加味帰脾湯(かみきひとう)という漢方薬は、精神不安や神経症、不安症の方に用いられる、いわゆる「気」を上げる漢方薬なのですが、一方で全身倦怠感や貧血など、身体が弱っている症状も改善させます。最近の研究結果により、加味帰脾湯は抗不安、鎮痛、催眠効果を有し、人と人、親と子、人と動物の愛情を育む愛情ホルモンと呼ばれている「オキシトシン」の作用を通してはたらいていることがわかってきました。オキシトシンと加味帰脾湯の効能・効果を比較しますと、その作用には共通するところがあります(図1)。
漢方薬とは、2種類以上の生薬でできており、最大の生薬数は18種類です(【豆知識】参照)。加味帰脾湯は14種類の生薬でできています(図2)。この14種の中に、オキシトシン神経を活性化する可能性のある生薬が6つあることが私たちの研究でわかってきました。加味帰脾湯の精神と身体に作用する効能のいくつかは、愛情ホルモンと言われるオキシトシンの作用を介しているかもしれないですね。最近の事例では、加味帰脾湯は新型コロナウイルス感染症に対し、後遺症(身体が何となくシャッキとしない、疲労感、気分の落ち込み、不眠)に改善効果のある漢方薬として流行初期より、そして今も用いられています。愛情ホルモン、オキシトシンの多彩な作用が後遺症改善に一役買っている可能性もありますね。14種類の生薬で構成されている加味帰脾湯は、オキシトシンの作用を通して行われる薬効に加え、もちろん他のシグナルも介して心と身体に作用していると考えられます。私たちは、加味帰脾湯が「なぜ効くのか?」について、科学的なアプローチでその答えを目指しています。
【豆知識】
漢方薬は生薬でできていますが、構成生薬数が最小のものは2種類です。皆さんも馴染みの深い芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)は芍薬と甘草の2種類でできています。また、桔梗湯(ききょうとう)(桔梗+甘草)、大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)(大黄+甘草)も2種類で構成されている漢方薬です。一般的に構成生薬の数が少ない漢方薬ほどすぐに効く(即効性がある)と言われています。こむら返りに芍薬甘草湯がすぐに効いた経験を持たれている方も多いかと思います。その一方で、保険適用漢方薬の中で一番多くの生薬でできている漢方薬は、肥満、むくみ、便秘に効果がある防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)で、なんと18種類の生薬よりできています。効果を出すには継続的服薬が必要かもしれませんね!加味帰脾湯は14種類の生薬でできています。じっくりと服薬することが必要かもですね。