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第67回 面倒くさいカラダ/木口マリのがんのココロ

掲載日:2022年11月11日 9時30分


 面倒くさい体になったもんだと、つくづく思います。  

 がん治療からのさまざまな後遺症・合併症は地味に厄介だし、疲れやすいし、ついでにお金もちょいちょいかかる。  

   お出かけのとき、まずおこなうことは「想像」。  もともと、朝はシャワーを浴びたり化粧をしたりと、いろいろ時間をくう作業があるけれど、それに加えて今日1日の体の調子をイメージしながら準備をしていかねばなりません。  

 8年前の腸の手術(人工肛門閉鎖術)以降、毎日起こるお腹の不調のためには、出かける数時間前に食事をする必要があるし、ヘンなところでお腹が痛くなる可能性を考えると「今日はこの地点で栄養補給をすれば持ちそうだ」とか「そのためにはどういう動き方をするか」とか考えないといけません。  

 足のリンパ浮腫のためにも、やはり1日をシミュレーションして、「どの服装なら的確か」と着るものを考えるのも面倒くさい。当然、着たい服が着られないこともあるし、調子が悪くなったときを考えて、状況に応じたリンパ浮腫グッズを持ち物に加える必要があることも。  

 家でのオンライン会議のときも、「同じ姿勢に足が耐えられるか」を計算に入れて準備をします。  

 そんなふうに体に問いかけながら行動しても、不意にさまざまな部位に不調が出てしまう場合もあります。そのおかげで全身の状態が悪くなり、思うように仕事が進まないことも多々。  

 若いうちから女性ホルモンは足りなくなるし、骨粗しょう症と診断されるし、ずいぶんと年月をすっ飛ばして老化したような気がします。まるで体だけ時空をワープしたかのようだ。  

●案外、ラッキーなのかもしれない


 でも一方で、長い目で見ると「もしかしたらラッキーだったのかもしれない」と思ったりもします。多くの人が高齢になって初めて出会うことを、そこそこ若いうちに経験できるのはいろいろな利点があるな、と。  

 がんになった人はみんなそうだけれど、たとえ治療が終わっても、長いこと検査や診察を受ける必要があります。そのおかげで、定期的にきっちりと、それこそ血液やら内蔵の具合やらも医師に診てもらえるわけで、それに応じて丁寧に体を整えていけるのはありがたい。  

 普通なら「改めて病院に行って、聞いてみることだろうか」と思うようなちょっとした質問もついでにできるし、年をとるほどに増えていくであろう不調を、かなり早い段階で気づけるのは大きな利点。  

 例えば骨粗しょう症も、「今、発見できたなら、できることはより多くなるのでは」と思います。  これまでは、「いつか骨が弱くなるのだろうな。カルシウムを摂っておけばいいのかな」などと、何となくの対策しか取っていなかったけれど、今は、骨の構造やどんな運動が骨を強くするかも専門医から教えてもらえるし、検査のたびにその成果を確認できます。  

 リンパ浮腫改善のために、医師から「体重を落として」と指示されて食事制限や運動をしてみたら、逆に前よりスタイルがよくなった(気がする)。  

 エストロゲン(女性ホルモン)補充療法で乳がん発症のリスクが上がるからと事前の検査をしてみたら、まんまと微妙な影が見つかって、毎年きちっと乳腺外科で経過観察を受けられるようになったり(何かあってもかなり早く発見できる)。  

 それは言うなれば、「私の体はさまざまな面で想定よりも早く“下降”が始まってしまったけれど、そのカーブを緩やかにしていけるようになった」というところでしょうか。  何なら、緩いカーブのまま、ほとんど下降せずに年を取っていけるのかもしれない。そうなれば、儲けもんだ。  

 加えて、さらに大きな利点もあります。それは、常に病院と接点があることや、医療の知識が増えたこと。そのおかげで、家族や友人に何かあったときに役に立てます。小さな相談ごとのこともあるし、場合によっては、自分以上に困難な状況の人の助け舟になれることも。  

 自分に起こった厄介ごとも、使いようによってはいい方向に活用できるものだなと、これまたつくづく思います。  


 体の調子が以前とは違ってしまい、自由が効かない部分はたくさんあるし、毎日いろいろ面倒くさい。ワープした体の時間を思うと、フワッとした寂しさが心の中を漂うこともあります。  

 しかし、いずれにしても年を取っていけば何かしら以前できたことができなくなったり、不調が起きたりするものです。それがだいぶ早くに訪れたわけだけれど、見合うだけの恩恵は結構あるような気がします。  

 それはそれで、悪いもんじゃない。減った分以上に、ラッキーな部分をフル活用していけたらと思います。  


 

木口マリ
「がんフォト*がんストーリー」代表 執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。2013年に子宮頸がんが発覚。一時は人工肛門に。現在は、医療系を中心とした取材のほか、ウェブ写真展「がんフォト*がんストーリー」を運営。ブログ「ハッピーな療養生活のススメ」を公開中。
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