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質問に答えるうちに働き方が見えてくる
~国立がん研究センターらが作成、がん経験者の就活応援ガイド~

掲載日:2020年6月26日 11時56分

「よりよい意思決定のための就職活動応援ガイド」という冊子がある。約30ページ。「国立がん研究センターがんサバイバーシップ支援部」のホームページから、PDFでダウンロードできる。作成したのは、同支援部の研究員、土屋雅子さんら「公益財団法人がんの子供を守る会2018年度治療研究助成金『就職活動応援ガイド開発』研究班」。がん経験者を含む多彩なメンバーで議論を重ね、フレンドリーで実践的なガイドに仕上がっている。今年3月の公開、新型コロナウイルスの時代にも役立ちそうだ。
                                (文・日本対がん協会 中村智志)

「好きなこと」は何?

がんを経験していない人が読んでも参考になる。

 就職活動応援ガイドは、質問に対する答えを書き込みながら読み進めていく体裁で、ワークブックのように使える。執筆協力者には、国立がん研究センターがんサバイバーシップ支援部の医師や社会学の研究者のほかに、教育学の研究者、AYA世代のがん経験者、ハローワークの相談員、精神・神経科の専門家らも名を連ねる。 

 第1章は「自分のことを知ろう」。就活を始めるにあたっての基本だろう。「1-1 自分に合っている仕事を選ぶために」と「1-2 自分の体調を知ろう」に分かれる。
「1-1」では、仕事を選ぶうえで何を大切にするか、を考える。「収入」「労働時間」「仕事内容」「将来性」「自分を生かすこと」など12の選択肢が候補に挙がっていて、優先順位を第3位まで書き入れる。 

土屋雅子さん。国内の医学、看護学教育などに従事した。2015年より現職。

 次に「自分のことを見つめなおしましょう」とあり、①好きなこと、②得意なこと、③やってきたこと、④病気の経験からあなたが得たものは…、を自由に記入する。

 何を書けばいいのかイメージしやすいように、「好きなこと」なら「夢中になって取り組んでしまうこと」、「病気の経験から得たもの」なら「思いやりの本当の意味がわかった」などと、考えるヒントも示している。

 最後に、就きたい仕事や働き方について、業種や職種、雇用形態や勤務時間などのポイントを自由にまとめる。

医師への質問例も掲載 

 続く「1-2 自分の体調を知ろう」では、生活の支障となる症状の有無、今後の治療や体調の見通し、志望先にお願いしたい配慮、を記述式で書く。

 中には医療者に相談しないとわからない点もある。このため、「就職を考えていて、できるだけ通院回数を減らしたいのですが、可能でしょうか」といった医師への質問例も載っている。

 こうして、第1章を終えると、第2章「あなたの志望先について知ろう」へ進む。

 勤務条件、業務内容はもとより、職場の設備まで、がん経験者が欲しい「プラスα」の情報は、企業説明会やインターンシップなどで聞いておきたい。

「1.勤務条件」では、出張、転勤、残業、フレックス勤務などの項目がすでに記入された表があり、それぞれに対応して、自分で確認した事柄を書き込める。
「2.業務内容」「3.職場の設備」は、チェック項目、確認内容ともに自由記入だ。ただ、「屋外での作業が多いか」「多目的トイレはあるか」といった着眼点の具体例が挙げられているので、ポイントをつかみやすい。 

がんの開示・非開示、それぞれのメリット 

 第3章「病気のこと話した方がいい? それとも、話さない方がいい?」は、就活にあたり、もっとも悩む(迷う)ところかもしれない。

 この章では、率直に「病気開示のメリット・デメリット」を提示して、それぞれについて解説を加えている。

 開示のメリットは、4つ挙げられている。

自分で書き込むことで思考や気持ちの整理になる。

 ①病気体験に基づく志望動機の説得力アップにつながる

 ②志望先との相性を見極められる

 ③就業配慮を引き出し安心して働ける

 ④病気を言わないことによる罪悪感から解放される

 ①は、がん体験と志望動機が結びついていれば、開示することでより相手に伝わる。

 ②は、面接などで開示したときの相手の態度が、その組織で働きたいかを判断する手がかりになるという。

 ④はやや盲点だが、がん経験者のなかには「あとで病気のことがわかったら問題にならないか」などと悩むケースもあるという。

 開示のデメリットは、選考過程で不利な扱いを受けたり、面接官の態度で傷ついたりする可能性など、メリットの裏返しとも言える。

 同じように、非開示のメリット、デメリットについても、項目を挙げて解説している。

 そして章の最後で、自分にとっての開示・非開示のメリット・デメリットをまとめる。

どうやって働きたいかを伝える

 第4章は「内定を得るための戦略」。第3章までを振り返ったうえで、実践的な戦略のアドバイスだ。病名は個人情報であること、開示するときには工夫して伝えることを勧めている。たとえば、「通院が月に一度あります」だけでなく、「通院が月に一度ありますが、1年後には頻度も減る予定です」と説明すれば、採用側の印象も変わる。

 最後の第5章は、ハローワーク、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターなど、相談窓口の紹介だ。

 全体を通して、随所に挟まれる6本のコラムが、読者の作業や思考を補完する。
「コラム1 集中力や判断力の低下について」では、がん治療により生じるこうした事態への対処方法として、「メモやスケジュールをこまめに記録する」「複数の作業を同時進行せずに一つずつ片付ける」といった工夫が紹介される。

「コラム6 雇用主には『安全配慮義務』や『健康管理義務』がある」は、使用者側には、労働者の安全を確保するための配慮義務があることなどを伝える。労働契約法や労働安全衛生法といった法律によるが、案外知られていない。

 巻末は、「先輩たちの応援メッセージ」。「自身の治療した経験を伝えるのも大切ですが、自分が入りたいと思った会社でどうやって働きたいかなどを伝えることも大切です」などと、心強いメッセージが並ぶ。

先輩たちのメッセージ。体験者ならではの言葉ばかりだ。

目の前のがん経験者に語りかける想定でまとめた

 ガイドの特徴は、①空欄に書き込みながら進めるとおのずと考えを整理して具体的な働き方が浮かんでくる、②実践的なアドバイスが多い、という点だろう。フレンドリーで、独学でマスターできる学習参考書のようでもある。

「目の前にがん経験者の方がいると想定し、語りかけながらまとめることを重視しました」
 と、編集の中核を担った国立がん研究センターがんサバイバーシップ支援部の研究員、土屋雅子さんは語る。キャリアカウンセラーで、イギリスで心理士の資格も取得している。土屋さんは、研究班のメンバーで議論を重ねて生じた化学反応のようなものが、発想の源になっているというのだ。内容も、精査し修正を繰り返した。

 

 就活経験者の方へのアンケート調査(有効回答52人)、大学の就職支援担当者へのインタビュー調査(15人)を行い、結果を踏まえて編集したため、理念先行ではなく地に足がついている。

 がん体験についても、マイナスと捉えすぎない視点を示しつつ、ポジティブ一辺倒で積極的な開示を、というスタンスは取らない。がんには個人差があり、向き合い方も人それぞれでいい。土屋さんは、ニュートラルな情報提供を心がけたという。

「ガイドのタイトルに『よりよい意思決定のための』と付いています。これは、『決めるのはあなた』ということを意識したからです」 

 新型コロナウイルスは、就職にもさまざまな影響を与えている。ガイドは、新卒の学生だけでなく、転職や再就職を考えているがん経験者の味方にもなるだろう。

「どのような時代にも変わらないと思われる、自分のキャリアを築くための基本的な考え方を紹介しています。仕事について考えるヒント、自分と向き合うきっかけになればうれしいです」 

 公開から約3カ月。「とても温かみがある」という感想が届いている。

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