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第24回 ゆったり時間のための、「こころの静養」①・日常編
木口マリの「がんのココロ」

掲載日:2019年7月25日 12時00分

 治療中や治療後の療養期間に、あなたはどんなふうに過ごしていましたか。気落ちしているとき、または気持ちは落ち着いているけれど体がうまく動かせないときには、以前と同じ過ごし方をするのが難しいこともあります。そんなときに必要なのは、ゆったりと過ごす時間。言わば、「こころの静養」です。何となく気分が柔らかくなる方法を、私がやってきたちょっとしたことから、2回に分けてお話ししたいと思います。


がん患者といえども、意外に普通

マイ・ベッドサイド・お飾りスペース。看護師さんに「メルヘン」と言われた一角。


 「がん患者」というものになって、手術したり入院したりして驚いたこと。それは、「意外と元気な時間が多い!」ということ。それまで私のイメージしていたがん患者は、「常にベッドに横たわり、弱々しい」様子。 がん患者に限らず、入院して治療しなければならない人というのは概ねそんな感じだと思っていたのだけれど、結構みんな歩き回って井戸端会議をしているし、テレビを見たり、シャワーを浴びたりと普通に生活をしておられる。もちろん具合が悪いこともあるし、手術の傷や薬の副作用で動けないこともあるのだけど、思ったよりも“病人病人”していませんでした。

   しかし、当然ながら病棟という閉鎖的な空間なわけで、遊びの休暇とは違います。できることも行ける場所も限られます。「早く家に帰りたいなあ」と思う人も多いでしょう。

 私はどうだったかといえば、全然帰りたいと思いませんでした。その一番の理由は病棟の看護師さんが素敵な人ばかり(ほぼ)で、入院するのが毎度(9回入院した)楽しみだったためですが、それ以外の、自分でできることでの主な楽しみ方は「快適空間づくり」「日記を書く」「スマホでの撮影」でした。


「何コレ、お部屋!?」な病室

入院に毎度ついてきた子犬(笑)。


 特に長期の入院では、ベッド周りは一番落ち着ける場所であってほしいものです。できる限り「私っぽい」空間にしたいところ。

 私は共同生活があまり好きではなく、一人で静かにいられる、整頓された場所の確保が心の安定にとっても大事。でも個室にするようなお金はないので、4人部屋のカーテン内がマイ・スペースでした。そんなミニマルな空間を最大限に活用していたわけですが、回診にやってきたお医者さんは、カーテンを開けるなり「何コレ、お部屋!?」と声をあげる有様でした。

 といっても、置いていたのは色鮮やかなトートバッグや、姪からもらったネックレスに、数冊の本とノートとパソコン。それに、何といっても癒しアイテムだったのが、小さな犬(の、ぬいぐるみ)。2度目の入院の初日に、姉が病院の売店で買ってきてくれたものです。以降、入院に必ずついてきました(笑)。

 おそらく、物はそんなに必要なくて、アイテムの色合いや、込められた気持ちの度合いが空間づくりには大切なのだろうと思います。


「マチ子巻きのアヒル」効果な日記

ある日の造影剤CTを日記に描く。このあと非常に気分が悪くなったのだけど、イラストだけ見ると何だか楽しそう。

 ノートは日記として使っていたもので、表紙に描かれていたのは「スタバっぽいドリンクをすする、スカーフをマチ子巻きにした目つきの鋭いアヒル」。そんなシュールなのが表紙にいたら、日記も何だかユニークになってしまう……という効果があったかどうかは分かりませんが、日記は確かに、今読み返しても大変興味深く、面白い内容です。

 これまでの人生で日記が続いたことはありませんでしたが、ヒマだし、治療中は初めて出会う物事だらけなので、毎日何かしら書いて(もしくは描いて)いました。

 よく、「なぜ日記が暗くならないのか」と聞かれます。日記は、その日の出来事を綴るだけでなく、自分の思いを吐き出すためにも活用できるものではあります。でも私には、それが逆効果になるように思いました。私にちょうどいい、日記を書く際のポイントは「客観的な記録」だったのです。

 気分が落ちているときは、感情をそのまま書くのではなく、一瞬でも深呼吸をする間を置いていました。すると景色を見るような目線で自分の心を振り返ることができます。

 「○○ということがあって、ひどく悲しい気持ちになったけれど、それはきっと○○が根底にあったのだと思う」とか「○○のとき、○○な風景が見えていた。何でそんなものに意識が向いていたのかを冷静に考えれば考えるほど、自分の思考が笑える」というような。

 おおげさに言うと自己分析のようなものかなと思います。あとで読み返す自分のために書いていた部分もあって、全体の状況や空気感を含め、正確に残しておきたかったようです(たぶん)。

 でもまあ、やはり、落ち着くための一瞬の間合いには、マチ子巻きの目つきの鋭いアヒルが一役買っていたような気もします。今思えば、そもそもお店でそのノートを手に取ったのは、意味もなく「プッ」と笑える愉快さを必要としていたからかもしれません。 というわけで、笑えるアイテムはがん治療にオススメです。


スマホ写真は、思いを伝える手段にも

哀愁の車椅子

カッコいい抗がん剤点滴

 スマホ撮影も、何でもないところに面白味を見つけるのに大変役立ちました。当初は記録として撮っていたのですが、これまたヒマなので、ベッドに横たわったり、病棟をウロウロしたりしながらいろいろなものを撮るようになりました。写真に撮ってみると、普段目にするのとは違う風景がそこにはあります。

 哀愁漂う車椅子、格好よくそびえ立つ抗がん剤の点滴、意外にも怖さのかけらもない深夜の病棟など。退院しても動けないときは、あえて床にゴロンと転がった目線から見えるものを撮ってみたりして。

 自撮りは記録的要素が強かったものの、自分をこれでもかというほど撮れる機会はなかなかなかったので結構面白かったです。このあたりは、ゆったりというよりも普通に楽しんでいたのですが。

 いい写真が撮れたときには、看護師さんに見せることで会話の糸口にもなりました。家族に見せたり、SNSに載せれば、自分の心情を伝える手段になります。たとえ風景の写真でも、言葉で「大丈夫だよ」と言うよりも多くを写真は語ってくれます。

 周囲の人はきっと、それを見て安心するはず。「楽しく写真を撮っているんだな」「きれいな風景を眺められるくらい、元気な気持ちでいるんだな」と、なんとなくホッとしてもらえるでしょう。



 友人のなかには、入院食を毎回素敵なアングルで撮ってレポートしたり、窓際に光で動くおもちゃを置いて、動画を撮ってほくそ笑むという人もいました。肺がん経験者である私の母は、日記にできるだけ感謝の気持ちを書いていたそう。そうすることで、自分の気持ちも温かくなるのだとか。

 そのほかにもたくさんのこころの静養方法があると思います。みなさんの楽しみ方をまとめたら1冊の本ができそう。表紙はもちろん、マチ子巻きのアヒル。

 ゆったりした気持ちになったり、ちょっとした楽しみを持つことは、自分だけでなく、自分を思ってくれる人たちにも良い影響があるように思います。とりあえず一つ、何かをやってみてはいかがでしょう。きっと良い時間に出会えるはずです。

 次回のテーマは「こころの静養」②。「あまり動けないとき、動きたくないときに、ちょっと行ってみる旅」編を書きたいと思います。


木口マリ
「がんフォト*がんストーリー」代表 執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。2013年に子宮頸がんが発覚。一時は人工肛門に。現在は、医療系を中心とした取材のほか、ウェブ写真展「がんフォト*がんストーリー」を運営。ブログ「ハッピーな療養生活のススメ」を公開中。
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