後編では、帝京大学ちば総合医療センター第三内科(腎臓内科)教授・腎センター長で、高校生や医学生向けのボトムアップ型授業にもご尽力されている、寺脇博之先生に“スマホ脳”について、お話を伺ったリポートをお届けします。(文=日本対がん協会 かみうせ まゆ)
寺脇博之先生(=帝京大学提供)2021年4月30日 ZOOMにてお話を伺いました。
ヒトの進化の歴史と、私たちがスマホにはまる理由
世界的ベストセラーになった、アンデシュ・ハンセン著「スマホ脳」の中にも取り上げられていますが、ヒトは長い歴史の進化において、一貫して身を護ることを最優先させて生き延びてきました。
そのため、人類は危険をいち早く察知するため、一つのことよりも複数の対象に関心を分散させるように進化してきました。
スマホはSNS機能や多数のアプリ機能搭載により、関心の分散に寄与しています。
スマホは絶えず情報や刺激を提供し、脳の報酬システム(ドーパミン)を活性化し続け、SNSやマルチタスクにより、注意を分散化してくれます。
その反面、必要以上にスマホを使い続けていると、着信音やSNSの通知などが気になり、生活に支障をきたすことも懸念されます。
スマホ脳になる仕組みと、その弊害
脳の大部分は、大脳が占めており、大脳は、大脳皮質(灰白質:かいはくしつ)で覆われています。
大脳皮質は、大きく前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉に分かれます。
その中でも、スマホを長時間使用することで、思考の場である「前頭前野」の血流低下、灰白質の萎縮に代表される、大脳の器質的退行に影響を及ぼすことが明らかになってきました。
前頭前野は、思考・行動抑制・コミュニケーション・意思決定・情動抑制・記憶のコントロール・意識と注意を集中する・注意を分散させる・やる気を出す等の重要な働きがあります。
また、SNSはFacebookやInstagramに代表されるように、楽しかった出来事、写真映えする情報などを発信することが多く、他者のことをうらやましく思ったり、イイねマークを気にしすぎるようになったりする等、劣等感の醸成にもつながります。
スマホを必要以上に使い続けることにより、知的能力の低下が起こり、論理的思考が苦手になり、短絡的・感情的になり、騙されやすくなることも懸念されています。
人によっては、気持ちが沈み、うつに近い状態になることも報告されています。
脳の大まかなイメージと、スマホ脳が及ぼす主な影響。
スマホ脳から逃れるために
普段の生活で、無意識に1時間以上スマホを利用している方は、いま一度使い方を見直してみましょう。
ポイントは2つです
①仕事や生活に必要な手続きを除き、スマホの使用は、「1日1時間以内」を目指しましょう。
②SNSを使うのであれば、積極的に情報発信してみましょう
∴スマホは使うものであって、使われないようにしましょう
かみうせナースから、寺脇先生へ質問してみました
Q1――治療中、経過観察中、ご家族は、同じ境遇の患者さんとのつながりや、療養に役立つ情報を得るために、スマホやタブレットは、重要なアイテムになりました。
療養中、スマホ脳にならないために工夫できることがあれば教えてください。
寺脇先生
「特にこの1年は、患者会もオンラインが増えて、スマホは大切なアイテムですね。
患者会に参加したり、交流の場を持ったりする際は、時間や場所(オンライン上の)を決めて、顔を見ながら話すようにすることをお勧めします。
また、お互いの個人情報まで踏み込み過ぎないようにすることも大切です。
がん治療においては、スマホを利用する時間を強制的に制限するだけでなく、つらい気持ちを紛らわせたり、不安を軽減したりするなど、周囲のサポートも大切となります。」
Q2――がんに罹患し、似たような境遇の人の情報を探すために、朝から晩までFacebookやTwitterなどのSNSをチェックして、心身ともに疲れている経験をされる方が多く見受けられます。
使ってはいけないと言われると、逆にやめにくくなるような気がします。何か良いアドバイスはありますか?
寺脇先生
「例えば休日はスマホを持たずに出かける、スマホの電源を入れる時間を決める、通知設定をオフにする時間を決める、急ぎの要件は固定電話(または予め取り決めている通信手段)にする、極端にいうと、スマホを持たない時間を作ってみるのもいいでしょう。
ちなみに、私はSNSや仕事のメールチェックは、決まった時間に行うようにすることで、精神的な呪縛から解放されました。」
まとめ~スマホを適正に活用するための一歩を始めてみませんか?
コロナ流行下、この1年半のあいだで、私たちの生活は劇的に変化しました。
テレワークをする人が増え、スマホやタブレット、PCアプリを複数活用している方が多くいらっしゃると思います。
PCに向かっていると、様々なアプリ機能の着信通知が来るたびに、作業を中断することが増え、仕事の効率が低下してしまいがちになります。
仕事以外の時間に、何気なくスマホを眺めてSNSやネットサーフィンをし続けることは、知らない間に私たちの脳に負担をかけていることがわかりました。
寺脇先生のお話に出てきたように、“スマホは使うものであって、使われてはならない”ということに意識を向けることが、スマホ脳から逃れる第一歩だと感じました。
オンラインを介して、同じ境遇の仲間に出会い、支え、支えられることも多くあることでしょう。
今回取り上げた、スマホ脳に罠にはまらないために、仕事柄、スマホやタブレットが手放せない方もいらっしゃると思いますが……
まずは可能な範囲で、スマホを利用する時間を設定してみることからはじめてみませんか?
スマホ脳(依存症)から逃れるために、出来ることから始めてみましょう。
参考文献・サイト)
①NHKクローズアップ現代 2019年2月 ”スマホ脳過労“が記憶力や意欲が低下 nhk.or.jp/gendai/articles/4249/
②アンデシュ・ハンセン著 スマホ脳 新潮社 2020年11月発行
③川嶋隆太監修 2時間の学習効果が消える やってはいけない脳の習慣 青春新書2016年8月発行
前回までの記事はこちらからご覧ください。

2002年に看護師免許を取得後、大学病院・がん診療連携拠点病院などで勤務。がん化学療法看護認定看護師。
2020年6月より公益財団法人日本対がん協会 がんサバイバー・クラブで活動開始。
2019年10月~2020年12月まで「忘れえぬ患者さんたち」を連載。
こちらのシリーズでは、がん治療中の方はもちろん、経過観察中や他の病気で通院中の方にも役立つような情報をお届け予定です。