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星湖舎・金井一弘の「読み逃したくない1冊」
第2回 作家は医師とどんな会話を交わしたのか
篠田節子『介護のうしろから「がん」が来た!』

掲載日:2020年2月21日 11時39分

乳がん手術に向かう人にも参考になる

『介護のうしろから「がん」が来た!』(集英社)、1300円+税

 2019年も、書店に流通しているものだけで130冊ほどの闘病記を確認している。がんに関するものは61冊と他の病気に比べて相変わらず多数を占めている。乳がんの闘病記が多く、11冊が出版された。

 第1回はその中から、篠田節子著『介護のうしろから「がん」が来た!』(集英社)を取り上げる。

 著者は1997年に『女たちのジハード』で直木賞を受賞した人気作家である。2008年3月、右乳頭からの分泌液で乳がんを疑い、乳腺クリニックを受診。本書では、乳がんの告知から聖路加国際病院(東京・築地)での全摘手術、そして退院までの克明な経緯が描写されている。

 手術前後や退院後に待ち受ける患者自身でやらなければならないこと、例えば胴部の洗浄とか傷を縫った部分のテープの貼り替えのことなども書かれていて、これから乳がん手術に向かう本人や家族にとって大変参考になる。

 また、「子宮も乳房も身体の一部だが、それを失うことと女性性の喪失とは無関係だ」などの本質的な洞察もある。

 右胸の全摘・再建をした後に、両者の違いについて、「再建側はわりとしっかりしたゼラチンか大きなグミみたいな感触だが、本物は柔らかな大福餅だ」といった作家らしい表現も随所で光り、明るい気分で読める。


医師たちとのコミュニケーションについて

 巻末には、形成外科の担当医との対談が掲載されている。本文中にも医師や看護師と親しく会話する場面がよく出てくる。

 還暦過ぎての再建に悩む著者の思いをぶつける場面や、おまかせにして「思ってたのと違う!」とならないために医師に確認しておかなければならないことなど、重要な会話が掲載されている。例えば、人工物を入れる再建はオーダーメイドではないので、片方とぴったり同じといかないことを具体的に納得しているか、合併症のリスクをどの程度理解しているかなどだ。

 賢い患者になるためには、医療従事者とのコミュニケーションが大切といわれているが、どのような会話を医師たちと交わしたのか、ぜひとも参考にして欲しい。


介護と治療の両立に必要なことは?

 著者は認知症の実母の介護もしている。この本の後半3分の1は、母親の介護について書かれている。

 治療と介護を両立させるためには在宅介護だけでは無理なこと。二度や三度施設から断られても真摯な対応をする相談員と出会うまで、何度も受け入れ先の施設を探すこと。ホームページでは実態がわからないので「まずは見学、何をおいても見学」、そしてどの施設も満杯なのが現実なので「とりあえず全部登録してしまう」ことが重要と説いている。

 著者は介護老人保健施設に14カ月間母親を看てもらったお陰で、自身の検査ができ、がんが発見され、治療ができたのである。体の変調を感じても、世の多くの介護者は、自分のことを後回しにして、取り返しのつかないことになる。

 在宅介護に心身の疲労が限界を超えていると感じている方々にも、ぜひ読んでいただきたい1冊である。

金井一弘(かない かずひろ)
株式会社星湖舎(せいこしゃ)社長、NPO法人大阪公立大学共同出版会(OMUP)編集長。1956年、大阪府生まれ。99年に星湖舎を立ち上げ、主に闘病記や障がい者の本を出版している。良い闘病記には、「宗教や健康食品、民間療法に導かない。家族や会社・学校との関わりや社会情勢が描かれている。病院や医師の批判に節度がある。治療過程がしっかり書かれている」と考え、他社の本も“診断”し、普及活動に取り組んでいる。毎年100冊以上に目を通す。星が好き。

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