がん告知を受けてやるべき3つの単純なこと
著者は大学卒業後、外資系の企業を渡り歩き、帰国してシンクタンク系コンサルティング会社に入社。プロジェクトマネージャーとしてバリバリ仕事をしていた。2018年7月26日に受けた会社の定期健康診断で白血病の疑いを指摘され、大学病院の精密検査で告知された。
目の前が真っ暗になった。しかし、ここからが著者は違っていた。コンサルタントとしての経験を生かした発想の転換をスタートさせる。
まず、タスクが山積みだとストレスを感じるが、周りのヘルプを借りながら対応すると気分も軽くなり、仕事が回り出すことを思い出した。また、「なんで私だけ病気になるの?」と、くさくさ・いじいじしないこと。考えるだけ無駄なことを知っていた。
病気など、人生において突然「電源オフ」を強いられた時に、それを乗り越えるためにするべき3つの術を著者は教えてくれる。それは、実に単純なことばかりだ。
①発想を転換する、②自分を責めない、③シンプルな生活ルールを順守する。
この3つのことは退院後に襲ってきたコロナ禍の自粛生活でも適用されることを証明した。
病院で生かされるプロジェクトチームの作り方
コンサルタントとして仕事をしていく上で、チーム作りは欠かせない。その経験が闘病にも生かされた。
まずコアなメンバーは著者と主治医、それ以外メンバーとして看護師や薬剤師だけでなく、病室の掃除担当者や院内レストランのスタッフまで、治療をゴールとしたチームを勝手に立ち上げた。入院生活は孤独になりがちだが、妄想でもメンバーをそろえると前向きな気持ちでなれるのでお勧めの方法だ。
ただ、注意しなければならないのは「医師と患者はなんでも腹を割って話し合える間柄ではない」ということだ。主治医はリスクについての説明はするが、問題が発生しなかった場合の話はほとんどしない。「大丈夫です。うまくいきます。何も心配はありません」とは、決していわないのである。だから、患者は主治医のいったことを「翻訳」する能力を身につけて、不必要なストレスや不安を持たないように心掛けないといけない。
しかし、もしストレスを感じてしまったならば、主治医に本心をぶつけることも必要だと説く。
そして、「笑顔は“最高のコミュニケーションツール”なのだ」と、どんな相手にも笑顔を忘れないようにと勧める。
無菌室の魅力
入った初日は孤独な独房と思われ直ちに出たい願った無菌室が、2ヶ月後に出ることになった時はまったく違った印象になっていた。実は、治療のための快適な空間だった。
他人の出す音に悩まされることはなく、パソコンやスマートフォンも無料のWi-Fiが使い放題だった。家族ともいつでも電話することができた。
個室なので消灯時間もなく、寝つけない時は深夜でもテレビを見て気分を紛らすことができた。
ネガティブな印象が時間とともに払拭されていく、それが無菌室だった。
中学受験の長女から感謝の手紙
罹患当時、小学1年生と5年生の娘を育てていた。入院中の娘たちの面倒は、夫や両親、さらにはママ友にお願いできたが、問題は親のサポートが必要な長女の中学受験だった。
ここでもコンサルタントの精神が発揮される。白血球数が安定している時期に、病棟の会議室を借りて、不得手だった算数の問題を長女の横に座り、苦手問題を克服するまで繰り返しさせた。点滴をしている患者が子供の勉強に髪を振り乱している姿に、様子を見にきた看護師は皆驚いていた。本にはコラムとして、娘たちのメモ書きと長女からの感謝の手紙が挿入されていて微笑ましい。
治療の医学的な詳細が避けられているが、「治療の辛さや困難さについてなるべく書かないようにと決めていた」。なぜなら、克明に書かれている闘病記は悲壮感にあふれ、読んでいて辛くなると思ったからだ。だから前向きな思考で、読者を元気づける闘病記といえる。
一言だけ苦言を呈すると、経営学の専門用語、特にカタカナ用語がさりげなく登場することだ。その都度辞書を引いて意味を調べなければならなかった。