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第30回 お金がない! 役立つ(かもしれない)キグチ的暮らし方
木口マリの「がんのココロ」

掲載日:2019年10月24日 9時58分

 もともとお金に執着がなく、「生活ができる+ちょっとだけの余裕」があれば満足な私ですが、がんになって、「生きているだけでハッピー」のような気分になってしまったら、物欲もさらになくなって、近ごろは、「何か、仙人みたいだね」などと言われています。

収入はゼロ それでも治療は続く

 ともかく「がん」は、いろいろとお金がかかる。
 高額療養費制度などのサポートがあっても治療で毎月数万円が消えていくし、おまけにその間は仕事を以前と同様にできない場合もあり、収入が減ることも多い。なのに生活費は以前と同じくかかるという、何とも無情な現実。

 私もまったく例外ではありませんでした。
 私はそのころ離婚から1年後くらいで、一人暮らし。当時からフリーランスでお仕事をしていましたが、安定収入のあった取引先との契約を、がん発覚寸前に自ら終了させていたところでした(なぜか往々にして、絶妙なタイミングでこういうことは起こる)。

 収入はゼロ。なけなしの貯金と任意で入っていた医療保険の保険金を食いつぶして治療生活を送ることになりました。

 ちなみに、その時点での貯金は100万円くらい。任意保険は、安価な掛け金のものが2つ。1つは母が昔から入れておいてくれたもので、もう1つは20代のころに自分で入ったものでした。
 ラッキーなことに、どちらも女性特有の病気に手厚い保障のある保険だったのにプラスして、手術を4回行ったために、その都度それなりにまとまった額が入り、結果的には何とかつつがなく治療することができました。

 それでも、がん発覚直後はそんなことはわからないし、国にどんなお助け制度があるかもうっすらとしか知りませんでした。 

「治療したらお金がなくて生きていけない」などということになったらそれこそやり切れないので、「その手術、幾らかかるんですか」と、怒られるのではとドキドキしながら主治医にたずねた覚えがあります。

 主治医は怒ることなく「100万円以上だと思います」と教えてくれました。「でも保険がきくから」とのこと(実際には高額療養費制度のおかげで、支払いの上限は月8〜4万円くらいとなりました)。

 そのほか、家族がそれぞれ「お見舞い」として幾らかずつ包んでくれたのだけど、こう何度も入院したり手術したりしていると、みなさん「もう、いいか」という気分になるらしく、その後は見守りに徹されてしまいました(兄は2回目以降の入院でもたまに包んでくれることがあり、ほかの家族もちょくちょく物資のサポートや泊まりがけで手助けしてくれて、何の不満もないどころか、非常に感謝しています)。

治療後も生活費はフツーにかかる!

 予想外だったのが、「治療後も生活費はフツーにかかる!」ということ。体力が落ちていて、すぐに働くわけにもいかずに無収入は継続。任意保険も国の制度的にも何のサポートもないのに出費は変わらず、通院費もかかる。

「人間って、生きているだけでお金がかかるんだなあ」としみじみしたものです。

 姉は、「何かあれば、ねーちゃんがいるよ!」と、事あるごとに言ってくれたものの、私も独立して暮らしている以上、それぞれに家のある家族に生活費のサポートを頼むのは、最後の手段のような気持ちがありました。 

「1回1,000円計画」実例。これで974円!

 一度、がん発覚直後に区役所に軽く相談したところ、提示されたのは「生活保護」。そこまでではない時点で、相談だけでもできるところはないのかとおたずねしたら、「うーん、ないですね」とのご回答。
 のちのち、病院のがん相談支援センターでも相談に乗ってくれると知ったものの、区役所の窓口までそういった情報が届いていないのだなと思いました(数年前のお話)。

「じゃあ、何か切り盛りを考えよう」と始めたのが、「1回1,000円計画」と「自宅内&自己内リソースの発掘」でした。

1回1,000円計画

 スーパーをウロウロしていると、ついついあれもこれも買い物かごに入れてしまって、気づけばいい金額に。それをちょっと計画的にコントロールしようというのが「1回1,000円計画」。
「1度の買い物で、1,000円以内しか買わない!」という決まりです。お米とか、お酒とかを買うときも例外なし。

自分で作ったパン・マヨネーズ・ハムと、蒸したかぼちゃの朝食。自分で作ると素材がわかるのも利点。

 やってみると、これがなかなか面白い。ムダなものは買わなくなるし、「安いものアンテナ」が研ぎ澄まされ、「安いけど調理の仕方が不明」という食材の調理法をネット検索して、新しいレパートリーも増えるという。

 1,000円なのにたくさん買えると、お買い物上手な自分に大変満足。一人で「ニヤリ」としたものです。
「安いものしか買えない」と思うと気分は落ちるけれど、「これだけ買えた!」となると気分は上がるという不思議も体験できます。

 ただ、「ムダなもの」はそれぞれに違います。“自分にとって”というのがポイントで、誰が何と言おうと、自分にとって必要なものは買うという。それがストレスなく続けるコツ。

自宅内&自己内リソースの発掘

 ここまでお金がなくなってみると、「悪い子はいねえか〜」というナマハゲのごとくに「使えるものはねえか〜」と、戸棚の影やら、過去の記憶やらを探ります。

 ナマハゲセンサーにピピピと反応したのは、「クレジットカードのポイント」「携帯電話のポイント」「商品券・ビール券・クオカード」など。

 改めて見ると、「カードや携帯の引き落とし代金としてポイントが使える!」とか「商品券はスーパーでも使える!」ことを発見。でも、ドカッと一気に使わずに、現金との兼ね合いを考えながら小出しにしていきました。日々、少しだけ支払う金額が安くなって、ちょっと得した気分。

 そしてキッチンを見回せば、使わないまま放置していた「デッドストック食材」も意外と多い。特に小麦粉などの粉類は、手を加えればいろいろなものが作れるスーパー食材。またもネット検索して、パンやお菓子を作ってみました。

食パンの型も自作(笑)。

 私は非常に多趣味ですが、その1つに料理は含まれていません。ただし実験は好きなので、「いかに少ない材料で、いかに安く、いかに簡単に作れるか」の研究を開始。
 例えば食パンは、強力粉(高価)+薄力粉(安価)、砂糖、塩、イースト菌、水だけで、いい感じのものを作れるようになりました。

 また、自己内リソースは、自分の特技を活かすこと。
 そのときの自分にできる、ちょっとしたことをやってみました。

 私が得意なのは、写真撮影と文章。しかし一眼レフは重くて体力的に持って歩けないため、iPhoneで撮影し、文章を書いてブログにアップしていました。お金にはならないけれど、「何か、自分にとって楽しくて意味のあることをしている」というだけでも気分はいい。
 そのほか、生活費の足しにしようと、賞金が出るコンテストに写真を応募してみたりもしました。

福引でもらった「残念賞」はりんご! 残念賞なのにうれしい。大変な状況を楽しむのは、それに近いものがあるかもしれません

 コンテストはまんまとハズレたけれど、ブログは読んでくれる人がだんだんと増えていきました。そして読者の1人から、「撮影を依頼したい」とお声がけいただいたのが、仕事復帰のきっかけに。「体力づくりに1ヶ月ください」と、相当な融通をきかせてもらい、その日を目標に少しずつ歩く距離を増やしたり、背負う荷物(カメラ機材)を1つずつ増やしたり。名づけて「亀仙人修行」(アニメ『ドラゴンボール』参照)!

 がん告知から復帰までの期間は、1年5ヶ月。ようやく、少しだけ収入を得ることができたのでした。

 私は、お金がない生活を客観的に研究することで、「なかなか面白い」と感じていました。とはいえ、いつでも面白がっていたのではなく、心が焦りでワサワサしたり、ドーンと落ち込むこともありました。
 でも、大変だと思う状況も、もしかしたらちょっとしたことで「あとで語ったら笑い話」みたいになるかもしれません。「大変」は、ときに人生のスパイスにもなり得るのだと思います。

木口マリ

「がんフォト*がんストーリー」代表
執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。2013年に子宮頸がんが発覚。一時は人工肛門に。現在は、医療系を中心とした取材のほか、ウェブ写真展「がんフォト*がんストーリー」を運営。ブログ「ハッピーな療養生活のススメ」を公開中。

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