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第51回 がんを公表したとき  〜ブログや活動を始めるまでのココロの動き〜/木口マリのがんのココロ

掲載日:2020年10月23日 11時30分

「がんになった」
 それを人に伝えるには、なかなかの労力が必要です。

 がんといえば、「死んでしまう病気」「治療が辛い」など、固定されたマイナスなイメージばかりがあるだけに、伝えた相手に「どんな反応をされるだろうか」と思うと、結構勇気がいります。

 
 今では完全にオープンな私ですが、かなり悩んだ時期もありました。しかし、公表してみたことで、何かが動き出したとも思っています。

身近な人には「軽いノリ」

反応への不安は、薄い曇り空のようです。

 私が最初に伝えたのは、確か友達だったと思います。告知の翌日に地ビールの試飲会のようなものを企画していて、その終盤に「昨日、病院に行ったんだけどね」と話をしました。
 気心の知れた友人たちは、だいたいどんな反応をするか想像がつきます。そのため、このときはあまり勇気もいらずにサラリと言葉にすることができました。友人たちも、サラリと受け止めてくれたようでした。

 仕事関係の人たちには、ほぼ普通の会話のように。それぞれ二人きりになれるときを見計らい、友達に話したのと同じくらい明るい雰囲気で話しました。これまたよく知った人たちだったためか、特に緊張はしませんでした。
 相手によっては病名まで言わず、「ちょっとびっくりするような病気になりまして」と言うことも。そのときの自分の気持ちによって、使い分けていました。

 家族(特に母)に対しては、友人や仕事関係の人たちよりもかなり慎重になりました。きっと私が想像する以上に強いショックを受けるだろうと思ったからです。
 そこでやってみたのが「さらに軽い調子」。 一緒に歩きながら、「いや〜、実はねえ」と、ちょっと笑ってみたりしながら伝えることに。

 それは母への衝撃を和らげるためではあったけれど、自分のためでもありました。ショックを受ける母を見たときに、自分がそれに耐えられる気がしなかったのです。「あまり深刻な顔をしないでほしい」という気持ちが、私の「軽い調子」には込められていました。

 こうやって見ると、「身近な人に対しては軽いノリ」が私の作戦だったようです。

もっと多くの人に知ってもらいたい……、けど!

なかなか「投稿」ボタンを押せない葛藤を繰り返し、行き着いた先は……!

「……あれ? あまり悩んでいないではないか!」とお思いでしょうか。
 いえいえ、悩んだのはこれからです。

 手術で終わるかと思いきや、予想に反して抗がん剤まで始まってしまったころ、「がんになったことを、もっといろいろな人に知ってもらった方がいいのでは」という気持ちが湧いてきました。

 その理由は、「多くの人は、がんや、がん治療のことを知らなすぎる」と実感したから。がんになる以前の自分も含め、「こんなに知らなければ、怖くなるのは当たり前だ」と思いました。

 例えば、がんであっても簡単な治療で治るものもあったり、怖い面ばかりが目立つ抗がん剤治療も、日常生活を送りながら行える人も意外と多かったり、場合によっては仕事もできるなんて、あまり知られていません。
 そんな「できること」も知っておけば、がんが自分や家族の身に起きたときにショックを軽減できるかもしれません。

 顔見知り程度のつながりであっても、「あの人、がんなのか!」と知れば、少しは関心を持ってもらえるはず。がんを身近に感じてもらえるかもしれない。そのためにSNSで公表しようと考えました。

 ところが、これがなかなか難しい。実行するための、最後の一押しが効かないのです。

「投稿」ボタンが押せない!

 SNSは、面と向かって話すのとは違い、どんな反応をされるかわかりません。子宮という、女性器のがんであることにも引っかかりがありました。知識のなさから偏見の目で見る人も、なかにはいます。

「大半の人が応援してくれるはず」とわかっていても、心ないことを言う人がいるかもしれない。負の声は、応援よりも遥かに大きく聞こえてしまうものです。

 投稿文を書いても、「投稿」のボタンの上で指が固まってしまい、押せずに閉じることを何度も繰り返しました。当時の日記を見返すと、2カ月にわたり4回もそのことに触れていました。改めて、ずいぶん悩んだのだなと思います。

 そこまでがんばらなくてもいいのではと思うかもしれません。しかしこれはもう、私なりの正義でしかない。それに、ここでのがんばりが、今後の自分のためにもなるような気がしていたのです。

優しく受け止めてくれた人たち

開設したブログ。そのころはほぼ1日おきに更新していました。

 結局、「エイヤッ!」とボタンを押したのは、抗がん剤治療も終わりに差しかかった、5回目の投薬のときでした。
 投稿すると、「いいね」やコメントがどんどん入ってきました。マイナスなものなどなく、じんわりと心に響く言葉が並んでいました。「何でもやるよ!」と書いてくれたり、「がんには笑いがいいらしい」と言って笑い話(下ネタ)を送ってくれたり(笑)。

 人の心というのは、本当にいいものです。それに接することができたのは、がんになって得た、一つの財産とも言えると思います。


 その後間も無く、もっと多くの人に伝えられるよう、がん体験や、体験から見つけたものをまとめたブログを開設しました。タイトルは「ハッピーな療養生活のススメ」です。

 それがやがて新しい仲間との出会いや、がんをめぐる活動、ゆくゆくはこの「がんのココロ」にも続いていくのですが、そもそもの始まりは、一歩踏み出して「投稿」を押したことと、私の気持ちを優しく受け止めてくれた人たちがいたことかもしれないと、今になって思っています。

 がんになったことをだれかに伝えるか、もしくは伝えないかも、人それぞれです。どちらがいいのでもありません。自分の心に問いかけてみて、心地いい方でいいと思います。
 ただ何であれ、やってみると何かが動いていくものです。小さな動きであっても、そこからの広がりはさまざまな可能性に満ちています。

木口マリ

「がんフォト*がんストーリー」代表
執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。2013年に子宮頸がんが発覚。一時は人工肛門に。現在は、医療系を中心とした取材のほか、ウェブ写真展「がんフォト*がんストーリー」を運営。ブログ「ハッピーな療養生活のススメ」を公開中。

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