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佐々木常雄の「灯をかかげながら」
第13回 新しい がん治療 CAR-T細胞療法

掲載日:2021年5月25日 13時00分

遺伝子改変の技術を用いた新しい治療法 

 テレビは、毎日が新型コロナ流行の話題でいっぱいです。

 がんの薬での治療法は、いまどうなっているのか。今回は新しい治療法の明るい話題を報告します。

 がんの免疫療法は20世紀においては、動物ではその効果が証明されても、臨床では眉唾の、いかさまを思わせる治療法でした。

 しばしば「がんの免疫を上げる治療法」と聞くと、「またか、患者さん、騙されないでね」と思っておりました。

 3年前、本庶佑先生が「免疫チェックポイント阻害剤」でノーベル賞を受賞されました。この治療薬はいろいろながんで効果をあげています。

 そして、この治療法の後に、科学的根拠に基づく、遺伝子改変の技術を用いた、CAR-T細胞治療法が出現しました。再発または難治性のB細胞型悪性リンパ腫と急性リンパ芽球性白血病に保険適用となって治療が行われています。

 これはまったく新しいがん免疫細胞療法です。

 この治療では、まず患者の白血球のリンパ球T細胞を採取し、T細胞は、遺伝子導入によってキメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor:CAR)が組み込まれ、CAR-T細胞と呼ばれる細胞に造り変えられます。CAR-T細胞は患者に戻され、「CD19」と呼ばれる抗原を発現するB細胞性の腫瘍(B細胞型悪性リンパ腫と急性リンパ芽球性白血病)を認識して攻撃します。CAR-T細胞は、その細胞自身が、患者の体内で増えることができることから、1回だけの治療で済むのです。

 駒込病院の腫瘍内科下山達医師らの報告では、抗がん剤、分子標的治療薬ではその効果が難しくなった17例中10例で、悪性細胞が消えた(完全寛解)とされています。


造るのに時間がかかるCAR-T細胞 

 問題は3点ほどあります。ひとつは、CAR-T細胞を造るには時間がかかることです。まず、病院で患者さんからリンパ球(T細胞)を採取し、製造施設に送らないといけません。造ったCAR-T細胞の培養にも時間がかかります。そのため患者からT細胞を採取してから、CAR-T細胞となって、治療として患者に戻すまで、約6週間から8週間かかるのです。この間に患者はリンパ球除去化学療法等を受けるのですが、待っている間に病状が悪化することが心配されるのです。

 2つ目の問題は、この治療での副作用です。CAR-T細胞や他の免疫細胞治療で、サイトカインと呼ばれる物質が放出されます。これによって、腫瘍細胞だけでなく正常細胞まで攻撃されてしまうことがあるのです。

 そのため、炎症反応が起こり、微熱・発疹・意識障害などの症状が報告されています。また、神経毒性として、脳症(失語、見当識障害など)があるようですが、多くは一過性で自然に軽快するようです。


高額の問題もあるが、この治療法は大きな希望に 

 3つ目の問題は価格です。1回の治療で済むとはいっても、1患者当たり3265万円(最近下げられた価格)と過去最高額なのです。それでもアメリカではこの約2倍、ドイツでも日本よりも高額です。

 もちろん、「高額療養費制度」の適用が認められています。医療費の自己負担額が所定の限度額を超えた場合、公的医療保険から払い戻しを受けられます。自己負担限度額は年齢や所得等によって変わりますが、高額療養費制度が適用されることで、経済的負担を減らすことができます。

 以前も、免疫チェックポイント阻害剤の高額が話題となりましたが、この治療よりも更に高額なのです。いろいろな問題はありますが、しかし、命にはかえられません。

 これまでの治療で、効かなくなった、効果が認められないとすれば、この治療法は、大きな希望となります。

 科学的な、根拠のあるがん免疫療法は、新しい時代に入ったのです。この効果をみると、抗がん剤が主役ではなくなる時代がくるのではないかと思うほどです。

シリーズ「灯をかかげながら」 ~都立駒込病院名誉院長・公益財団法人日本対がん協会評議員 佐々木常雄~

がん医療に携わって50年、佐々木常雄・都立駒込病院名誉院長・公益財団法人日本対がん協会評議員の長年の臨床経験をもとにしたエッセイを随時掲載していきます。なお、個人のエピソードは、プライバシーを守るため一部改変しています。


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