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第72回 がん後の引っ越しは大変だ!/木口マリのがんのココロ

掲載日:2023年9月8日 12時35分

 先日、引っ越しをしました。2カ月ちょっとかかって、どうにか山積みのダンボールに囲まれる生活から脱してきました。
 私は引っ越しの準備や片付けが意外と好きだけれど、いつもそれなりに疲れます。しかし今回は、何だかもう、これまでの3倍くらい大変でした。

 今回のお話は、がん経験者が引っ越しをするときの、キグチなりのポイントです。

●「休み休みやるべし」は分かっているけど……!

がんになった後の引っ越しは、いろいろ難儀なことも。

 なぜ3倍くらい大変だったかというと、最後に引っ越しをしたのは病気前で、そのときの経験を基準に考えていたから。「がん治療の後遺症」「体力の落ち具合」「環境変化に対応できずにヘトヘトになるカラダ」を、計算に入れるのを忘れていました。

 

 日々の生活では、常に体の調子を考えて計画的に行動しているというのに、こういう特別なときだけ、なぜ計算のスイッチを入れ忘れるのか。しかも、荷造りを始めてから「あれ、何かヘンだ」と気づくという。

 

 私の場合、体を動かす作業のときに厄介なのは、体力の無さと足のリンパ浮腫です。特にリンパ浮腫は、これまでもがんココで書いてきたように、立ったままでも、座ったままでも、とにかく同じ姿勢でいるのがダメ。下半身にリンパ液が溜まって痛みが出るだけでなく、全身にだるさがまとわりついてきます。そうするともう、作業どころではない。

 

「休み休みやるべし」「ときどき姿勢を変えるべし」というのを分かっていても、作業に集中してしまうとフッと忘れてしまうのが困ったところ。しかも今回は、最初から体のことなど頭からスッ飛んでいて、ガシガシと作業を始めてしまったから、急に「ヤバイ」となったのでした。

 

 そうなってしまうと、全然作業がはかどらない。これじゃ引っ越しまでに終わらない!! ……ということで急遽、近くに住む姉、登場。テキパキと梱包してくれて、逆に予定よりも早く片付いたのでした。ありがたや。

 

●新居でも誤算……

こんな階段、山にあった気がする……。

 荷造りのときは体のことをすっかり忘れていたキグチですが、家探しのときは、かなり慎重でした。

 身体的な懸念事項があると、一般的な家探しの「金額、間取り、築年数」などに加えて、独特な条件も考慮する必要があります。

 私の場合は、やはり「足に負担がかかりすぎない」が大きくて、その地域の地形や環境などがポイントでした。さらに、日常的な活動のなかでほんの少しずつ体力を上げていきたいと思っていたので、できればちょっと負荷がかかるくらいがちょうどいい。

 そうして探すこと数カ月……。緩い坂道が続く丘の上にある家と、階段のある家を見つけました。

 最終的に、階段のある家に決定。「しめしめ、これで日常の動作で体力が上がるはず」と思っていたのだけど、ここでまた、ちょっとした誤算が生じてしまいました。

 木の階段を1日に何度も上り下りするのは、想定外に足に負担がかかったのです(驚愕の運動不足ともいう)。しかもよく見れば、相当な急階段。もはや「上る」というより「登る」に近い。

 もう一度引っ越したくもなったけれど、さすがにそうもいかず。手すりを握りしめ、できる限り腕の力で登ってみたり、刺激を少なくするようゆっくりと下りてみたり。もはや登山をしているかのようなこの環境(階段)に、何とか足が耐えうる力を付けるのを待つしかない。

 それから1カ月くらい経つと、多少楽になってきたのを感じました。階段のせい(多分)で、蜂窩織炎になりかけて抗生剤のお世話になることもあったけれど、足よ、よくがんばった。

 こうして見ると、家の中の階段って、ことのほか体の機能向上に役立っているのかもしれない。「実家の両親が元気なのは、階段のおかげかも」などと思いました。

●キグチ的、がん後のお引っ越しポイント

「社長イス」と命名

 余談ですが、新居ではオフィス部屋を作ってみました。イスは、これまた家と同じくらい吟味して、社長イスのようなデラックスなものをゲット。これみよがしに、フットレストも付いている。このイスが、私にはなかなかに正解でした。

 今までは部屋のどこで仕事をしていてもすぐに浮腫が悪化するし、そのせいで全身が疲弊するしで、かなり仕事に支障がありました。さまざまなクッションを試してみたりパソコン台を変えてみたり、工夫を凝らして何とかがんばっていたのだけど、ようやく今の体に合うイスと作業空間を得ることができました。

 ところで座り仕事のリンパ浮腫患者さんたちのなかには、密かにイスで困っている人も多いのではと思うのですが、どうでしょうか。

人を頼ろう!(荷造りに来てゴミ箱で遊ぶ姉)


 引っ越しは、いつもと違う特別なイベントです。そんなとき、自分でも気付かないうちに無理してしまうこともあるはず。これから引っ越そうと考えているがん患者さん、がん経験者さんへ、私が考えるお引っ越しポイントはこちら!

・荷造り・荷解きとも、とにかく日数を長〜く予定しておく!(で、のんびり進める)

・休憩は、自分に甘すぎなくらい甘く!(もうちょっといける、と思ったときは休み時)

・人を頼ろう!(家族やお友達と一緒に作業すると楽しいかも)

・引っ越し後も注意!(引っ越して初めて気づく「想定外」があることも)

 自分で書いたアドバイスだけれど、次回は私もこんなふうに対処できるようにしよう。みなさんもお試しください。

木口マリ
「がんフォト*がんストーリー」代表 執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。2013年に子宮頸がんが発覚。一時は人工肛門に。現在は、医療系を中心とした取材のほか、ウェブ写真展「がんフォト*がんストーリー」を運営。ブログ「ハッピーな療養生活のススメ」を公開中。
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