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村本 高史の「がんを越え、”働く”を見つめる」
第14回「アンコンシャスバイアス」を考える

掲載日:2023年4月12日 12時00分

「無理しないでね」。事情を抱える中、この言葉に救われた人はきっといるでしょう。

一方で、同じ言葉をかけられ、複雑な思いをする人もいたりします。

今回は、こうした言葉をかける側の背景にあることについて考えてみましょう。


知らず知らずのうちに

 環境が益々不透明になると共にデジタル化が一層進み、働く人の多くは、実に忙しい毎日を過ごしています。

 とりわけ管理職の仕事の負担は、さらに増しているのではないでしょうか。次々と判断を下して仕事を進めながら、メンバーも育てなければならず、時間がいくらあっても足りないというのが本音だったりするかもしれません。

 そのような昨今、「アンコンシャスバイアス」(以下「アンコン」)という言葉を世間でよく聞くようになりました。私が勤務するサッポロビールでも、今年に入り、管理職向けにアンコンの研修を実施しています。

 一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所によれば、「アンコン」とは、日本語で「無意識の思い込み」のことで、「日常にあふれていて、誰にでもあるもの」とされています。

 管理職に限らず、慌ただしい毎日の中で咄嗟に出る言葉には、気づかない内に「アンコン」が反映されているかもしれません。時代の変化で、今までの常識が通じなくなっている中では尚更です。

 働く人たちの多様性も拡大し、価値観も様々になりました。例えば事情を抱えた社員に対し、よかれと思って投げかけた言葉が「アンコン」の上に成り立ち、ある人には救いになっても、別の人には複雑な気持ちにさせてしまうような場面もありそうです。


がんを巡るアンコン

 がんに関連して、同研究所は、「『がん=死』といったアンコンシャスバイアスもあるかもしれないし、『がん治療をしながら働くのは難しい』といったアンコンシャスバイアスもあるかもしれない」と指摘しています。

 同研究所が2022年の初めに実施した「がんと仕事に関する意識調査」(※)では、3,166名の声から、がんに関するアンコンの問題が浮き彫りになりました。

 「『がんになっても、治療と仕事を両立したほうが良い』という意見は、がん経験者では6 割、周囲では4割」とギャップがあり、「仕事をこれまでどおり続けたいがん経験者の意向と、周囲の考えには大きな乖離がある」ことは、がんと仕事の両立を巡る社会全体の大きな課題です。

 また、「がん経験者は、上司が理解・支援してくれた場合には 6 割が『これまでどおり働いた』、してくれなかった場合には3割が『働くことをやめた』」というのは、アンコンがあるが故の重大な影響とも言えます。

 調査報告書では、「周囲の人は、がん経験者の働き方について、当事者不在で判断せず、意向を確認する」ことを提言の締めくくりとしています。

 自分のアンコンがどのようなものかを時には見つめること。勝手に決めつけず、まずは相手の話をきちんと聴くこと。

 がんと仕事の両立の上でも、がんに限らずともお互いの力を最大限に発揮し合いながら生き生きと働いていくためにも、とても大切なことではないでしょうか。



※一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所「がんと仕事に関する意識調査」(2022年1~2月実施)
https://www.unconsciousbias-lab.org/cancer


村本高史(むらもと・たかし)
サッポロビール株式会社 人事部 プランニング・ディレクター
1964年東京都生まれ。
1987年サッポロビール入社。
2009年に頸部食道がんを発症し、放射線治療で寛解。
11年、人事総務部長在任時に再発し、手術で喉頭を全摘。その後、食道発声法を習得。
14年秋より専門職として社内コミュニケーション強化に取組む一方、がん経験者の社内コミュニティ「Can Stars」の立上げ等、治療と仕事の両立支援策を推進。
現在はNPO法人日本がんサバイバーシップネットワークの副代表理事や厚生労働省「がん診療連携拠点病院等の指定検討会」構成員も務めている。



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