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村本 高史の「がんを越え、”働く”を見つめる」
第11回 両立支援で大事なこと⑤~ピアサポート

掲載日:2022年10月13日 10時46分

 誰にとっても、本音を言い合える仲間の存在は心強いものです。とりわけがんと診断され、不安や混乱を抱えながら過ごす人には、とても大きなものです。

 悩みを聞いてくれたり、逆に自分の体験をもとにアドバイスやヒントを提供してくれたりするなら、伴走者としての意味合いは尚更大きいものでしょう。

 今回は、同じ体験をした仲間が相互に助け合うピアサポートについて考えてみましょう。


ピアサポートの現状

 国の現在の第3期がん対策推進基本計画において、ピアサポートは「がん患者にとって、同じような経験を持つ者による相談支援や情報提供及び患者同士の体験共有ができる場の存在は重要」とされつつ、なかなか普及が進まない現状が課題視されています。

 2018年の厚生労働省委託事業の「患者体験調査」(※)でも、ピアサポートの認知度は27.3%に過ぎない一方、ピアサポートを利用したことがあると回答した人の内、88.1%は「役に立つ」と回答しており、実際に利用した人の満足度は高いといえます。

 ただ、ピアサポートの質のばらつきを指摘する声もあり、質を担保するための方策の必要性も国の検討会で議論されています。

 私自身は、ピアサポートの質の問題はあるにしても、それ自体が有用なピアサポートの普及を一層推進しつつ、その中で質の問題も解決していくという順番が大切だと考えています。

 院内がんサロンや患者会・患者支援団体に携わる皆さんの、時には悩みながらも真摯な取組みが今後もぜひ進んでいくことを願っています。


働く場でのピアサポート

 近年、大企業を中心にがん経験者の社内コミュニティによるピアサポートが少しずつ広がっています。

 サッポロビールのがん経験者の社内コミュニティ「Can Stars(キャンスターズ)」は2019年に発足しました。先輩格の他企業のコミュニティの会合を見学し、その素晴らしさを見倣ったものです。

 当事者の思いを結集して声を上げたところ、自社が目指す健康経営やダイバーシティ&インクルージョンの推進にも合致するとのことで、経営層も承認してくれました。活動は、当事者同士の相互体験の共有を基本に、社内の意識啓発、社外協働・社会への発信を柱にしています。

 メンバーからは「自分の経験を会社や社員の役に立てたい」、「働きながら会社とのつながりを感じられるからこそ、治療にも前向きに取り組める」といった社内コミュニティならではの声も挙がっており、こうした声を一般社員にも発信しています。

 また、2019年度からは日本対がん協会の助成金を受けた「企業内ピアサポーターの育成事業」が一般社団法人CSRプロジェクトを中心に始まりました。働くがんサバイバーを表す「WorkCAN’s(ワ―キャンズ)」という名の下、サッポロビールや他企業のサバイバーも参加しています。

 これまでスキル向上や相互交流を目的とした合同ピアサポート研修が開催されており、来る11月8日には集大成的な「秋の就労まつり」(※)が予定されています。

 企業内でのピアサポートは、同じ会社、同じ制度・風土下の安心感や相互信頼感が基盤にあるのが特長です。様々なピアサポートの場がある中、企業内コミュニティが選択肢の一つになれば、働くサバイバーが日常の延長で気軽に参加できることにもつながります。

 今後は大企業に加えて中小企業を巻込み、さらには企業を越えた同じ職種同士でつながる機会も視野に入れながら、ピアサポートのフロンティアのさらなる開拓が期待されるところです。

※患者体験調査  https://www.ncc.go.jp/jp/cis/divisions/health_s/H30_all.pdf
※一般社団法人CSRプロジェクト「WorkCAN’s 秋の就労まつり」  https://workingsurvivors.org/doc/aki1108_1005revised.pdf
村本高史(むらもと・たかし) サッポロビール株式会社 人事部 プランニング・ディレクター 1964年東京都生まれ。1987年サッポロビール入社。2009年に頸部食道がんを発症し、放射線治療で寛解。11年、人事総務部長在任時に再発し、手術で喉頭を全摘。その後、食道発声法を習得。14年秋より専門職として社内コミュニケーション強化に取組む一方、がん経験者の社内コミュニティ「Can Stars」の立上げ等、治療と仕事の両立支援策を推進。現在はNPO法人日本がんサバイバーシップネットワークの副代表理事や厚生労働省「がん診療連携拠点病院等の指定検討会」構成員も務めている。

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