新着情報

上園保仁の 『選べる・選んだ「漢方薬」があなたの心と体を楽にします』
第5回 日本で発展した漢方薬…ですが、古(いにしえ)のレシピを踏襲しています

掲載日:2023年2月20日 8時16分

 漢方薬は、中国で生まれた「生薬を用いて創られた伝統医薬」が日本に伝わり、日本人の体質、日本の土壌(どちらも中国の人、中国の自然とは違いますよね)に合わせて独自に発展したものです。漢方医学の理論も日本オリジナルのものがあります。



 漢方薬は、生薬を細かく刻んで調合し煎じ薬としてお湯で煮出すなどして服用されてきました(もちろん今もその方法で服用可能で、漢方専門薬局ではそれらの生薬を売っています)が、漢方薬の製造工程がやや煩雑であり、安定した品質のものを常には供給しにくいということから、エキス剤(漢方製剤)が普及してきました。エキス剤は顆粒、カプセル、粉剤、錠剤の形で販売されています。また、日本では1967年(昭和42年)より漢方製剤に健康保険が適用されるようになり、現在では148種の漢方製剤が健康保険でカバーされています。すなわち、お医者さんが処方してくれる漢方薬、医療用漢方製剤のことです。その一方で、薬局やドラッグストアで市販されている一般用漢方製剤も294種類あります(図1)。医療用漢方製剤と全く同じ内容で薬局等で購入できる一般用漢方製剤も144種類あります(ほとんど買えますね!)。




 さて、図2を説明します。これは現在使用されている148種類の医療用漢方製剤のオリジン(源流)を示したもので、数字は現在の主な医療用漢方製剤の製品番号です。漢方薬のオリジナルとなる生薬を用いて作られた製剤は、中国で2〜3世紀に著書としてまとめられた「傷寒論(しょうかんろん)」および「金匱要略(きんきようりゃく)」にその源流を見ることができます。図2をよく見ていただくと、2〜3世紀に作られた生薬製剤が実は現在の医療用漢方製剤で一番多く活用されていることがわかります。その後、中国そして日本においても、時代時代でその時の「新薬」が創られてきました。たとえば、食欲不振によく用いられている六君子湯(43番)は16世紀の中国の書物「万病回春(まんびょうかいしゅん)」に初めて登場します。また、日本で作られて現在も使われている、いわゆる「和製漢方薬」も存在することがわかります。一方、現在使われている漢方薬の中には出典不明というものもあるんですね。おそらく図2に示してあるもの以外にもたくさんの生薬製剤が中国や日本で作られてきたのでしょうが、あまり効かないものや安全性に問題があったものは淘汰されたんだと思われます。つまり、今も残っている漢方製剤は、いわば生薬製剤のエリートと言えるかもしれません。古(いにしえ)から歴史を経て経験に基づいて生薬製剤を「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤して創ってこられた先達に思いを馳せながら、現在まで脈々と続いている漢方薬を私たちは感謝して使っていきましょう。


【豆知識】

 2〜3世紀にまとめられた生薬製剤は、その当時、生きていくのがやっとという世の中で、感染症や傷の手当てなど急性期の疾患の症状改善のために用いられていたものと想像されます。この当時、日本は弥生時代ですよね。先進国中国!ですね。今、そんな時代に創られたものが漢方薬の中心を占めています。感染症、創傷対策に使われてきた生薬製剤は、今、がん患者さんの体調維持、副作用対策に重宝されています。歴史を超えて「素晴らしいものは、素晴らしい」ですね。



上園保仁(うえぞの・やすひと)

東京慈恵会医科大学疼痛制御研究講座特任教授

1985年 3月 産業医科大学卒業、医師免許取得
1989年 3月 産業医科大学大学院修了、医学博士取得
1991年 1月 米国カリフォルニア工科大学留学
2004年11月 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科内臓薬理学 助教授
2009年 1月 国立がんセンター研究所がん患者病態生理研究部 部長
2015年 5月 同センター先端医療開発センター支持療法開発分野 分野長 兼任
2016年 1月 同センター中央病院支持療法開発センター 主任研究員 兼任
2020年 4月 東京慈恵会医科大学疼痛制御研究講座 特任教授
2020年 4月 国立がん研究センター東病院支持・緩和研究開発支援室 特任研究員 併任

ぜひメールマガジンにご登録ください。
ぜひメールマガジンに
ご登録ください。
治りたい
治りたい
治りたい
治りたい
治りたい