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元MDアンダーソンがんセンター
上野美和のテキサス便り
第7回 がん治療は望まぬ体重増を引き起こすのか?

掲載日:2020年10月22日 12時38分

 えっ、体重が増える?

 私が代表を務めるテキサス州公認の会社「メディエゾン」は、日本のがん患者さんが米国の医療機関で治療やセカンドオピニオンを受ける橋渡しをしています。

 これまでに500人近い方をサポートしてきましたが、体重が減少して体力が落ちたという方はいらしても、体重が増えて困った、という方にはお会いしたことがありません。

ハロウィンの季節。アメリカではよく、骸骨が登場する。体重は……!?

 ところが、2020年10月、MDアンダーソンがんセンターのサイトに「がん治療は望まぬ体重増を引き起こすのか?」という題の記事が載っていました。

 体重が増えるってどういうこと?  興味を惹かれて読んでみると、なるほど、という発見がいろいろとありました。

 解説しているのは、統合医療の専門医、ウェンリ・リュウ(Wenli Liu)先生です。 https://www.mdanderson.org/cancerwise/does-cancer-treatment-cause-unwanted-involuntary-weight-gain-side-effect.h00-159385890.html


 体重増加の3つの原因とは?

 リュウ先生は、がん治療中の予期せぬ体重増加の原因について、主に3つの点を挙げています。

①ステロイド  おそらく一番大きな原因です。  ステロイドは、抗炎症作用や抗アレルギー作用があるため、化学療法による炎症やアナフィラキシー反応の予防、脳腫瘍の患者の腫れの軽減、リンパ腫や骨髄腫などの治療薬として処方されています。一方で、欠点(副作用)は、食欲を刺激し食べ過ぎを引き起こすことなのです。

 私がMDアンダーソンで、リサーチナースとして働いていた時も、患者さんの使用薬剤を整理すると、ステロイドが出てきました。

ハロウィンに魔女は欠かせない。

 

②ホルモン抑制療法  乳がんや前立腺がんの患者が受けるようなホルモン療法も、望まぬ体重増加の一般的な原因です。ホルモン療法は、代謝に大きな影響を与え、体重増加を引き起こす可能性があります。

③恐れ  しばしば、やせて食事ができなくなることを恐れて、全く体重が減っていないのに、無理に食べてしまうことがあります。結果として、時間が経つにつれて、体重が増加します。


 体重を管理する臨床試験の中身

 どんな種類のがんの患者さんが、「望まぬ体重増加」の傾向があるのでしょうか。乳がんが最も多く、ほかに、リンパ腫、多発性骨髄腫、及び慢性白血病、前立腺がんなどが挙げられています。

 では、がん患者さんは体重をコントロールするために何ができるのでしょう?  体重を管理するためには、栄養士と協力して、栄養とバランスの取れた食生活を心がけることが大切です。

 1日に摂取するカロリーやタンパク質の量を純粋に数値で合わせるだけでは十分とは言えません。なぜなら、この2つだけがあなたの食事の質ではないからです。

 例えば、主にファーストフードを食べていては、1日に必要なカロリーやタンパク質を摂取できるものの、必要な栄養素が不足し、バランスが悪くなります。野菜中心の食事とはまるで違います。

 となると、医師は体重増加の防止のために何ができるのでしょう? 食欲を抑える薬も処方できますが、本当にカギを握るのは、食事のコントロールです。医師は患者を教育できます。ストレスの管理、食事や運動の指導など総合的なケアが最善だと考えられています。  しかし、実際に何を食べるかは患者にかかっています。

 MDアンダーソンでは、1つ、ライフスタイルに関連した臨床試験も行われています。目的は、体重増加の管理に限ったものではありません。参加者は、健康心理学者や栄養士から、食生活を変える方法、健康的な選択を学び、自分の決定を持続可能にする方法の指導を受けます。

 最も大切なことは、数字(数値)ではなく、気をつけてバランス良く食べること。そういう食生活に置き換えることのできるスーパーフードはありません。

MDアンダーソンがんセンター。駐車場も大きい。


「高カロリー食で太るように」 

 体重増加の大きな原因とされているステロイド。MDアンダーソンのサイトに、ステロイドの有益性とリスク(副作用)について、イシュワリア・サブビア(Ishwaria Subbiah)医師の解説が載っていました。記事のタイトルは「ステロイドはどのように機能するのか」。 https://www.mdanderson.org/cancerwise/how-do-steroids-work–in-cancer-treatment.h00-159385890.html

 まずはがん治療に関する有益性について。  炎症を抑える、化学療法に関する吐き気や嘔吐を抑える、CT検査で使用する造影剤に対するアレルギーのコントロール、MDアンダーソンの研究結果の1つとしての、がんに関連した倦怠感(疲労)の軽減。1日1、2回、短期間で少量のステロイドを服用することによって生活の質(QOL)を向上させ、エネルギーレベルを改善させられます。

 一方で、次のようなリスク(副作用)があります。  血糖値が上昇する(糖尿病の人は糖尿病治療薬の量の調整が必要)、陶酔感を覚えるなど認知機能を変化させる、食欲増進による体重増加、骨や筋肉の健康への影響、夜中に目が冴えるので睡眠・起床のサイクルが狂う、などです。

 ステロイドは、主治医や薬剤師など専門の知識を持つ医療チームと相談しながら、患者さん自身の体調に合わせた使用が必要だと思います。

 

 冒頭のメディエゾンでサポートさせていただく日本の患者さんには、健康的な食生活を意識されすぎて、カロリーが不足して痩せている方がけっこういらっしゃいます。渡米した患者さんの中には、体重減少による体力不足を医師から懸念されて、「高カロリー食をどんどん食べて太るように」という指示を出された方も少なくありません。

 意図しない体重増加も良くないですが、意識しすぎてのカロリー不足もマイナスなのでしょう。


これまでの、元MDアンダーソンがんセンター 上野美和のテキサス便りはこちらよりご覧いただけます
上野美和(うえの・みわ) 1964年、和歌山県生まれ。大阪薬科大学を卒業後、薬剤師の資格を取得。1991年、結婚を機に渡米。出産後、MDアンダーソンがんセンターでのボランティアを経てリサーチナース、データマネージャーを務める。2002年にメディエゾンLLC(合同会社)を立ち上げる。米国でセカンドオピニオンや医療、医療従事者への医療研修を受けたい人をサポートしている。

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