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第37回 術後合併症!ザ・腸閉塞事件〈其の一〉 〜木口マリの「がんのココロ」

掲載日:2020年2月12日 13時00分

 あなたは腸閉塞(イレウス)になったことがありますか? 何らかの原因で腸がヘンに曲がったり狭くなったりで詰まり、お腹が痛くなるやつです。腸閉塞になるリスクは、お腹の手術のオマケ的に一生ついてまわるという代物で、なかなか厄介。もちろん、ならない人の方が多いのですが。

 そんな腸閉塞に、私はまんまとなってしまいました。しかも、腸閉塞のなかでもさらになることの少ない「絞扼性(こうやくせい)イレウス」というものに。

わけもわからずお腹が痛い!

腸閉塞事件の前日。脱毛中のためウィッグで遊んでいました。そのノホホン具合が我ながら切ない。

 絞扼性イレウスは、血流障害をともなう腸閉塞。私の場合、がん治療の手術後にできた腸まわりの癒着が網のようになっていて、そのすき間に腸が入り込み、「きゅっ」と首をしめたような状態だったそう。腸はすでに壊死し、破裂寸前。

 さすがにこれは、とんでもない激痛でした。失神する人もいるというほどの痛みなのだけれど、どういうわけか失神できないワタシ。だからこそ自分で救急車を呼ぶことができたとはいえ、痛みからは解放されず。

 そんなに痛くても、「腸閉塞かも」なんて頭をかすりもしない。「術後は、合併症がおこる可能性がある」と、主治医から説明があったはずなのに、聞いたときから「まあ、ならないだろう」とスルーして、そのまま完全に忘却。
 つまりは、わけもわからず猛烈にお腹が痛いという状態。これは結構、精神的に追い詰められるものがあります。

 救急隊の活躍のおかげでどうにか病院にたどりつき、バタバタと入れられたのは、夜間の診察室(の裏)。タタミ1枚くらいのスペースごとにカーテンで仕切られ、狭いベッドが1台ずつ置かれていました。それぞれに急患が横たわっているらしい。

 戦地や、疫病の蔓延した地域に造られた仮設病院を彷彿とさせ、「まだここは落ち着けるところじゃないよ、まだ続くんだよ」というような、そこはかとない不安を感じるのでした。

 それにしても、伝えなければいけないことが山ほどあってなかなか大変。
 子宮頸がんで、主治医はだれで、手術でアレとコレを取って、片方の卵巣は元の場所から移動して固定してあって、抗がん剤治療をいつまでやって……、プラス本日の朝から今までの経緯。それらを痛みに耐えながら言わなければならず。
 何が関係しているのかわからないし、正確に診断してもらうためには(そしてなるべく早く痛みから解放されるためには)「全部ちゃんと伝えなきゃ!!」と、とにかくがんばるのでした。

人体の不思議と、イケメンと

「視界が狭いなか、話しかけてくる人が覗き込んでいたように見えた様子」をお花(=覗き込んできた人)で再現。

 冷静に対処しているようですが、その間、ずっとうなり声をあげていました。のちに聞いたところ、その声は待合室まで響き渡っていたという。うなっていたのは家にいたときから緊急手術に突入するまでの4〜5時間。人間って、こんなにも長く大きく叫んでいられるものなんだ。

 さらに興味深かったのが視界の狭さ。痛みが続いている間、見えている範囲が、自分の顔の幅くらいしかなく、言うなれば、箱の中に横たわって天井を見上げているかのよう。そのため、話しかけてくる人がみんな、上から覗き込んでくるように見えていました。

「見えていた」と言っても、見えていないものも多数。特に人の顔などはまったく判別できず、全員のっぺらぼうのようでした。
 きっと、頭に入ってくる情報を極端に制限し、本当に必要なものだけに集中して生存の道を探る「緊急モード」だったのかなと想像します。

 ところが、たった一人だけ、はっきりと顔が見えた人がいました。
 それは、超・イケメンな医師、ジャニーズ先生(仮名)。ジャニーズ先生が顔を出した途端、ビシッとピントが合うという。

「う〜ん、う〜ん。ハッ! イケメン!! う〜ん、う〜ん」

 のちに慌てて駆けつけた姉も、同様に「ハッ!」となったそう。きっと、イケメンを見極めるのは本能のなせる技なんだと思う。人間の能力って、いろいろ面白いです。

「開けるだけになるかもしれないけど、原因は突き止めます」

まだまだ続く、長い旅路。

 病院に着いてから繰り広げられたのは、触診や血液検査、CTスキャンなど、さまざまな検査でした。
 しかし、気になる診断は、「何だかわからない」!!

 のちに聞いたところ、腸閉塞の疑いはあったのだけれど、緊急手術に踏み切るかどうかの決め手になるものは見つからなかったとのこと。それでも「手術をしましょう」とジャニーズ先生。

「手術か……。またあれを繰り返すのか」と、半分逃げたいような気持ちになりながらも、覚悟を決めようと即決。「お願いします」と伝えるのでした。
 しかし、感じていたのはかなりの不安。目覚めたときに、本当に痛みはなくなっているのだろうか。二度と目覚めない可能性もあるかもしれない。

 そんな気持ちを一瞬で払拭する、ジャニーズ先生のひとこと。
「(お腹を)開けるだけになるかもしれないけど、原因は突き止めます」

 あああ〜、なんて素敵な先生(見た目だけじゃなく)!
 痛みのさなかにあっても、「助かった」という安堵感に包まれました。

 何が「助かった」かといえば、精神的に救われたのだと思います。もしかしたら原因は突き止められないかもしれないし、死んでしまうかもしれないけれど、全力でがんばってみようというジャニーズ先生の心意気に任せようと思えたのでした。こんな状況でも、「人の思い」が心に与える影響はスゴイ。

 結果的にお腹の中はカオスな状態だったので、ジャニーズ先生のナイス判断によって本当に「助かった」のですが。

目覚めてもカオス……

 術後に目覚めたとき、自宅にいるつもりだったので、状況を把握するのに5秒ほど呆然。
 マスクを付けた人々が横たわった私の周りをウロウロして、心電図のポッ……ポッ……という音が広く無機質な手術室の中に響いている……。

 ああ、病院だ、また戻ってきちゃったんだっけ、と記憶の糸をたどって、この身動きの取れない自分を、切なくも現実のものとして認識するのでした。

 しかし、痛みは治まっていて、とても穏やかな気分。よくわからないけれど、何かをしてくれたのだなあと、安堵感につつまれていました。

 ところが、まだ安堵にはほど遠い状況だということに気づいていなかっただけ。のちに告げられたのは、さらにカオスなものでした。(次回につづく)

木口マリ

「がんフォト*がんストーリー」代表
執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。2013年に子宮頸がんが発覚。一時は人工肛門に。現在は、医療系を中心とした取材のほか、ウェブ写真展「がんフォト*がんストーリー」を運営。ブログ「ハッピーな療養生活のススメ」を公開中。

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