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がん化学療法看護認定看護師 かみうせまゆの 「忘れえぬ患者さんたち」第14回
 外国でがん告知・治療を受けるということ
 ~乳がん月間に寄せて~

掲載日:2020年10月5日 10時00分

 新型コロナウイルスで、海外からの観光客はかなり減りましたが、在日外国人は、現在も大勢いらっしゃいます。私が勤務していた病院でも、世界各国からの患者さんが受診されていました。

 今月は乳がん啓発月間なので、在日外国人のお二人との出会いをお送りします。


It is really hard.-国際結婚されたサラさん-

 サラさんが外来化学療法室にやってきたのは数年前の今頃でした。ブロンズヘアがとても似合う29歳の新婚さんで、診察の際は日本人のご主人が通訳をしていました。
 彼女は乳がんの手術後、再発予防の目的で抗がん剤治療を受けていました。

 

 ある日、ご主人が仕事で付き添えず、不安な表情で来院されました。
 英語は中学レベルの私にとって、流暢な会話は難しく、事前にいくつか、問診のための単語帳を作っていました。
 Google翻訳と、医療用英会話集を混ぜたもので、万全とは言えませんが。

「Have you had any problems since your last treatment? (前回の治療から、何か変わったことはありませんでしたか?)」

 サラさんは、視線を逸らすようにして、無言のままリクライニングチェアに座ると、ただただ涙を流されます。10分くらい経過した頃でしょうか。メモ帳に英語で何か書きました。私は、“メッセージを受け取りましたよ”という合図を目で送り、一旦席を外しました。

 サラさんのメッセージを同僚や医師と確認しました。
 そこには、日本語に訳すとこう書かれていました。
「抗がん剤治療の副作用がつらい。ごはんがおいしくない。髪も抜けた。自慢の身体に手術の傷あとがついたし、更年期のような症状が今いちばんつらい。彼の子どもができるかもわからない。心も疲れた。どうしたらいいのかわからない」

 その場では、良い言葉が見つからず、傍らに寄り添い、しばらくサラさんの気持ちが落ち着くのを待ちました。
 それから、主治医を呼んで、英語で「とてもつらそうだけれど、今日の治療は受けられるかい?」と質問してもらいました。
 加えて、「治療でつらい症状を緩和するお助けの薬を追加することもできるし、心のサポートの専門医・看護師と話す時間も作りますよ。私たちはあなたをサポートしていきますから」と案内してもらいました。

「It is really hard. I finally came to the treatment room. Thank you for understanding the painful feelings. (本当につらくて。治療室にもやっと来たの。つらい気持ちをわかってくれてありがとう)」

 サラさんの雲っていた表情から少し笑みがこぼれました。

 主治医からは、抗がん剤の副作用を抑えるためのお助けの薬(支持療法薬)を処方してもらい、看護師からは、外見ケアや自宅でのリラクゼーションの方法を、そして心のケア専門の医師・看護師にもサポートをしてもらい、無事に1年半の点滴治療を終えることができました。

 異国の地で抗がん剤治療を受けることが、どんなに孤独だったのかと思うと、胸が締め付けられる思いです。


 日本語が流暢な弟さんと来院される王さん

 王さんは、非常に珍しいタイプの乳がんと診断された50代の飲食店経営者です。手術後、再発予防のために、放射線治療と抗がん剤治療を受けることになりました。

 王さんは、職業柄、お化粧や身なりには大変気を遣い、お洒落な装いで診察室に来られていました。

 手術後の治療方針を決める面談で、「脱毛を覚悟して点滴の抗がん剤を半年行うか、目に見える副作用は少ない飲み薬の抗がん剤を2年にするか?」と主治医から選択を迫られました。

 王さんの日本語は簡単なあいさつがわかる程度で、日本語が流暢な弟さんが、いつも通訳をしてくれます。そのため、診察室は、中国語が飛び交っていました。

 仕事への影響を考え、「急な脱毛や、具合が悪くなることを避けたい」と話し、長くなってもいいから飲み薬の抗がん剤治療を受けると決意されました。

 ある日、王さんは抗がん剤による白血球減少(抵抗力が低下)で発熱し、予約外受診をされました。あいにく弟さんは出張で、おひとりです。

 主治医も中国語を話せなかったのですが、幸いなことに病院内に中国出身のスタッフが勤務していたため、通訳してもらい、彼女の体調や、困っていること、さらには治療方針を伝えてもらうことができました。



 言葉の壁はあるものの

 現代では、瞬時に通訳してくれる“ポケトーク” と呼ばれる翻訳機や、世界各国の言葉を翻訳してくれるスマホアプリが活躍し始めています。

 しかしながら、AI(人工知能)でも、病院で使う言葉は微妙に意味合いがずれて翻訳されてしまうこともあります。

 また、がんサバイバーの方に限らず、私は今までの病院勤務時代、ベトナム、ロシア、韓国、中国、ハワイ、ベナンそのほか、様々な国籍の方と出会いました。

 通訳担当者が付き添っていない場合、言葉が通じないことで不安が高まり、取り乱される患者さんも多くいらっしゃいました。

 事前に準備した意思疎通のための単語帳も、いざとなると、使い物にならない場合も多々あり、電話越しで通訳担当者に仲介してもらうこともありました。

 現在、医療用の翻訳アプリを検索すると、いくつかヒットしますが、慎重にサービス内容や利用料を確認する必要があると思います。

 

 厚生労働省のホームページには、「外国人患者を受け入れる医療機関の情報を取りまとめたリスト」が掲載されています。そこで、日本政府観光局(JNTO)のウェブサイト、医療機関リストの解説、医療機関リストの概略図、医療機関リストの一覧表などの解説もされています。

 これからも、在日外国人、旅行で訪れる外国人が、病院を利用することは続くと思います。
 個人向けのサービスと、医療機関向けのサービスがうまく活用され、言葉の壁を越えて、安心して医療を受けられるようになってほしいと願っています。

これまでの、がん化学療法看護認定看護師 かみうせまゆの「忘れえぬ患者さんたち」はこちらよりご覧いただけます
上鵜瀬 麻有(かみうせ まゆ)

 2002年に看護師免許を取得後、大学病院・がん診療連携拠点病院などで勤務。がん化学療法看護認定看護師として、患者さんの心身のケア、精神面のサポート、生活情報の提供などを行っている。
 2020年6月より公益財団法人日本対がん協会に所属。
 このエッセイでは、これまでに出会った患者さんたちの物語や忘れえぬ場面、言葉などを看護師ならではの視点で描いていきます。なお個人のエピソードは、プライバシーを守るため一部改変しています。

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