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イベント報告「がんになった経験を社会に生かそう ~自分のため・誰かのため~」

掲載日:2020年1月16日 14時00分

がんになった人の3分の1が働く世代と言われる。一方で、がんサバイバーの就労に対するハードルは、まだ高い。だからこそ、自分の経験を社会に還元していきたい。
 そんな思いを込めて、2019年11月23日、日本対がん協会とNPO法人日本キャリア開発協会は、「がんになった経験を社会に生かそう ~自分のため・誰かのため~」を開いた。

 パート1は「がん患者らのリアルな声」、パート2は「サポートの形をいろいろ知る」の2部構成。北海道から沖縄まで、全国から約180人が参加した。
(文=日本対がん協会・中村智志)

※年齢、肩書はイベント開催時のものです。


会場を埋めた参加者のみなさん。熱気にあふれていた。

出産と乳がん手術を同じ日に経験

 第1部は、「知る ~患者100人の声~」と題して、会場参加型のセッションとなった。
 登壇者は、司会役として、NPO法人がんノート代表の岸田徹さん(32)、一般社団法人ピアリング理事のふくだゆうこさん(41)、人事コンサルタントの熊倉宗一さん(61)、社会保険労務士の近藤明美さん(49)、日本キャリア開発協会のキャリアコンサルタントの砂川未夏さん(45)の5人。

 全員がんサバイバーで、最初にそれぞれ、治療歴も絡めて自己紹介をした。
 トップは、第1部の司会進行も務める岸田さん。「みなさんに多大な迷惑をかけているゆとり世代の第1号です」と笑いを取った。
 大阪府出身。はじめは首の根本が少し腫れてプヨプヨして原因がわからなかったが、約半年後に胚細胞腫瘍(胎児性がん)とわかる。そのときには全身に転移していた。25歳のことだ。27歳でも精巣腫瘍に。抗がん剤治療と手術を経て今に至っている。趣味はアニメの聖地巡礼だという。

 2番手のふくださんは静岡県出身。女性のがんを対象にしたコミュニティ(無料会員制のSNS)「ピアリング」を運営している。もともとはライターで、趣味は写真撮影やイラスト描きという。
 妊娠中だった35歳のとき、乳がんとわかった。出産をあきらめない道をさぐり、帝王切開で出産した日に乳がんの手術を受けた。産後は抗がん剤や放射線治療。38歳のときに、ピアリングの立ち上げに携わった。


岸田徹さん。思わず引き込まれるコミカルな語りを展開した。

会社の乳がん検診で見つかる

 続く熊倉さんは福島県出身。2019年春に、漢方薬で知られるツムラを定年退職し、6月に人事コンサルタントとして独立した。趣味はウォーキング、カラオケ。入社以来営業一筋だったが、47歳で胃がんになり、胃を半分切除した。漢方薬も活用した。健康管理業務で復職支援に携わったこともある。

 4人目の近藤さんは埼玉県出身。趣味はライブ鑑賞で、藤井フミヤのファンだという。出版社で総務の仕事をしていた33歳のときに健康診断で乳がんが発覚。女性が8割の会社で、ちょうど乳がん検診、子宮がん検診を入れた年だった。
 治療を経て復職したが、やがて会社が倒産。それから社労士を目指した。一般社団法人CSRプロジェクトという患者支援団体のメンバーになり、約10年、就労支援活動をしている。

 最後は砂川さん。神奈川県出身。趣味はパステルアートで、先生になるほどの腕前だ。29歳のとき、結婚・転職してすぐに検診で見つかった。
 寛解して10年が経ち、終わったと思ったら今度は乳がんに。2、3年迷走していたときにキャリアコンサルタントという仕事に出会い、これだと思った。命を救われた気持ちで再出発した。「長くがんと付き合う気持ちでいます」という。


人事コンサルタントの熊倉宗一さん。社内規定を知らないという会社員にありがちな盲点についても語った。

  

上司以外には言えなかった

 自己紹介が終わると、岸田さんが投げかける質問に、会場の人たちがスマホを利用して回答するというスタイルで進行した。

「どこから来たか」「立場(患者、キャリアコンサルタント、家族、職場関係者など)」といったプロフィールに続いて、患者の人たちへの質問として、「みなさんはがんと会社に伝えたか?」。「伝えた」が9割、「伝えていない」が1割だった。

 結果を見て、岸田さんが語る。「僕は親より先に上司に伝えました。完全なる社畜ですね(笑)。明日の営業のアポ行かれへんやん、という心配をしていた」。
 もっとも、首が腫れて検査に行っていたこともあって、周囲の理解は早かったという。岸田さんに振られて、当時は外資系のカフェチェーンに勤めていた砂川さんが答えた。

「私は、上司以外には言えなかったんです。最初は『筋肉の塊です。手術すれば治る』という診断で、周囲にもそう話していたので、実はがんだと明かせなかった。言うのも怖かった。そのあと転職したときには副作用などで業務に支障がなく、また土曜日通院だったので、言わなくてすみました」

 次の質問は「職場の誰に伝えたか?」(複数回答)。上司が8割以上、同僚が5割、人事は4割、社長・役員は3割。診断時には、若い人が中心のアパレルの通販会社で働いていたふくださんがコメントした。

「がんかわかる前から、同僚に『検査に引っかかった』と話していました。人事に産休を申し出るついでに『実はがんなんです』と話しました。絶句って感じでした。復帰後は、仕事をしているほうが気がまぎれてよかったです。髪が抜け始めたときに隣の人に見せてびっくりさせたり。みんなと一緒にネットでウィッグを見たり。『いいなあ、私もほしくなってきた』なんて反応もありました」

 ふくださんは、洋服に合わせてウィッグを替えた。それが評判がよかったという。いかにもアパレル関係の会社らしい。業務委託で毎日出勤するわけではなかったので、治療スケジュールも組みやすかったという。


ピアリングのふくだゆうこさん。ピアリングではみんな当事者だから話しやすい、という人も多いという。

なんて声をかけていいか、どこまで聞いていいか

 3番目の質問は「会社にどのタイミングで伝えたか?」。診断後が7割、診断前が3割近く。復帰後、治療後という人もわずかながらいた。近藤さんがマイクを握った。

「課長には、診断前から検査を受けることを伝えました。診断直後も、電話で報告しました。『今から会社に来られるか』と聞かれたので、『行けます。ただ、お昼食べてからでもいいですか』と。課長の言い方が優しかったんですね。言い方ってすごく大事だと思った。会社では、社長にも一緒に話しました」

 岸田さんも、「おまえが戻るまで待っているから!」という社長の言葉に支えられた。その後も、ベンチャー企業らしく、柔軟に対応してもらったという。
 ふくださんによると、ピアリングには、「会社で誰にも言えない」「ママ友に隠している」といった書き込みも多いという。「隠している人ってたくさんいると思います。二極化しているのでは?」。
 熊倉さんも、社内報でカミングアウトしたあとに、「実は私もがんでした」と明かされた経験が何度かある。

 一方、職場の同僚からは、「なんて声をかけていいか」「どこまで聞いていいのか」といった戸惑いが多い。近藤さんが語った。
「対話が大事です。私のスタッフもいま、治療中です。何かを強制しないで、こういうふうにできるかな、と言うなど気を付けるようにしています。橋渡し的な役割を持つ人が間にいればいいかなと思うときもあります」
 
 砂川さんも応じた。
「どうしたいのか、本人も職場もわからないことがある。第三者の専門家にそれぞれが対話することで、新たな視点や活路を見いだせているんじゃないかな。たとえばキャリアコンサルタントに話すことで、問題点が見えたり、表の問題点の背後にある本当の課題が見えることもあります」

 最後の質問は、「がんと仕事の両立についてどう思うか?」。「本人の意思次第」が7割近く、「できる範囲で」が2割5分、「しっかり休む」が1割弱。

 熊倉さんは、「しっかり休む」派。焦って復職してまた休む、を繰り返すよりは、勤務先の規定や制度を駆使してしっかり休んだほうが結果的には長く働けるという。
 ふくださんは「がんの当事者には、わかってもらえないという悩みがある。会社は、社員とゆっくり話し、働きやすい環境をつくってもらえれば」と期待を込めた。


参加者の回答が、リアルタイムで会場前方のスクリーンに映し出された。

参加者全員、音楽に合わせて体を動かす

 第1部が終わり、フィットネスの時間となった。一般社団法人「キャンサーフィットネス」の広瀬真奈美代表理事は、10年ほど前、仕事で夢をつかんだ矢先に乳がんになった。手術や治療で腕は上がらないし、胸もしびれる。介護も育児もある。退院するとリハビリも受けにくい。そこで、キャンサーフィットネスの活動を始めた。

「運動して、リハビリもできて、体力付けて、健康管理の知識を楽しく付けて社会に復帰してもらう。そんな活動をしています。1日30分のウォーキングでも5日間で150分の有酸素運動になります。筋トレ、ストレッチも大切です」
 それから、参加者全員が、音楽に合わせて、ストレッチ、足踏み、手足を伸ばすなどの簡単な運動をした。会場がグッと柔らかくなった。
 

体を動かす参加者のみなさん。少しの運動でも気分転換になる。

制度を1つ理解するだけでも心が軽くなる

 第2部では、「いろいろなサポートの形」と題して具体的に考えた。
 社労士の近藤さんは、よくある相談を大きく3つに分けて提示した。
 1つ目は「現状・今後の働き方」。具体的には、①どんなふうに働いたらいいか、②無理をして働くのがつらい、③退職するかどうか、という悩みだ。

 2つ目は「会社への伝え方、相談方法」。①どうやって伝えたら理解してもらえるか、②周囲にあまり伝えないで働き続けるにはどうしたらいいか。
 3つ目は「社会保険制度」。情報がありすぎてかえってわかりづらく、①自分は何を活用できるのか、②今利用している制度以外にも使える制度はないか。

 これらに対して、近藤さんは、相談者の事情(症状、治療など)を聞き、勤務先の就業規則も確認しながら、どんな制度があるのかを探る。有給休暇の時間給や半日休などは、制度がない会社も多い。高額療養費、傷病手当金、雇用保険、障害年金などの手続きの方法、勤務先との話し合いの助言などまでする。

「相談で制度を1つ理解できる、少しでも方針が見えるだけでも心が軽くなります。また、こうした相談の奥に、職場の人間関係、新たなキャリアをどう積んだらいいかという悩みがあるケースも多いので、まずはじっくり話を聞きます」

 治療を経て勤務形態や業務内容を変えざるを得ない人も少なくない。相談者が気持ちを言葉にすることも大切だという。


社会保険労務士の近藤明美さん。日本対がん協会でも、無料電話相談を受けている。

人生全体を応援するのがキャリアコンサルタント

 ちなみに、再就職や転職の際には、事業所に対して、病名を自ら開示する必要はない。現実には、面接時に必要に応じて開示するケースが多い。ハローワークでは、担当者からほかの人の事例も聞ける。東京なら、国立がん研究センター中央病院や都立駒込病院で出張相談があるほか、東京都難病・がん患者就業支援奨励金も準備されている。

 キャリアコンサルタントの砂川さんも、がんの背景にある、育児や介護なども複合的に見ながら相談を受けるという。正社員か契約社員、派遣社員かなどでも支援方法は変わる。
「キャリアコンサルタントは、仕事を中心に人生全体を支援していきます。日本キャリア開発協会では、治療と仕事の両立支援プロジェクトを全国でやっています。リレー・フォー・ライフにも参加しています。地域の中でつながろう、と」

 同協会は30分無料電話相談などを行っているが、支援の柱は大きく3つ。どんな職業選択があるのか、どんな人生設計をするのか、治療とともにどう生きていくのか。

「人生の色合いが変わり、みなさん、葛藤を抱えています。仕事、お金、介護、育児……離婚の相談もある。答えはすぐには出ないが、選択肢を広げることが大切です。相談者は人それぞれ。全く同じ選択はない。じっくり聞くことで、どうしたいかが自然と見えてきます。その人らしい軸が見えてくると、納得感を持って自分らしい選択ができるようになっていきます」


キャリアコンサルタントの砂川未夏さん。会場では日本キャリア開発協会による個別相談も開かれた。

治療が終わるまでにいくらかかるか知りたい

 第2部に続き、この日の話も踏まえて、数人のグループごとにわかちあいの時間を持った。
 あるグループでは、上司に「無理しなくていいよ」と優しく言われても、「仕事ができないと辞めなければならないのでは、と追い込まれてしまう」と不安を語る女性がいた。「お金のことは相談しづらいけれど、みんな悩んでいる」と打ち明ける女性も。

 こうした声を受けて、2011年12月に告知を受けた、独身で派遣の仕事をしている乳がんサバイバーの女性が、グループを代表して全員の前で発表した。

「1回の抗がん剤でいくら、この薬にいくら、という情報はあります。しかし治療が終わるまでに大体いくらかかるのか、はどこにも載っていない。でも、生活の見通しを立てるためにも、治療費についての情報がもっとあったらいいと思いました」

 最後に、日本キャリア開発協会の佐々木好・事務局長がまとめた。
「支援を受ける側、提供する側というのは固定した関係性ではありません。誰でもどちらの側になりうる。垣根を越えて一緒に取り組んでいくことが必要でしょう。支援を受けた経験、提供した経験、失敗した経験などを寄せ合って、そこから考えていけることがあるだろう。そういう思いで、今回のイベントを企画しました」


イベントの最後は、少人数のディスカッション。話し合うことで、課題が見つかったり共有できたりする。

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