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がん化学療法看護認定看護師 かみうせ まゆ の ~がん治療に役立つエッセンス~
第11回 ケモブレインのおはなし ~世界メンタルヘルスデーに寄せて~

掲載日:2021年10月5日 17時15分

 10月は、ピンクリボン月間と広く認知されるようになってきていますが、シルバーリボンは何のイメージカラーかご存知ですか?  シルバーリボンは、脳や心に起因する病気・メンタルヘルスの関する啓発カラーで、10月10日は、世界メンタルヘルスデーに制定されているそうです。  今回は「がん」治療中の方が経験される、ケモブレインに関して取り上げます。(文=日本対がん協会・かみうせ まゆ)

ケモブレインって何?

 ケモブレインとは、「がん」の治療の中でも、特に抗がん剤治療を受けることが誘因となって、治療中や治療を終えてから、記憶すること、物事を考え判断すること、神経を遣う作業などに支障がでる症状を指します。

 過去のメディアの特集で、乳がん患者さんの体験談が取り上げられていましたが、実はどのがん種でも起こり得る症状のひとつです。  例えば、以下のような症状などが挙げられます。(個人によって症状や程度は様々です)  ①ふだんの生活で、当たり前に行っている作業の手順がわからなくなる。  ②顔なじみの人の名前がとっさに出てこない。  ③いろいろ頼まれ事があったけれど、記憶しきれない。  ④忘れずに飲んでいるはずなのに、薬が余ってしまう。  ⑤受診日を忘れそうになる。  ⑥いま、何をしようとしたか忘れることが多くなる。  ⑦気が散る、集中する作業が難しくなる。


胃がんで治療を受けていたAさんの体験

 Aさんは数年前に勤務していた病院で出会った胃がん治療中の60代の会社経営をする男性でした。  病状説明、2回に分けて行った治療方針説明は、毎回別宅に住む息子さんといっしょに、スーツ姿で来られていました。  主治医からの説明内容を一言一句漏らさないようにメモをとり、わからないことはその都度質問され、最新の胃がんに関するニュースにもアンテナを張り、「一日でも元気に過ごしたい」と話されていました。  飲み薬と点滴の抗がん剤を組み合わせた治療を受けていましたが、3コース目のスケジュールを相談する予定の外来で、Aさんに変化が現れます。  いつもは、スーツ姿のAさんが、部屋着でサンダル姿、無精ひげを生やしていらっしゃったのです。  また、治療ダイアリーのつけ方が変わったことに気づきました。  治療開始当初は、以下のような自由記載のほかに、がんの治療を受ける方向けの治療ダイアリーには、気になる症状は欠かさずチェックをつけられていました。  その他にも、以下のように細かく、いつ誰とどのようなやり取りがあったか記載をされていました。  ○月○日○時〇分、外来でB医師の診察を受ける。  診察の後、C看護師から外来治療室の案内を受ける。  調子が悪い時の連絡先は ○○―△△△△―××××。  抗がん剤を飲み忘れたら、1回分飛ばす。  しかし、抗がん剤を飲んだかどうかのチェック、気になる症状のチェックが抜けたり、それまで細かく記載されていた自由記載はなくなったり、どこか浮かない表情で、活気もありません。 私(看護師) 「Aさん、いつもつけていただいているダイアリー、このチェックが抜けている期間についてお話聴かせてください。」 「抗がん剤は飲めていましたか?調子がわるい期間はありましたか?」

Aさん 「えーっとね、特に何もないというか…   抗がん剤は飲めているはずだけど、あと何日分か、家に残っていた気がする。  手帳を見たら、今日は病院って書いてあったから来たんだ。」  事前に問診した内容を主治医へ伝え、今までとは様子が異なること、抗がん剤が予定通り内服できていないかもしれないこと、体調に異変を生じている可能性について報告しました。  主治医の診察で、既往の糖尿病の値(HbA1C)以外は、大きく心配がないことが説明されました。  主治医の前では、「調子は特に変わらないです。」と話されたAさん。  慎重に3回目の治療日を決めてご帰宅となりましたが……    Aさんの診察が終わってから30分以上経過した後、医療事務スタッフが、Aさんが待合室に座ったままボーっとされているようだ、と教えてくれました。 Aさん 「これから抗がん剤の点滴があるだろ?呼ばれるのを待っているんだ。」 私(看護師) 「今日の診察は、採血と体調確認、3回目の治療日の相談で、点滴はない日と説明がありましたね。次に治療する日までにすることを、一緒に確認してみましょうか?」  外来の窓口で渡された書類を一枚ずつ確認し、外来清算機、病院の玄関まで見送ることにしました。


ケモブレインが現れても慌てず、うまくつきあうために

 最近では、多くの抗がん剤治療が外来通院で行えるようになっています。  しかしながら、治療と仕事を両立していく中で、がんと向き合う中で生じる心理的変化のほかに、ケモブレインによって当たり前のことが思い出せない、仕事でミスにつながるなど、自尊心に傷がつき、治療に専念するか、仕事を休むか辞めるか悩む方が多くいらっしゃいます。  ケモブレインは個人によって症状は様々で、普段の生活に支障が生じる場合とそうでない場合、自覚できる場合とそうでない場合があります。  もしも、抗がん剤治療開始後(治療終了後も)、思い当たる症状がある場合はひとりで抱え込まず、箇条書きで良いので、どのような症状で、普段の生活のどこに支障が出て困っているのか、主治医や看護師にご相談ください。    ケモブレインによるものなのか、脳に病変があるのか、あるいは別の薬の副作用なのか、他の臓器障害によるものなのか、患者さんの声が治療につながります。 参考サイト) 以下いずれも2021年10月5日最終閲覧  1)がん情報サービス もの忘れ、認知機能の低下   https://ganjoho.jp/public/support/condition/cognitive_decline/index.html  2)聖路加国際病院 ケモブレインの謎を解く   https://hospital.luke.ac.jp/about/approach/pdf/ra22/4/research_activities_4_2_1.pdf

 前回までの記事はこちらからご覧ください。
上鵜瀬 麻有(かみうせ まゆ)
 2002年に看護師免許を取得後、大学病院・がん診療連携拠点病院などで勤務。がん化学療法看護認定看護師。  2020年より公益財団法人日本対がん協会 がんサバイバー・クラブで活動開始。  2019年10月~2020年12月まで「忘れえぬ患者さんたち」を連載。  こちらのシリーズでは、がん治療中の方はもちろん、経過観察中や他の病気で通院中の方にも役立つような情報をお届け予定です。
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