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村本 高史の「がんを越え、”働く”を見つめる」
第26回 日々のとらえ方⑤~「立ち止まる」

掲載日:2025年12月18日 12時00分

 師走です。師走の語源は、「12月は僧侶が各地の法要で走り回るほどに忙しいこと」だという説があります。 今回は忙しいこと、だからこそ立ち止まることの大切さについて考えてみたいと思います。


現代は時間との戦い

 「Time is money、現代は時間との戦い」。かつて、テレビのクイズ番組の冒頭で司会者がこう言っていました。頷いて頂けるのは、私と同年代以上の方々だという証拠です。

 あれから半世紀が経ち、時代は変化すると共に、昔とは比較にならない程に加速化しました。情報化・デジタル化の進展と先行きの不透明化・曖昧化の中、働く人のほとんどは日々を慌ただしく過ごしていることでしょう。多くの企業も、変化への対応のキーワードとして「スピード」を挙げているはずです。

 そんな私たちが常に求められることは、問題が起きたら、あるいは課題を見つけた時点でいかに早く情報を集め、いかに早く解決するかということです。当然のようにこれを繰り返す中、私たちはいわば「問題解決モード」で毎日を過ごしているのです。

 しかし、すべてのことに対して、果たしてこの「問題解決モード」で臨んでよいのでしょうか。


「問題解決モード」から離れて

 「実は…がんと診断されまして…」。恐る恐る切り出した社員を前に、もしも「問題解決モード」で臨むとどうなるでしょう。

 「で、医者は何と言っているの?」、「ステージはいくつなの?」、「仕事はどうするつもりなの?」。解決を急ぐあまり、情報収集の質問攻めにしてしまっては、本人の不安や混乱は増すばかりです。本人さえ、この先どうなるのか、自分はどうしたいのか、わかっていないことも少なくありません。

 がんに限らず、不安や混乱を抱えた社員に対しては、まずは立ち止まることです。そして「問題解決モード」から「受容・共感モード」に切り替えることが大切です。

 「教えてくれてありがとう」、「大変だと思うけれど、よかったら少し詳しく聞かせて」、「仕事のことは一緒に考えていこうか」。アプローチは様々でしょうけれど、本人の思いを受け止め、寄り添い、解決を急がずに一緒に考えていこうとする姿勢こそ、本人にとって心強いものになります。さらに、少し遠回りしたとしても、深い問題解決につながり、お互いの関係性やひいては職場全体の成長にもつながるのではないでしょうか。

 第一歩は、私たちの日常が「問題解決モード」になっていることを一人ひとりが自覚することだと思います。そして、がんなどの事情を抱えた人を前にした場面以外においても、時には「問題解決モード」から離れ、あえて立ち止まることも必要ではないでしょうか。

 生きていく中で、働いていく中で、本当に自分が大切にしたいことを考える機会。それは荒涼たる砂漠を行く中でのオアシスのようなものかもしれません。そこで得た、生きていることの確かな感触こそ、忙しい毎日を乗り切っていくさらなる原動力になるように思えます。

 皆さまにとって、2026年がよい年でありますように。


村本高史(むらもと・たかし)
サッポロビール株式会社 人事総務部 プランニング・ディレクター
1964年東京都生まれ。
1987年サッポロビール入社。
2009年に頸部食道がんを発症し、放射線治療で寛解。
11年、人事総務部長在任時に再発し、手術で喉頭を全摘。その後、食道発声法を習得。
14年秋より専門職として社内コミュニケーション強化に取組む一方、がん経験者の社内コミュニティ「Can Stars」の立上げ等、治療と仕事の両立支援策を推進。
現在はNPO法人日本がんサバイバーシップネットワークの副代表理事や厚生労働省「がん診療連携拠点病院等の指定検討会」構成員、「厚生科学審議会がん登録部会」臨時委員も務めている。



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