対策をまとめてみました。
ご自身や家族、周りの人が具合悪そうにしていたら、以下の2つを試してみましょう。 ①意識があるかどうか、確かめる ②水分が摂れるかどうか、確かめる
意識がある場合
①涼しい部屋、日陰に移動させる ②衣類の締め付けを緩める ③経口補水液やスポーツドリンク、ミネラル補給のタブレットなどを摂取させる (糖尿病や腎機能障害のある方は、スポーツドリンクの飲みすぎに注意) ④身体を冷やす(両側の頸部・わきの下・そけい部) ⑤体調不良が続く場合は、次の外来受診を待たずに早めに受診する
意識がない場合

①意識を失っている人を見つけた場合、まずは周囲の安全を確認してから近づく (具合の悪い人を助ける前に、自分自身の安全を守ることが大切) ②周囲の人へ助けを求める ③直ちに救急車を呼ぶ (周りに誰もいないときは、まずは救急車を呼び、応急手当をする)
熱中症の応急手当としては、自宅であればクーラーをつける、アイスノン・氷のう、外であれば自販機のペットボトル・コンビニなどで入手できる氷を袋ごと利用し身体を冷やす等があります。 また、皮膚に水をかけてうちわや扇子などであおぎ、身体にこもった熱を外に逃がすことも有効です。
意識がもうろうとしている人、意識がない人に無理に水分を摂らせると、誤嚥(水分が気管に流れ込み、窒息につながる)の危険があるため、注意が必要です。
記憶に残る熱中症のがん患者さんたち
実際にがん治療中の方を担当している中で、熱中症になっている方と出会うことも少なくありません。
外来診察・治療日に、いつもの時間になっても来院しない60代後半の、Aさん。ひとり暮らしでした。電話はつながらず、別世帯だったお子さんの協力を得て、様子を見に行ってもらったところ、ぐったりと寝込んでいました。救急車で運ばれ、診察を受けた結果、熱中症でした。 冷房を好まれない方でした。体力の低下から体温調節が難しくなり、症状が重かったようです(点滴治療で症状は回復しました)。
ある日の外来では、「元気だよ、抗がん剤を休んだら命が短くなってしまうから、今日もよろしく頼むね」という70代後半の、Bさん。 普段よりも皮膚が乾燥し、しわが目立った様子で、いつもとは体調が違うな…と問診をとっていたところ、体温が異常に高く、何らかの感染症も考慮して、別室で待機してもらうことになりました。 様々な検査の結果、感染症ではなく、熱中症と診断されました。
入院中も熱中症の危険は潜んでいます。個室だったCさん。夏季の病院内は集中管理で温度設定がなされていますが、筆者が勤務していた病院の各病室内では、更に空調管理できる装置がついていました。 Cさんは入院で筋力が衰え、「寒い」といって、夏でも長袖のパジャマにカーディガン姿でした。

がん治療中の方は、健康な人に比べ、熱中症のリスクが高まると感じた3名のエピソードです。 ふたたび感染者が増加しています。これからも当面はマスクが必須となるでしょう。 自宅の中、人がいない早朝や夕方の屋外の散歩等、感染のリスクが低い時には、適宜マスクを外し、水分補給もこまめに行いましょう。
気候の変動が大きく、体調変化を来しやすい環境ですが、適度な栄養・水分補給、室温・衣類の調整、十分な睡眠をとる等の工夫をして、この夏を乗り越えましょう。