新着情報

シリーズがんと就労④
震災契機に病院をあげて就労支援へ

掲載日:2017年10月17日 15時31分

シリーズがんと就労④ 震災契機に病院をあげて就労支援へ

石巻赤十字病院副院長、呼吸器外科医 鈴木聡さん
病院はがん患者を手術して帰すだけでなく、患者さんの暮らしも考えるべきでないのか。2011年3月11日の東日本大震災は、宮城県・石巻赤十字病院の鈴木聡副院長(58)の考えを根底から変えてしまった。東日本大震災をきっかけにこの病院で始まった、がん患者の「就労支援カフェ」や就労支援への病院の在り方についてうかがった。

—先生が肺がんの手術を始めようとしたまさにその時、あの大地震が発生したのですね。

 全身麻酔の患者さんが手術台から振り落とされないよう、必死で体を抑えました。とんでもない地震だから手術を中止して、麻酔をさました患者さんを担架に乗せ8人がかりで病室に送り届けました。全職員を動員して一階ホールをトリアージ(治療優先度を決める作業)エリアにしました。救急患者は一週間で3938人。病床が圧倒的に不足し、2ヶ月先まで決まっていた手術も全部ストップしました。

—手術の再開後にも津波の深刻な被害を思い知らされたとか。

 そうです。肺がんの手術をした患者さんは定期的に再来されるのに、予定の日に来ない方が何人もいました。看護師が電話しても連絡がつかない。やっと娘さんの携帯につながったら、遺体が見つかって今からお葬式だという。看護師も泣き出しましてね。みんな頑張ったのに津波に持って行かれてしまう。悔しかったですね。術後の患者さん30人以上が、震災と津波で失われてしまったのですから。元々の病気はなんとかなったのに。

—大変な体験ですね。

 僕はただの外科医だから手術して患者さんが元気に帰ればハッピーだったのが、あの震災で患者さんがどうやって暮らしているかがものすごく気になりだしました。病気は治っても、津波で肉親を失って早くあっちに行きたいという人もいる。コミュニティとか職場とか、病院の外で暮らしていく場所が大事なのだと気付かされました。

患者・病院・企業が話し合える関係へ

—それで「就労支援カフェ」ですか?

 病院の地域医療連携課にいた佐藤京子さん(今年3月退職)が震災後、就労相談が増えていることに気付きました。1人の相談員が受けるがん相談は年間述べ300人程度だったのが、2014 年度は400人、15年度は500人と増え、その2割が就労相談でした。どうやって仕事を続けるか、解雇されたらどうするかなど深刻な相談が多かった。彼女の提言を受けて、病院をあげて就労支援に取り組みたいと思いました。  国立がん研究センターの高橋都先生に相談して「ご当地カフェ」を開くことに。14年1月にがんセンターと共催で「就労支援カフェinいしのまき」を開き、2回目は病院独自で15年12月、3回目は16年11月と開催して、来年2月に4回目を予定しています。最初はがんサバイバーやご家族など30〜40人ほどでお茶を飲みながら自分たちの経験を話しましたが、だんだん参加者の顔ぶれが変わってきました。  サバイバーの方がいくら働きたいと言っても、企業側の受け入れがうまくいかないケースがある。企業向けにメッセージを出せないかと、2回目から商工会議所を通じて呼びかけ、主な企業に出向いて人事担当の方とも話をしました。3回目は参加者の半分が企業関係者に。来年はできれば商工会議所と共催したいと考えています。  がん患者にとって、就労は大事な社会参画です。病院の中にハローワークがあってもいい。がん相談に来た方がワンストップで様々な情報にアクセスできれば、人をつなぐ機能も持てるのでないかと思っています。

—実現すれば、病院の立ち位置もずいぶん変わるでしょうね。

 がんサバイバーや家族はともかく、世間はまだまだ、がんがごく普通の病気であるとは理解していません。年休を治療や定期検査に当てているがん患者にはそれなりの配慮が必要です。他の従業員と同じでないから「辞めてください」という経営者もいれば、スキルを持ったベテラン社員を失いたくない経営者もいます。  患者さんが病院と企業の板挟みになるのでなく、三者が一緒になって話し合う関係を築いていく。お互いの顔が見える、地域を巻き込んだ運動にしたいですね。  「衣・食・住」ではなく、今は「医・職・住」ですよ。人が暮らしていく上でなくてはならないもの。その意味で医療は電気、ガス、水道と同じインフラのひとつではないかと思います。

—それにしても、がんに対する見方はすっかり変わりました。

 がんは特別なことでなく、早期発見・早期治療で生命予後も十分長くなりました。私は肺がんの外科治療が専門ですが、早期発見なら7割8割は5 年生存が期待できるし、完治も夢じゃない。肺がんを手術して職場復帰、定年まで勤めた方が何人もいますよ。 (聞き手 ジャーナリスト 清水弟)
鈴木聡(すずき・さとし)、1959年、宮城県生まれ。東北大医学部卒、東北大学加齢医学研究所に所属し、カナダやオーストラリアで研究生活の後、東北大病院講師を経て、2006年に石巻赤十字病院呼吸器外科部長、10年から東北大医学部臨床教授。
[対がん協会報10月号より]
がんサバイバー・クラブでは社会保険労務士による「がんと就労」電話相談(無料)を実施しています。お1人40分予約制(無料)です。 現在受付中のご相談日やご予約方法は、こちらよりご覧ください。
ぜひメールマガジンにご登録ください。
ぜひメールマガジンに
ご登録ください。
治りたい
治りたい
治りたい
治りたい
治りたい