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元MDアンダーソンがんセンター 上野美和のテキサス便り
第2回 細心の注意と希望と ~MDアンダーソンの新型コロナウイルス対策~

掲載日:2020年4月24日 12時38分

3月半ばから対策を取る

 米国きってのがん医療機関、MDアンダーソンがんセンター(テキサス州ヒューストン)が、新型コロナウイルス対策に取り組み始めたのは3月半ばぐらいでした。徐々に強化されていき、現在はこんな感じになっています。


 部外者の訪問は、入院患者の面会も含めて原則禁止。外来では、出入り口で患者や付き添いの人(1人)に発熱や感染者との濃厚接触の有無などをスクリーニング検査する。(特に遠方の患者には)バーチャル診察、予約の延期。などなどです。


 小児がん、終末期の患者さんなどで例外はあるものの、治療との兼ね合いの中で、人と人との接触を減らす最大限の措置を取ったともいえそうです。
 当時は全米の感染者が3千人を超えた程度でしたが、日に日に増えていました。ヒューストンではほとんどいませんでした(4月23日には5300人を超え、死亡者も約80人)。


MDアンダーソンがんセンター(2018年)。こんなふうに集える日が待ち遠しい。


情報収集は「節度がカギ」

 物理的、内科的な対策と同じぐらい大切なのが、「こころ」のケアです。ストレスは免疫力にも影響します。


 MDアンダーソンは、3月16日に早くも、「COVID-19(新型コロナウイルス)によるストレスと不安に対処する方法」と題した記事をアップしています。
https://www.mdanderson.org/publications/cancerwise/how-to-cope-with-2019-novel-coronavirus-covid-19-stress-and-anxiety.h00-159380367.html


 記事では、MDアンダーソンの精神科専門の看護師、ダイアナ・ニコルス(Diana Nichols)さんが解説しています。エッセンスをお伝えします。


①情報収集は1日2、3回で

 大切なのは、不安の引き金となるものにさらされるのを抑えること。情報収集は重要ですが、テレビやソーシャルメディアでは、急速に新たな情報が出てきます。いつ、どれくらいのニュースを読むか、自分で線引きしておくことです。


 精神的な負担を避けるには、最新情報を1日2、3回、チェックすれば十分です。情報に圧倒されないよう「節度がカギ」となります。


 同時に、情報源を慎重に選ぶことも欠かせません。信頼のおけるメディア、世界保健機関(WHO)や政府機関、専門の医療機関の情報を集めることを推奨します(日本なら、厚生労働省や国立がん研究センターなどでしょう)。


深呼吸、食事、睡眠、そして話すこと

ヒューストンの街並み。ふだんは車の往来が激しい大通りもひっそりとしている。

②身体を労る

 ストレスが筋肉痛や息切れ、疲労に影響することもあります。そんなときに役立つのは、深呼吸、瞑想、ヨガ。数分でも瞑想することは、とても有効です。スマホ用瞑想アプリもたくさんあります。


 健康的な食生活も維持しましょう。アルコールは控えます。
 睡眠も大切です。毎晩7~8時間を心がけ、眠れなければ薄明りのもとで本を読んだり、気持ちを落ち着かせる運動(マインドフルネス運動)をしたりするとよいでしょう。


③恐怖について話す

 自分の気持ちを話して、恐怖や不安を愛する人たちと共有すると、一人でないと感じられ、孤独感も和らぎます。


 共有することでかえって不安になる場合は、書くことが役に立ちます。書き留めると、がんの診断や世界で起きていることに伴うさまざまな感情に対処できます。誰かに読んでもらってもいいし、自分だけの記録にしておいてもかまいません。


④正しい手指の衛生を

 最善のことは、少なくとも20秒間は手を洗うこと、目に触らないようにすること、体調がよくない場合は家にいることなど、予防策を講じてリスクを管理することです。


アリソン・ローゼンさんに学ぶ

 では、がんサバイバーの方は、実際にどうしているのでしょうか。
 3月に40歳になった大腸がんの女性、アリソン・ローゼン(ALLISON ROSEN)さんの4つの取り組みが参考になります。


https://www.mdanderson.org/publications/cancerwise/how-i-m-finding-peace-of-mind-during-the-coronavirus–covid-19–pandemic.h00-159381156.html
 彼女は8年前に大腸がんの治療中、抗がん剤の影響で感染症にかかりやすくなりました。腎臓、膀胱の感染症になったほか、多くの薬剤に耐性のあるMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)感染症にもかかりました。しかも喘息も持っています。

 彼女が行っていることは、次の4つです。

①自分自身を守る
・テレワーク(在宅勤務)をする
・散歩に出かけるときには、周囲の人や物を避ける
・食料品は宅配にする。容器は消毒薬で拭き取ってから片付ける
・レストランの食べ物が届いたら、電子レンジで再び加熱する
・外出しなければならない時は手袋とマスク、消毒薬を持参する
・帰宅後は、家の鍵も消毒し、着ていた服を洗う


新型コロナウイルス収束後を想像する

消毒用アルコール。エタノールより毒性が高いという指摘もあるが、アメリカでは、イソプロピルアルコール(IPA)を普通に使っている。

②よりよいセルフケアをより多く
・オンラインで、ヨガや瞑想、呼吸法などを行う
・ジャンクフードは食べない
・在宅勤務で時間が増えたぶん、冷蔵庫にある食材を利用して料理をする
・在宅勤務でもいつも通りに起きて、化粧する(気分もよくなるし、普段の自分になれる)


③昔からの関係はより深く、新しい関係も築く
・以前はたまにしか話さなかった姉や兄たちとオンライン上で毎日のように話す(サンフランシスコ、ニューヨークに姉、東京に兄がいる)
・カントリーダンスの仲間達とオンラインでつながり、ZOOMを通じてゲームやダンスをする(以前より交流が深まる)
・FaceTimeを利用し、友人とコーヒーを飲む(喫茶店に一緒にいるように話せて、週末も充実する)
・オンラインツールを使い、新しい出会いを楽しむ


④思い出を味わい、新しい思い出作りを楽しみにする
・楽しかった思い出をスクラップブックにして、SNS上で共有する
・新型コロナウイルスが収束した後に新たに作る思い出を想像する


 ①や②については、ここまで徹底できないという人もいるでしょう。人にはそれぞれの事情があります。負担にならない範囲で参考にしていただければと思います。


 アリソンさんは、「とてもポジティブな人間」と自任しているように、細心の注意を払う一方で、今の状況を逆に楽しんだり、明るい未来を思い描いたりしています。
 防御と希望。難局を乗り切るには、この両方が大切なことが伝わってきます。


何もかも自分でやる、とは考えない

 では、私はどうしているのか? アリソンさん同様、注意しているほうだと思います。
 まず、できる限り、外出はしません。


 どうしても出かけるときはマスク着用で、かばんにアルコールスプレーを入れて車で出かけます。マンションのエレベーターも、他の人と一緒に乗らないようにします。


 買い物などを終えて車に乗る前には、体中はもちろん、持ち物や購入品の袋にまでスプレーをかけて、マスクはナイロン袋に入れます。帰宅すると、服は洗濯し、シャワーを浴びます。


 犬の散歩は、マンションの庭で済ませます。玄関では、自分の手指だけでなく、犬の脚も消毒します。
 食料品など必要な物はほとんどが宅配です。玄関の扉の外に置いてもらい、配達する人との接触を避けます。


 冷蔵、冷凍、外食のデリバリーなどは、家に入れる前に外で容器をアルコール消毒します。
 マスク不足はアメリカも同じです。私は、家にある端切れの布でマスクを作り、掃除機のダストバッグを小さく切ってフィルター代わりに入れています。


 花粉症のマスクの穴が5μm(0.005ミリ、μm=マイクロメートル)に対し、ダストバッグの穴は0.3μmと、網目が細かいのです。フィルターを挟む場所と鼻の部分には針金を入れて、顔にフィットさせています。
 マスク作りに燃えた1週間は、ミシンに向かい続け、息子と息子の下宿に同居している友人にも送りました。それはそれで楽しい時間でした。


 以上が現時点でのMDアンダーソンがんセンター及び周辺の新型コロナウイルス対策です。
 がんサバイバーの中には、治療の影響で免疫が落ちている方もいらっしゃいます。一番大切なのは、やはりステイホーム。それも、できる限り徹底することでしょう。


 最後にお伝えしたいのは、何もかも自分でやる、とは考えないことです。ご家族や友人などの助けを借りながら、アリソンさんように逆境を楽しむぐらいになれれば、心も安らぐのではないかと思います。


自作のマスク。掃除機のダストバッグ(右)を切って、裏側に作ったフィルター入れに差し込んだ(左下)。

(写真はすべて、上野美和撮影)


上野美和(うえの・みわ)
1964年、和歌山県生まれ。大阪薬科大学を卒業後、薬剤師の資格を取得。1991年、結婚を機に渡米。出産後、MDアンダーソンがんセンターでのボランティアを経てリサーチナース、データマネージャーを務める。2002年にメディエゾンLLC(合同会社)を立ち上げる。米国でセカンドオピニオンや医療、医療従事者への医療研修を受けたい人をサポートしている。

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