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佐々木常雄の「灯をかかげながら」
第11回 コロナ流行でもがん治療は進歩している

掲載日:2021年1月19日 15時00分

 ゲノム解析レポートが示す最適の薬

 今年の年賀状は、いつもと違って「コロナ終息の願い」、「遅い感染対策」などの言葉が目立ちました。そして、最近のテレビ、新聞では、医療崩壊の厳しい状況が報道され、「コロナ専門病院」化など、心配な状況が続いています。

 昨年の1年間、あえて何か良かったことがあったかを探すと、たくさん本が読めたこと、ラジオでクラッシック音楽をたくさん聴けたことくらいでした。じっと我慢して、自粛、自粛、感染に気をつけて、流行がおさまるのを静かに待つしかないのか、ワクチンはいつになるのか、もっと明るい話題がないかと思いながら過ごしていました。

 先日、がんの患者Aさんのゲノム解析結果レポートが送られてきました。

 Aさんは、2年前、腎臓がんの手術をした後、再発予防の抗がん剤治療を行ったにもかかわらず、がんが肺にたくさん転移した方です。

 

 もう諦めざるを得ないような状況と思われましたが、免疫チェックポイント阻害薬の投与で、ほとんど治癒したと思えるほど劇的な効果がありました。そのまま定期的に治療を続けて、現在は元気に過ごされているのです。

 そのゲノム解析レポートは、Aさんのがん組織の遺伝子変異量が多いことなどが記載され、現在使用中の薬剤が最適であることを示していました。

 私は、このようなゲノム解析レポートを見たのは初めてでした。免疫チェックポイント阻害薬がよく効いて良かったと思いながら、なぜよく効いたのか、詳細は分からずにいたのです。しかし、ゲノム解析レポートでは、しっかり遺伝子を分析してあり、私はとても感心して読んでおりました。


 CAR-T療法で劇的な効果

 そこに、また、しばらくぶりで後輩のS腫瘍内科医から喜びのメールが届きました。

 CAR-T細胞療法(CAR-T療法)という新しい治療法で、難治の悪性リンパ腫に劇的な効果があったというのです。

 CAR-T療法は、難治性のがんに対するがん免疫療法です。患者さん自身のリンパ球の中のT細胞を取り出し、CAR(キメラ抗原受容体)と呼ばれる特殊なたんぱく質を作り出せるようにしたのです。

 CARは、がん細胞の表面に発現する特定の抗原を認識して、攻撃するように設計されています。CARを作り出せるようになったT細胞をCAR-T細胞と言います。このCAR-T細胞を患者さん自身に投与するのです。

 この治療法は、保険適応となっていますが、まだごく限られた施設でしかできません。また、日本ではCAR-T細胞を作る施設がないため、リンパ球をアメリカの研究所に送らなければなりません。

 こうした課題があるものの、CAR-T療法は、科学的エビデンスに基づいた最新の免疫療法なのです。民間療法での眉唾的な免疫療法とはまったく違うのです。


 抗がん剤が要らなくなる時代が見えてきた

 私は、約40年間も抗がん剤治療に明け暮れてきました。

 私たちは40年前に、「30年後、あるいは40年後には、がんは解決しているだろう。きっと40年も経ったら、すべてのがんは薬で治る時代になっている。私たちのがんの仕事はなくなる」そんな漠然とした夢を描いていました。

 しかし、あれから実際に40年経ってみて、まだまだ、進行したがんの患者さんも、医師達も苦労しています。

 それでも、今回の、ゲノム解析結果レポート、CAR-T療法をみると、明らかにがん治療は進歩しているのです。

 私には、抗がん剤が要らなくなる時代が目に見えてきた、そして、むしろ自分の身体の免疫をどうコントロールするか、がんに対してだけでなく、より総合的な力が求められる時代になってきたように思えました。


シリーズ「灯をかかげながら」 ~都立駒込病院名誉院長・公益財団法人日本対がん協会評議員 佐々木常雄~

がん医療に携わって50年、佐々木常雄・都立駒込病院名誉院長・公益財団法人日本対がん協会評議員の長年の臨床経験をもとにしたエッセイを随時掲載していきます。なお、個人のエピソードは、プライバシーを守るため一部改変しています。


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