誰もなりたくないけれど、なってしまったならしょうがないのが、がん治療後の「後遺症」。私もさまざまな後遺症・合併症と付き合いながら暮らしています。
そのひとつが「リンパ浮腫(ふしゅ)」。手術でリンパ節をとった影響でなる場合があるもので、私は術後数年が経ったころ、両足に発症しました。
足のリンパ浮腫のケアで活躍するのは「弾性ストッキング」。「男もののストッキング?」と聞かれることがありますが、男性ではなく弾性です。いわゆる医療用の装具で、街なかで手に入る着圧タイツよりも圧力がかなり強いのが特徴です。
消耗品のため定期的に2足ずつ買い換えるのですが、そのうち1足は、ちょっと変わった色を選ぶようにしています。
なぜなら、その方が楽しいから!!
しかし、その分ハズレを引くこともあります。想像していた色と違い「ええっ!」と仰天するものが来たこともあります。でも、それもひっくるめて面白い。それが、弾性ストッキング!
●さすがに履けない、「どピンク」のストッキング!
医療用の弾性ストッキングは、そこらへんには売っていないうえ、けっこう高額。医師の指示で装着するため、ありがたいことに健康保険が効くものの、それでも高い。
私の使っているものは1足2万円くらいで、保険で3割負担でも6000円。それを2足買うと、毎回12000円。高い、高すぎる! しかも購入時は全額(2足で4万円)を支払い、自治体に申請すれば数カ月後に保険の分が戻ってくるというシステムなので、事前にそれなりのお金が必要。
「なりたくてがんになったわけじゃないのに、リンパ浮腫はつらいし、お金もかかるし、トホホ……」というリンパ浮腫患者さんの心の声が聞こえてくる気がします。
「それでも買わねばならぬなら、ちょっとでも楽しい方がいい!」というわけで、いつも変わり種の弾性ストッキングに目を光らせています。
実は、弾性ストッキングの多くは外国製。ドイツやフランスなどから海を渡ってやってきます。日本で取り扱っている会社がいくつかあり、国内に在庫のある黒やベージュはすぐに手に入るのだけど、私が注文するような変わった色はだいたい本国から取り寄せになります。
冒頭で「仰天した」と書いたのは、Medi(メディ)というドイツのメーカーのマゼンタという色でした。カタログではとてもキレイで落ち着いた、ピンクと赤の中間くらいの色のように見えました。
「組み合わせ次第ではカッコよく着られそう!」と思って注文したのだけれど、やってきたのは度肝を抜くショッキングピンク。なぜMediは「この色を作ろう」と思ったのか!? (あとで知ったのですが、マゼンタはMediのシンボルカラーらしい)
「履いてみると案外いいのかも……」と試してみたものの、目がくらむようなピンク色に断念。キグチ程度のファッションセンスじゃ到底着こなせる気がせず。
もったいないのでサンプルとして病院のリンパ浮腫外来にあげようとしましたが「いらない(笑)」と言われてしまいました。現在は、卵巣がん経験者の大塚美絵子さんが運営する弾性着衣のお店「リンパレッツ」でサンプルとして活躍中。お客さんに見せると、みなさん大ウケなのだとか(しかし注文する勇気のある人はいない)。
きっとこのマゼンタは、みんなにスマイルを届けるためにドイツからやってきたに違いない。
●今度はグレーでびっくり
つづいて、先日注文してみたのは「グレー」。ドキドキしながら到着を待っていると、またしても面白いことになってしまいました。
検品をした大塚さんから「色が想像とかなり違っていて、頭を抱えています」と、連絡をもらいました。
「カタログを見比べてみたのですが……」と大塚さん。メーカーのサイトには、何カ所かに色見本が載っているそう。しかし、それぞれの色見本ごとに色がバラバラなのでした。おまけに商品は確かにグレーだけどカタログのどれとも違う。紙のカタログとも違う。
マゼンタの経験から「予想外なものが来る」というのは想定済みでしたが、メーカー内でもそんな感じだとは(笑)。これはもう、「そういうものなのだ」と考えるしかない。逆にそのユルさが海外ぽくていい。
●「きちんと」な世界観から抜け出してみる
ここで、ふとある話を思い出しました。イラストレーターたかぎなおこさんのコミックエッセイ『アジアで花咲け! なでしこたち』(メディアファクトリー)の一節です。
この本は取材して描かれたドキュメンタリーで、アジアで働くステキな日本人女子4人が登場します。そのうちの1人、カンボジアで雑貨店をオープンした女子の話に、こんなものがありました。
彼女は、商品のラベルに使うため、特定の色の色紙をカンボジア国内で発注。ところが届いたのは、さまざまな色合いの色紙でした。当然ながら、クレームの連絡をする女子。しかし返ってきたのは意外な答えでした。
「あなたはラッキーだ! いろんな色が楽しめる!」
これには「なるほど、そんな考え方もあるものか」と妙に感心したことを覚えています。この話や、今回の弾性ストッキングの「色」事件で感じたのは、日本的な「きちんと」な世界観から抜け出してみるのも面白い、ということです。
日本だと製品でも何でも、だいたいのことは正確なのが当たり前ですが、それが常識ではない国や地域もあります。でも、そんな世界観も悪くない。むしろ多少はそれくらいの気持ちでいた方が、心のゆとりができてストレスフリーでいられるかもしれません。
弾性ストッキングも、「どんな色が来るかな〜」と福袋的な感覚でいればワクワクします。
●いろんな色をトライしよう!
ところで、「予想外な色が来た」とばかり書いていますが、基本、Mediの弾性ストッキングはとてもいい製品です。これまでさまざまなメーカーのものを試してきましたが、私の足にはMediが合うようで、いつもここに戻っています。
大塚さんによると、Juzo(ジュゾー)というメーカー(こちらもドイツ)もカラーバリエーションが豊富とのこと。大塚さん自身もリンパ浮腫のためいろいろな弾性ストッキングを着用しているのですが、今はJuzoの「パープル」に興味があるそう。
教えてもらったJuzoの紹介動画(YouTube)を見てみたら、オレンジや水色など、驚きのカラーを装着した老若男女が登場していました。マゼンタを履きこなせない私は、まだまだヒヨッコのようです。
――――
リンパレッツ(代表 大塚美絵子さん) https://www.lymphalets.biz
参考:JuzoのYouTube(カラーの紹介動画) https://www.youtube.com/watch?v=fQQMRRc7yek&t=53