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村本 高史の「がんを越え、”働く”を見つめる」
第20回 両立支援で大事なこと⑥~ピアサポート その2

掲載日:2024年6月12日 18時00分

 先日6月2日(日)、日本対がん協会主催のイベント「JAPAN CANCER SURVIVORS DAY 2024」が東京築地の国立がん研究センターで開催されました。「がんと診断された方への最初の処方箋」と題された今回は、「わたしらしく生きるためのヒント」を始めとする講演に加え、患者会や支援団体のブースも設けられ、賑わっていました。

 会場を訪れると患者仲間や支援団体の見知った方、懐かしい方とも再会できたことで、元気やエネルギーも補給でき、リアルな場ならではの対面のよさも実感しました。



ピアサポートの現状と課題

 不安や苦悩を抱える人にとって、同じような仲間がいることは大変心強いものがあります。この観点から、がんを経験する人にとって重要なものが仲間同士の相互支援、「ピアサポート」です。実際に世間では、院内がんサロンや患者会、支援団体が大きな役割を果たしています。

 しかし、昨年実施された「患者体験調査」(※1)では、ピアサポートを知っている人はわずか15.4%に過ぎません。さらに、ピアサポートを知っている人の内、ピアサポートを利用した人は4.9%しかいませんでした。ピアサポートを利用した人の内、役に立ったと回答した人が 70.4%だったことを考えると、患者にとって有効な場の認知度がまだまだ低いのは、大きな課題といってよいでしょう。

 様々な場を比較する中でピアサポートの「質」の問題が指摘されることはあるにせよ、私自身はピアサポートの普及を一層推進しつつ、その中で質の問題も解決していくという順番が大切だと考えています。

 院内がんサロンや患者会・患者支援団体に携わる皆さんに敬意を表すと共に、国や行政の施策とも関連し、時には悩みながらも真摯な取組みが今後も進むことを願っています。



企業内コミュニティの活動の中から

 この連載の第11回でも「ピアサポート」を取り上げ、その中でも触れましたが、近年、企業内のピアサポートが少しずつ広がっています。企業内のコミュニティは、同じ会社の仲間だからこそ相談したいこともあるというニーズに加え、仕事の場の延長で参加しやすいという利便性があります。様々なピアサポートの場の選択肢の一つになっていけば、社会的にも意義があることだと、私は考えています。

 私が勤務するサッポロビールでは、2019年春に「Can Stars」(キャンスターズ)というがん経験者の社内コミュニティを発足し、ピアサポートを中心とした活動を行っています。

 この春に発足5年を迎えたことを機に、これまでの活動知見や見えてきた世間状況をまとめ、この度、「企業内がんコミュニティ立上げ・運営ガイドブック」を作成し、公開しました(※2)。

 がんコミュニティの立上げや運営を行うにしても、企業によって風土も違えば、課題もいろいろあるでしょう。こうした点に対応し、今回のガイドブックでは企業の実情に応じたやり方があることをお伝えすると共に、「Can Stars」の5年間の具体的な活動も項目ごとに並行して示しました。

 何も大きく構えなくても、がん経験者同士が2人いれば、それはつながりと安心の場の第一歩です。今回のガイドブック作成がサッポロビールだけでなく、他企業の社内がんコミュニティやそれ以外のピアサポートの場の取組みの少しでも参考になり、社会全体の両立支援がさらに推進されることを願ってやみません。



※1 「令和5年度患者体験調査」(速報版掲載)
https://www.ncc.go.jp/jp/icc/policy-evaluation/project/010/2023/index.html

※2 サッポロビールからのリリース(リンク先からガイドブック全体をご覧頂けます)
https://www.sapporobeer.jp/news_release/0000016851/


村本高史(むらもと・たかし)
サッポロビール株式会社 人事部 プランニング・ディレクター
1964年東京都生まれ。
1987年サッポロビール入社。
2009年に頸部食道がんを発症し、放射線治療で寛解。
11年、人事総務部長在任時に再発し、手術で喉頭を全摘。その後、食道発声法を習得。
14年秋より専門職として社内コミュニケーション強化に取組む一方、がん経験者の社内コミュニティ「Can Stars」の立上げ等、治療と仕事の両立支援策を推進。
現在はNPO法人日本がんサバイバーシップネットワークの副代表理事や厚生労働省「がん診療連携拠点病院等の指定検討会」構成員も務めている。



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