昨年12月から接種が始まった
日本より一足早く、アメリカでは、新型コロナウイルスのワクチン接種が始まりました。 MDアンダーソンがんセンターでも、昨年12月半ばごろより、患者さんと接する医療者から接種しています。ファイザーとモデルナ、どちらかのワクチンです。
がん患者にとって安全で接種を推奨される
まずは記事から。タイトルはずばり、「新型コロナウイルスワクチンについて知っておきたいこと」です。 https://www.mdanderson.org/cancerwise/9-things-to-know-about-the-covid-19-coronavirus-vaccine.h00-159387468.html
さまざまな疑問に答えているのは、チーフエグゼクティブのウェレラ・テレフ(Welela Tereffe)医師、感染症の専門家で内科部長のデビッド・トゥイアーディ(David Tweardy)医師、感染症および感染管理専門家のエリザベス・フレンツェル(Elizabeth Frenzel)医師です。
A.ファイザー、モデルナのワクチンともに、(薬を審査する)アメリカ食品医薬品局 (FDA) から緊急使用許可を受けています。入手可能なエビデンス(科学的根拠)を注意深く検証した結果、私たちの臨床専門家は、どちらのワクチンも、治療中及びかつて治療していたがん患者にとって、安全で接種を推奨されると判断しました。 現在、化学療法、免疫療法、CAR-T細胞療法、幹細胞治療を受けている方、あるいは臨床試験に参加している方もワクチンを受けられます。受けるタイミングについては、相談してみてください。 ファイザーとモデルナのワクチンは、どちらも2回の接種が必要です。治療スケジュールと調整して接種のタイミングを合わせると、より効果的になる可能性があります。 最近手術を受けた患者さんは、手術日からワクチンを接種するまで2週間待つ必要があります。 ワクチンを接種しても、マスクの着用、ソーシャルディスタンスの維持、こまめな手洗いなどの予防を続けることが重要です。
コロナに感染した人でも接種できる
A.はい。再感染の可能性もあり、ワクチン接種は、コロナから快復した人々を保護することが期待されます。接種可能な条件は、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)推奨の隔離期間の終了後であることです。コロナの治療でモノクローナル抗体療法または快復した患者の血漿投与を受けた場合は、治療後90日間は待ちます。 感染して症状が出た場合は、自然免疫が少なくとも3カ月間は持続する可能性があります。したがって、接種時期を90日間、延期することもできます。一方で、感染しても症状がなかった場合は、効果的な免疫がない可能性があるので、感染はワクチン接種の時期を判断する材料にはなりません。 ファイザーとモデルナのワクチンはともに、mRNA(メッセンジャーRNA)という遺伝物質を使っています。どちらも、効果を得るには、数週間の間隔をあけて2回接種する必要があります。 なお、今回のワクチン開発のスピードは驚異的です。通常は、新しい感染症が特定されてから10年から15年、かかります。mRNAタイプの技術がワクチンに使われたのは、今回が初めてです。ほかに3つ、違うタイプのワクチンが開発中です。
A.使えます。今回と同じファミリーのコロナウイルスなら、次のパンデミックが起こる前にワクチンを準備できる可能性があります。理論的には、次のパンデミックを止めることができます。
効果の持続期間はインフルエンザワクチンと同じぐらい?
A.安全性に関するデータはまだ得られていません。ただ、授乳中の乳児に対するmRNAワクチンのリスクがあるとは考えられていません。 アメリカ疾病予防管理センターによると、妊婦がコロナウイルスに感染した場合、重症になると、早産などのリスクがあります。医療者に相談して、よく考えることが大切です。
A.臨床試験に参加した多くの人たちが今も追跡期間中なので、まだわかりません。6カ月以上とは言わないまでも少なくとも3カ月は効果があると信じています。推測ですが、呼吸器系のウイルスは長期的な免疫につながらないので、インフルエンザに近いものになるでしょう。
ワクチンでコロナになることはまずない
1月21日、MDアンダーソンのフェイスブックにワクチンに関するビデオがアップされました。2分少々の短いビデオですが、いま紹介したQ&Aの記事で回答している医師たちも登場して、ワクチンの接種を勧めています。主にここまでで触れていないことをお伝えします。 https://www.facebook.com/MDAnderson/videos/907345680092596
がんの治療を受けている人ではワクチンの効果が少し劣るかもしれませんが、たとえそうでも、ワクチンを接種することのほうがより大切です。 ワクチンはコロナの重症化を防ぎます。これはがん患者にとって非常に重要です。がん患者は重症化する傾向があるからです。 もし家庭に小児がんの患者がいれば、ケアを提供する人がワクチンを接種することが推奨されます。
このワクチンには生ワクチンが入っていないので、病気になる(コロナを発症する)ことはまずありません。副反応があるかもしれませんが、実際に感染して重症になるよりも、ワクチンを接種することをお勧めします。 ごく一部の人では、重篤なアレルギー反応(アナフィラキシーショック)が起こる可能性があります。しかし今のところ、このような反応を示した人の数は非常に少ないです。
免疫系が最強のタイミングで接種する
がん患者は場所など関係なく、できる限り早く接種するべきです。近くて便利な場所がワクチンを受けるべき場所です。
がん患者は、がんと治療のために、最も効果的な免疫反応を引き起こす能力が低下する傾向にあります。しかし、ワクチン接種の時間を計算することで、それを改善できます。免疫系が最強のタイミングで受けましょう。
ワクチンの効果を最大限に高めるには、医師と協力して(相談して)、化学療法やその他の治療を受けている時期を見ながらワクチンの接種時期を決めることが重要です。■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
MDアンダーソンのフェイスブックの映像を見ると、登場する医師たちがあまりに確信を持ってワクチン接種を勧めているので、ちょっと驚きます。 ただ論点は明快で、たとえ多少の副反応が出たとしても、感染して重症化するリスクを思えば、接種のメリットのほうが大きいと彼らは判断しているのです。 ファイザー、モデルナともに、ワクチンの有効性は95%ほどと言われます。ワクチンを接種した人の発症リスクは、接種していない人と比べて20分の1というわけです。 日本では、ワクチンの安全性や効果の持続期間、接種体制など課題に焦点を当てた報道が目立つ印象を受けます。なんとなく不安を覚える方もいらっしゃることでしょう。
でも、世界最速のペースで国民のワクチン接種が進むイスラエルでは、ファイザーのワクチンを2回接種して1週間以上が経過した12万8600人を追跡調査したところ、陽性が確認された人は20人。率にして0.015%という高い効果が確認されています。しかもこの20人は全員、重症化していません。 日本における接種開始はまだ少し先になりそうですね。今後、MDアンダーソン発の情報に大きな方針転換などがあれば、改めてお伝えします。