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がん化学療法看護認定看護師 かみうせ まゆ の ~がん治療に役立つエッセンス~
第3回「がん治療中も、歯医者さんに行こう」

掲載日:2021年2月17日 13時00分

 新連載第3回目の、「がん」治療前・中・後にまつわる、当たり前だけれど侮れない情報。今回のテーマは、コロナによる受診控えの診療科の上位にランクインしている、歯医者さんとがん治療の話題です。

 がん検診と同じく、生きるために大切な、口腔内(お口)の健康について考えてみましょう。


 マスク生活に起因する口呼吸が「がん治療」へ及ぼす影響

 マスク必須の生活となり1年が過ぎました。
 1年前の自分の写真と比べて、「頬の筋肉が落ちたかもしれない」と思い当たる方はいらっしゃいませんか?

 マスクの下の表情は、無意識に口呼吸となり、口が開いてしまう傾向にあるようです。
 また、口呼吸による表情筋の衰えも相まって、口腔内の乾燥につながることが知られています。

 唾液は、健康な大人で1日に約1000m~1500ml分泌され、口腔内の粘膜保護、自浄作用、消化など、多くの作用があります。

 意識しないと、ペットボトル2~3本分の唾液が、1日で分泌されるなんて想像できないかもしれませんが、無意識のうちに様々な活躍をしてくれています。

 ところが、抗がん剤(全がん)、放射線治療(主に頭頸部の照射)、手術(頭頸部がん)を受けると、唾液の分泌が低下しやすくなります。

 そこへ、口呼吸による口腔内の乾燥が重なると、虫歯(う歯)や歯周病のリスクが高まります。

 ヒトの口腔内は、唾液から検出される常在菌で約500~700種ほど住み着いていると言われており、健康な時は悪さをしない菌でも、治療の影響などで抵抗力が落ちた時に感染症の原因となります。

注意したい、がん治療前のお口の中のトラブル。

 口腔内の乾燥は、虫歯や歯周病の他にも、咀嚼(食べ物を噛む力)、嚥下(飲み込む力)、味覚異常、義歯(入れ歯)が合わない等の不具合にもつながります。

 がん治療と歯科治療(口腔ケア)の連携は、知る人ぞ知る重要なものです。それは、コロナの流行中でも、少しも変わりません。

 治療の状況に即して見ていきましょう。


 手術で気を付けたいこと

 医師や看護師から事前に説明があると思いますが、これから手術を受ける方は、事前に口腔ケアを済ませておくことが欠かせません。

 たとえば、全身麻酔で気管にチューブを入れる(=気管内挿管)ことで、グラグラしていた歯が抜けたり、最悪の場合、抜けた歯で窒息してしまったりするリスクがあります。

 手術前の麻酔科医の診察では、グラグラした歯の有無、義歯(総入れ歯、部分入れ歯を含む)の有無も確認が行われます。それ以外にも、痛みや口の中の悩みを抱えている場合もあるでしょう。

 歯の状態次第では、手術前に、かかりつけの歯科や院内の歯科などを受診し、チェックしてもらいましょう。

 手術後は普段通りの飲食ができるまで、個人差はありますが数日かかります。

 もともと歯周炎(歯周病の一つで、重症の歯肉炎=歯ぐきに起こる炎症)がある方、舌の汚れが強い方、高齢の方、歯磨きをする習慣が少ない方は、食事を摂っていなくても、自然と分泌される唾液が減ったり、口腔内の細菌、痰などが絡んで、誤嚥性肺炎に繋がることもあります。

 手術直後や食事が摂れていない時も、歯磨き、うがい、口腔内の保湿を行うことが大切です。

自分に合った硬さの歯ブラシを選び、歯磨き後のうがいは十分おこなう。また、口の中に炎症がある時は、粘膜保護作用のあるうがい薬を選ぶと良い。


 抗がん剤や放射線治療で注意したいこと

 抗がん剤や放射線治療を行うと、がん細胞をやっつけるだけでなく、口の中の粘膜や唾液腺にもダメージが加わります。

 歯肉炎やグラグラした歯、虫歯があると、治療で抵抗力が弱る時期に、炎症が悪化し、口腔粘膜炎や味覚障害なども加わることがあります。その結果、治療スケジュールが遅れるだけでなく、治療を受ける本人の辛さも増します。

 そのため、一刻も早く抗がん剤治療を開始しなければ命に関わる場合(白血病など)を除き、事前に歯科を受診します。

 がんの治療中に歯科治療を受けるタイミングは、白血球(ばい菌と闘ってくれる)や血小板(血を止める作用)の数値、抗がん剤などの治療スケジュール、既往歴で血液をサラサラにする薬を休薬してよいか、などを見て決めます。

 脳梗塞や既往に心臓病や深部静脈血栓症がある方は、さらに薬を処方している医師との連携が重要となってきます。

 歯科治療の影響で、スケジュール通り抗がん剤を投与できないことで、がんが進行してしまうのではないかと不安になる方もいらっしゃるでしょう。

 しかし、抜歯や口腔内の処置を伴う治療と、抗がん剤の副作用がもっとも強く出現する時期が重なると、感染症のリスクが高まるだけでなく、血が止まりにくい、傷の治りが悪くなる等、その後の抗がん剤治療にも影響を及ぼします。

 歯科治療をどうするかは、自己診断(自己責任)で決めてしまうのではなく、スケジュールも含めて、主治医や医療スタッフと相談してみてください。

 がん治療の状況、QOL(=生活の質)の維持などを総合的に見て、的確な助言や判断をしてくれるはずです。
がん治療を安全に受けていただくために、医歯薬連携が進んでいる。(紹介状=診療情報提供書)


 骨吸収抑制剤を投与中の場合

 固形がんの骨転移がある方や多発性骨髄腫の骨病変のある方は、病状に応じて、骨の破壊を防止する働きのある、ビスホスホネート製剤(商品名:ゾレドロン酸)や、デノスマブ(商品名:ランマーク)、を投与することがあります。

 この薬は、副作用で稀に顎骨壊死を起こすことが知られており、近年増加傾向にあるようです。

 初期症状としては、歯肉が腫れる、歯肉炎、治りづらい口内炎、膿、潰瘍、歯のグラつき、顎骨の露出、発熱など多彩な症状があります。
 
 ビスホスホネート製剤やデノスマブを投与している方は、歯の痛み、グラつき、歯肉炎、治りづらい口内炎など、異変を感じたら、決して我慢せず、早めに主治医や歯科医、歯科衛生士に相談してください。


 診察時に聞きたいことを事前にメモ書き

 短い診察時間に、遠慮なく聞きたいことを全部聞く。
 これはとても難しいことです。ふだん、医療を提供している側の人も、いざ患者や、患者家族の立場になると、十分に聞けなかったという話もよく聞きます。

 ではどうしたらよいでしょうか?
 事前の準備です。スケジュール帳の余白などに、「今度の診察で聞きたいこと」を3つくらいに絞って書き留めておくのです。

 診察室に入り、医師から体調を聞かれる際に、体調と同時に、書き留めたメモで「聞きたいこと」を確認しながら伝えると、聞き逃しや質問し忘れることが少なくなります。

 この方法は、医師にとっても、コンパクトに要点が伝わるので助かるはずです。

 今年度は例年に比べ、在宅ワークやオンラインの作業が増えた方が多数いらっしゃると思います。

 慣れない環境、デスクワークなどで、知らない間にストレスが蓄積し、無意識に歯を食いしばって顎関節に負担がかかり、顎の痛みや移動する歯の激痛を感じる方もいるそうです。

 心当たりがある方はいらっしゃいますか?

 歯の健康を保つことは、食べる喜び、そして生きる源につながります。

 何かしらの自覚症状があるけれど、受診をためらっている方は、歯科受診の予定を検討してみてはいかがでしょうか?
 特に症状がない方も、年に1~2回、歯科検診を受け、口腔内のトラブルを未然に防ぎましょう。


上鵜瀬 麻有(かみうせ まゆ)

 2002年に看護師免許を取得後、大学病院・がん診療連携拠点病院などで勤務。がん化学療法看護認定看護師。
 2020年6月より公益財団法人日本対がん協会に所属。
 2019年10月~2020年12月まで「忘れえぬ患者さんたち」を連載。
 こちらのシリーズでは、がん治療中の方はもちろん、経過観察中や他の病気で通院中の方にも役立つような情報をお届け予定です。

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