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第17回 抗がん剤・副作用プランニング
木口マリの「がんのココロ」

掲載日:2019年4月9日 18時56分

 抗がん剤は、その恐ろしげなイメージが強すぎて、もしも「人生で絶対やりたくないものトップ10」があったら入っているに違いないというほどのもの。それでもやらなければならない状況もあるわけで、私もまさかその一人になると思っていなかったのですが、「生きているとホントにいろいろあるな」などと、しみじみするこの頃です。

 とはいえ、やってみて初めて知ることも多々。「意外といける」と思ったのもひとつです。なぜ「いける」と思ったかというと、抗がん剤の副作用には決まったサイクルがあるから。それを把握できると、不必要に怖がることがなくなるだけでなく、前もって様々な準備も可能。そのようにして治療をしながら仕事をするなど、これまでと近い生活をしている人は割と多くいます。

副作用スケジュールを把握しよう

 以前も書いたとおり、抗がん剤には非常にたくさんの種類があります。どの薬を使うかによって副作用は変わり、同じ薬を使ったとしても人によってどの副作用が出るかも、その強度も全然違います。ほとんど副作用が出ない人もいるくらい。
 近年では分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの新しい種類の薬も登場し、従来の抗がん剤とは副作用が異なっています。


 だからこそ、自分が使う薬にはどんな副作用があって、それぞれいつごろから出る可能性があるのかを主治医や薬剤師に確認し、さらに投薬後の「自分の状態=自分の副作用スケジュール」を把握しておくことが、少しでも楽に治療ライフを送るコツといえます。

キグチの副作用スケジュール

 私が使用したのは従来の抗がん剤。基本的に、投薬の2〜3日後から副作用が始まり、3〜4日間ほど続いておさまります。つまりは、投薬から約1週間程度のサイクルです(脱毛など、いくつかの副作用を除く)。
私の場合、ピークは投薬の4〜5日後あたりにありました。それが2日間ほど続き、次第に消えていきました。ただし回数を重ねるごとに疲労がたまってきて、回復まで少し時間がかかるようになっていきました。それは副作用というよりも、疲れのせいだったように思います。

 いずれにせよ副作用は延々と続くのではなく、「始まりと終わり」があるのが大きな利点でした。とにかく時間が経てばおさまると分かっているのですから。

 また、投与から2〜3週間後から脱毛が始まりますが、さすがにそれは投薬が終わるまでそのまま。それでも髪は常に「生えよう」とがんばっているので、チョビひげならぬチョビ髪が生えてきます。次の投薬後にまた抜けてしまうのですが。

副作用が始まるまでは準備&リラックスタイム

 だいたいの副作用スケジュールが分かってくると、それに向けた準備が可能。副作用中にできる限り快適に過ごせるよう、始まる前に生活環境を整えます。

 私がおこなっていたのは、シーツなどの大物の洗濯、布団干し、食材の下ごしらえ、副作用が強く出ている間でもカロリー摂取できるゼリー飲料の購入など。副作用中は実家から母が泊まりがけで来てくれていたため、そんなにきっちりやる必要はなかったのですが、一応、自分でもできる限りのことはしておこうと思いました。

 副作用は時が来れば自動的に現れるため、(超・無理矢理な)始業チャイムが体に装備されたようなもの。「ここまでにコレを片付けよう」と、いつも以上にテキパキ動けるようになるという効果もあります。

 そのほか、チャイムまでの時間をリラックスタイムに使うことも大事。お気に入りのカフェでゆっくり過ごしたり、のほほんと遊んでみたり。しかし、副作用の間は蓄えた体力がモノを言うこともあり、疲れる前に休むことを心がけていました。それも何度か抗がん剤を受けるうちに分かった「自分なりのペースの取り方」でした。

副作用ピーク時はホッとするものを見たい

 投薬から4〜5日後の副作用ピークのときは、私は全く動くことができませんでした。特に倦怠感(具体的には極度の疲労)が強く、2日間は一言も口を聞かず、ご飯もほぼ食べられず。それでも日中は絶対に寝まいとしていたため、ベッドの端に寄りかかり、ジッと壁の一点を凝視していました。というよりも目線を動かすのも億劫で、真っ直ぐ前にある壁しか見ていられませんでした。

 そんなときの快適度アップ対策は、「ストレスを感じさせるものを全て見えなくする」! ほんの少しでもモヤっとした思い出があるものや、焦りを感じさせる仕事グッズは全て隠し、一番目につく“凝視の壁”には、見るも無害な「シルクハットをかぶったペンギンとカモノハシの絵」を貼っておきました。それだけでだいぶ気持ちが安定。

副作用あけの攻防

 副作用があけてくると、自然と食欲も元気も出てきます。体力アップのために散歩も開始。私は術後すぐに抗がん剤を始めたためか、非常に体力が落ちていて、3段の階段がキツいという有様。バリアフリーの大切さを改めて思いはするのだけど、スロープを登るのもしんどいため、どちらにしてもヨロヨロです。
 副作用があけて間もなくは、カートを押したお年寄りに追い抜かれる始末。毎日攻防を繰り返し……というほど時間はかからないけれど、ともかく「抜き返しができるようになれば回復」という自分ルールを密かに持って歩き回るのでした。

治療は「体が与えてくれた休暇」

 こうして思い返すと、仕事なんて全然できそうもなかったし、それなりにしんどさのある副作用デイズだったように思います。でも、投薬中に「ムリ」と思うことはありませんでした。やはり第一には、「数日待てば終わる」と、実感していたことが大きかったと思います。
 当然ながら、初めての投薬までは不安があったのですが、一度やってしまえば「なるほど、こんな感じか」と、意外と冷静になったものです。病棟の看護師さんの話では、「みんなそう言う」とのこと。

 どんなものでも、知らないことは怖いもの。逆に、知っていればできることはたくさんあります。がんの治療が始まったからといって、「もう仕事も暮らしもうまくできない」とふさぎ込んでしまう必要はありません。治療のサイクルを、一つの「自分の命のための仕事」として、生活の一部に組み込んでもらえたらと思います。

 私は治療を「体が与えてくれた休暇」と、完全に休業しました。“休暇”は、予想よりも長引いてしまったものの、様々な経験と感情と、人との出会いの時間だったように思います。もちろん、抗がん剤の期間もそのひとつです。人生に無駄なものはないと、より強く感じています。

木口マリ

「がんフォト*がんストーリー」代表
執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。2013年に子宮頸がんが発覚。一時は人工肛門に。現在は、医療系を中心とした取材のほか、ウェブ写真展「がんフォト*がんストーリー」を運営。ブログ「ハッピーな療養生活のススメ」を公開中。

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