新着情報

第76回 「私らしく」って、どんなこと?/木口マリの「がんのココロ」

掲載日:2024年3月5日 12時08分

 最近、さまざまなところで「私らしく」という言葉を耳にするようになりました。みなさんは、私らしくってどんなことだと思いますか?

「私らしく生きる」というと、がんの世界においては「たとえがんになったとしても、それが人生の中心ではない。治療をしつつも自分の生き方をしていこう」という意味で使われているように思います。この言葉に、「そうだよね!」と共感した人も多いかもしれません。

 私も、ずっと自分らしく生きたいと思っていたし、以前おこなっていた病院内写真展のコンセプトにしたこともありました。

 しかし言葉というのは、唱えれば唱えるほどよくわからなくなってくるものです。「私らしく」も、結局どういうことなのだろうと頭をかしげてしまいました。ニュアンスとしては理解していても、突き詰めるほど本当に何が「私らしい」のかわからなくなってしまう。

「私らしく」って、とても曖昧な言葉です。ズバリ「これが私らしさなんだ!」と宣言できる人は、そんなにいないと思います。私も「あなたの私らしさとは?」と聞かれて、「これだ!」というものはすぐに思いつきませんでした。

 そこでキグチなりに考えてみました。「私らしく」って何なのか。

●「偽りなく心地いい」と感じられること

「心地いいわたし」の図(『肺がんブック』のラフ画)


 このところ「私らしさって何ぞや」と始終考えていたせいか、この言葉に対するアンテナみたいなものが張られてきて、「私らしく」に耳ざとく反応してしまいます。

 最近観ているちょっと古い海外ドラマ『HEROES/ヒーローズ』(NBC)のなかでも「私らしく(自分らしく)」をキャッチしました。

 物語には、ある日突然ヒーロー的な能力に目覚めてしまった“普通の人々”が登場します。その一人である不死身の少女クレアは、両親から自分の能力を秘密にして生きろと言われ、本当の自分を出せずに窮屈な生活を強いられていました。ところがあるときそのうっぷんが爆発。「自分らしく生きたいのよ!」と、父親にうったえ、ハラハラさせるような突拍子もない行動に出るのでした。

 ここでしばし考える。クレアにとっての私らしいとは、何なのか。  クレアは、両親の考えた安全策を、「他者が決めたワクに自分を偽ってフィットさせなければいけない」と受け取ったのかもしれない。それが、自分らしくないと感じたのではあるまいか。

 それならば、能力(人と違っているかどうか)よりも、クレア自身が元々持っている気質が関係しているように思いました。もしかしたら、人によっては同じ状況でも何のストレスもなく暮らせるのかもしれない。

 だとすると「私らしい」は、「自分に問いかけたとき、偽りなく心地いいと感じられること」なのだろうと思いました。秀でた能力だろうと、病気だろうと、「人とどう違っているか」は関係ないのです。それよりも、自分がどう感じて、そのうえでどう行動するかが大事なんだと思います。

●「私らしい」の見つけ方


 では、どうやったら「私らしい」を見つけられるのでしょうか。先ほど「曖昧な言葉だ」と書いたように、「コレだ」というものはなかなか出てこないかもしれません。

 そんなときは「私らしい」を探そうとするのではなく、何かひとつの物事に対して「コレは自分にとってしっくりくるかどうか」を考えてみるといいのではと思います。

 例えば脱毛中の過ごし方でいうと、多くの場合「ウィッグをかぶる」と考えがちですが、それは自分にとってしっくりくるでしょうか。

 ウィッグをかぶることで少しでも気持ちが落ち着くなら「私らしい」なのだろうし、何か違うと感じるなら、その人にとっては「私らしくない」になります。ちなみに、私にとってウィッグは、しっくりきませんでした。

 そんなふうに、一つ一つに対して「自分に合っているかどうか」を考えていくと、だんだんと何が「私らしい」のか浮き出てくるかもしれません。

「人工肛門でビキニ」の図(キグチの日記より)


 私が考えて出てきた「私らしさ」は、「自由であること」のようです。今のところ、多分、そんな感じです。冒険心が高めだし、旅で知らない街を歩くときも、生き方を考えるときも、どれが一番楽しそうかを直感で選んでいるよな、と思いました。たとえ険しい道であっても、人と違う方向であっても、私にとっては楽しそうな方が自分に合っている道です。

 治療が始まった途端、「今は休むときなのだ」と考えて仕事をまったくしないとか(想定外に長く休んでしまいましたが)。抗がん剤での脱毛中にウィッグを使わず、スカーフやサングラスなどで、いかにカッコイイがん患者になるかを追求するとか(これがかなり楽しい)。人工肛門でも、あえてビキニに挑戦するとか(これも楽しい)。

 そんな生き方が、私にとっての「私らしい」なんだと思います。

●がんになっても「私らしく」に近づけたい

「酒好きなところも私らしい私」の図


 「私らしい」って、「自分のペースで」ともいえると思います。治療でも生活でも、ガシガシやりたい人はそれでいいし、ゆっくりいきたい人はそれでいい。

 もし、やりたいことがあるのなら、それをやっていくのがその人らしさだし、何かやりたいことがあるわけではないけど、今までどおりに暮らしたいというのも、その人らしさです。

 いずれにしても、がんになったためにそれを諦めるのではなく、できる限り「私らしい」に近づけていけるといいですよね。現代の医療は、だんだんとそれができるようになってきているし、医療従事者のみなさんも、それを実現できるように一緒に考えてくれるようになってきたと実感しています。

 だからこそ、「私らしく生きるには」をテーマに掲げたイベントが増えているのでしょう。イベントをおこなう人たちの、そうあってほしいという想いが込められているように感じます。現在、私(がんフォト*がんストーリー)が関わらせてもらっている3つのイベントも、「私らしく」がテーマになっています。そういったイベントをのぞくうちに、病気があっても少しでも心地よく生きるためのヒントが得られるかもしれません。

 



 ところで、「私らしい」よりもわかりやすい言葉はないだろうかと考えて、最近、私が好んで使っている言葉があります。

 それは、「私なり」。何となく、「私なりの生き方」の方が、しっくりくる気がしています。マイペース感がありませんか? これはもう、好みの問題ですが。

【近日開催の「私らしく」がテーマのイベント】

 キグチも多かれ少なかれ関わっています。よかったら遊びにいらしてください!

●3月20日(水・祝)
『AYAフェスタ2024 〜がんになってもあなたらしく〜』
主催:がん研有明病院
場所:有明ガーデン(東京都 有明)
詳細:今後「がんフォト*がんストーリー」のウェブサイト(https://www.ganphoto-ganstory.com)・SNS等でもお知らせします。

●3月30日(土)
『がん治療中でも辛くなく生活できるお助けポイント 安心でいられるための虎の巻』
主催:TeamCML@Japan、食道がんサバイバーズシェアリングス、ピンクバルーン
場所:ワテラスコモン・ギャラリー(東京都 御茶ノ水)
詳細:食がんリングス(https://www.shokuganrings.com/toranomaki)、ピンクバルーン(https://www.pinkballoon.jp/toranomaki

●6月2日(日)
『ジャパン・キャンサー・サバイバーズ・デイ』がんと診断された方への最初の処方箋
~わたしらしく生きるために~
主催:日本対がん協会 がんサバイバー・クラブ
場所:国立がん研究センター中央病院研究棟(東京都 築地)
詳細:https://www.gsclub.jp/jcsd2024


 

木口マリ
「がんフォト*がんストーリー」代表 執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。2013年に子宮頸がんが発覚。一時は人工肛門に。現在は、医療系を中心とした取材のほか、ウェブ写真展「がんフォト*がんストーリー」を運営。ブログ「ハッピーな療養生活のススメ」を公開中。
ぜひメールマガジンにご登録ください。
ぜひメールマガジンに
ご登録ください。
治りたい
治りたい
治りたい
治りたい
治りたい