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佐々木常雄の「灯をかかげながら」
第16回 免疫チェックポイント阻害薬の併用

掲載日:2021年12月1日 9時30分

がんの薬物療法に3種類

 2015年、免疫チェックポイント阻害薬が開発され、2018年には本庶佑先生がノーベル賞に輝きました。薬の効果はいろいろながん種におよび、末期がんとも思われる方にも驚くほどの効果を発揮しますが、一方では、その高額な点が話題になりました。

 がんの薬物療法は、主に抗がん薬、分子標的薬、そして免疫チェックポイント阻害薬の3種類に分けられます。

 抗がん薬は、がん細胞を殺します。がん細胞の核、DNAを攻撃するのです。副作用として、嘔気嘔吐や白血球数が減少し、髪の毛が抜けるなど正常細胞にもダメージがありました。

 分子標的薬は、がん細胞を直接殺すのではなく、がん細胞の中の、がんが増殖に関わる因子を攻撃するのです。抗がん剤のようにDNAを攻撃するのではないことから、白血球数は減らない、免疫抑制はないと考えられました。しかし、発疹や肺炎など、抗がん薬では少なかった思わぬ副作用がありました。また、たとえ、よく効いて、がんが消えたように見えても、DNAを直接殺していないので、どこかにがん細胞は潜んでいるのではないか? どこかに隠れているのではないか? そのようにも考えられました。


免疫機能を再び活性化させる、阻害薬

 ところが、免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞によって抑えられていた免疫機能を再び活性化させる、免疫ががん細胞を攻撃する力を保つ薬なのです。がん細胞に直接作用すると言うよりは、薬が身体の免疫機能に関わるのです。

 白血球のリンパ球のT細胞にブレーキがかかる分子を「免疫チェックポイント」といいます。これは自己に対する免疫応答を抑える、あるいは過剰な免疫反応を抑制する分子群です。免疫チェックポイント阻害薬は、免疫を抑えるためのチェックポイントに関わる分子を標的とします。

 つまりT細胞にかけられた免疫のブレーキを解除する働きがあるのです。そのため、抗がん薬や、分子標的薬とはまったく異なる副作用が起こる可能性があります。

 免疫チェックポイント阻害薬には現在3種類があり、「抗PD-1抗体」「抗CTLA-4抗体」「抗PDL-1抗体」です。

 最近、抗PD-1抗体ニボルブマブと抗CTLA-4抗体イピリムマブの併用療法が、さらに効果を高めたことから、悪性黒色腫、腎細胞がん、MSH-high 結腸直腸がんではすでに承認され、非小細胞肺がんの1次治療化学療法併用、悪性胸膜中皮腫にも承認申請が提出されています。


阻害薬2剤を併用する時代に

 免疫チェックポイント阻害薬が出てきた時に、あまりの高額に「75歳以上の方には使わない、あるいは、保険が効かないようにする」などの意見が出ました。 それが、いまや、免疫チェックポイント阻害薬2剤を併用する時代になってきたのです。もちろん、国民皆保険も大切ですし、高額療養費制度により一定額以上は戻ってきます。

 この2年間は、コロナの流行で、医療崩壊、命のトリアージが大きな問題となりましたが、この間もがん医療は大きく進歩したのです。

 薬がもっと安くならないかと思うことと、ここ約10年間の「経済最優先」という言葉が気になります。本来、「経済」とはお金のことではなく「経世済民」のこと、人を救って幸せにすることと教わってきました。

 長い間、医療現場で働いてきた者として、最も大切なのはひとり一人の命です。


シリーズ「灯をかかげながら」 ~都立駒込病院名誉院長・公益財団法人日本対がん協会評議員 佐々木常雄~

がん医療に携わって50年、佐々木常雄・都立駒込病院名誉院長・公益財団法人日本対がん協会評議員の長年の臨床経験をもとにしたエッセイを随時掲載していきます。なお、個人のエピソードは、プライバシーを守るため一部改変しています。


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