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第11回 「先生、聞いてください」主治医を味方にしてみよう
木口マリの『がんのココロ』

掲載日:2018年11月29日 12時32分

「先生、聞いてください」主治医を味方にしてみよう

「医師に話をしづらい」――そんな話をたびたび耳にします。
「忙しそうで、必要以上のことを話せそうにない」「こんなことを聞いたら、嫌な顔をされるのでは」。このような思いを抱いている人は多いのではないでしょうか。事実、医師は非常に多忙で、一人一人の患者に十二分の時間を割くことは難しいのが現状です。しかし、時間がないことと「話を聞いてもらえない」と感じることには、必ずしも因果関係があるとは限りません。それよりも大切なのは、「その医師をいかに自分の味方にできるか」だと、私は思います。
 

ビビリな私の初診察

入院中に病棟から見えた富士山。「きれいだね」と、先生たちと一緒に眺めたのもいい思い出です。

 ……などと言いつつも、実は私も最初の診察では、相当に身構えていました。
 滅多に入ることのない、巨大な大学病院。担当医師には偉そうな肩書きまで付いている。「上から目線」を想定し、負けるものかと意気込んで向かったのでした。ドラマなどで見た大病院の医師たちの“黒い”イメージも、おそらくは心のどこかにくすぶっていたのだと思います。それが全てのわけはないけれど、「そんな医師にあたる可能性もある」と。

 ところが診察開始の数分後、私の構えはぐるりと一転。「この医師になら、私の全てを任せられる」と思うに至るという。それは、私が何をしたというよりも、単にその医師が非常に素晴らしい対応だったからなのですが。
 そうは言っても、まだまだ「先生、聞いてください」にはなりません。もともと私は大変ビビリで人見知り。人のちょっとした反応がいちいち気になるという、ガラスの心を持っています。特に、がんと向き合い始めたばかりの超・繊細なときは、どんな態度や言葉が自分にとって大打撃になるか分かりません。それでも話す内容や質問は大量にあるので、会話の中で「ここまでは話せるかな」というのを少しの勇気とともに言葉にし、どれくらい自分を出してもいいのかを探っていきました。結果、一般的に「医師には聞きづらい」とされているきわどい話もできるようになり、深い安心とともに治療を行うことができました。
 

手を伸ばしにくいのは、患者よりも医師!?

がんは、心の負担が大きい。だからこそ、医師を一番の味方にしたいものです。

 そんな中で気付いたのは、医療に大切なのは「信頼関係」だということです。しかしそれは、求めるだけでは成り立ちません。どんな人間関係でもそうであるように、患者と医師の間でも、双方から手を伸ばすことが必要です。医師は、診察や検査結果から“体の状態”を知ることはできるけれど、人としては初対面。まずはほんの少し自分の望みやこれからのことを話してみるなど、患者側からできることをしてみたらいいのかなと思います。

 以前、取材でうかがった医師によると、「医師も本当は患者さんのそういった話を聞きたいと思っている」とのこと。さらに別の医師は、「でも、私たちからたずねてはいけないかもと思ってしまう。触れられたくないことに触れて、傷つけてしまうのでは、と思ってしまって」と話していました。

 そのとき私は、「みんな、心を持った人間なんだ」という気がしました。それならば、もしかしたら手を伸ばしにくいのは、患者よりも医師の方なのかもしれません。どちらもが望んでいるのなら、少しのきっかけでつながりが強くなる可能性もおおいにあるのではないでしょうか。

 もちろん、会話をすることが苦手な医師もいます。時として、医師の態度が素っ気なく感じることもあります。それもまた、人間であるがゆえでしょう。でも、もしも何の理由もなく、「全然あなたの話を聞きたくない」などという医師がいるとしたら、こちらからさっさと見限った方がいい気がします。
 

ブチ切れそうになった、あの日

医師も人。ひとりひとり、いろんなことを思って治療にあたってくれています。

 私の場合、素晴らしい医師との出会いが始まりで、今となっては顔を見るだけでホッとするし、通院も楽しくてしょうがないという具合です。しかし、入院中に一度だけブチ切れそうになったことがありました。それはその医師(婦人科)ではなく、術後合併症のために緊急手術をしたときの、若い外科医師に向けてのものでした。ちなみに大変イケメンのため、仮にジャニーズ先生としておきます。

 実は、そのジャニーズ先生が的確な判断をしてくれたために、私は今、生きています。お腹の激痛から救急に運ばれたものの、検査をしても手術をすべきかどうかの決め手が見つからず、どうしようかというときに「手術をしよう」と判断したのがその医師でした。

 「お腹を開けるだけになるかもしれないけど、原因は突き止めます」という言葉に力強いものを感じ、痛みに苦しみながらも心から安心したのを覚えています。「このまま目覚めないかもしれないけれど、この先生に託そう。託していいんだ」と。
 お腹を開けてみたらすでに腸は壊死していて、破裂寸前だったそう。「この病気は、まず、2日ともたずに死亡します(何もしなければ)」と、後日、メインの執刀医(ジャニーズ先生ではない)よりうかがいました。

 ところが術後、ジャニーズ先生とは、なぜか反りが合わなくなってしまいました。命を救ってくれた人であるのに、なぜか気持ちがつながらない。話をしても、どこかすれ違っているのでした。「婦人科の先生と同じようなつながりを期待するべきではない」と分かっていながらも、何となく居心地が悪い。
 そのうち、すれ違いどころか細かい不満も徐々に追加。回診でゾロゾロとやってくる外科医たちのあっさりすぎる(気がする)対応や、医師間の情報の伝達不足などで、ついにはイライラがMAXに。すべてがジャニーズ先生の落ち度でないにも関わらず、「ひとこと言ってやりたい!!」と思ってしまいました。

……でも、ちょっと待ちたまえ、自分。
文句を言う前に、私にはやっていないことがある。

「私は、ジャニーズ先生に『ありがとう』と言っていない。『原因は突き止めます』という言葉にどれほど救われたかを伝えていないのでは」と気付いたのでした。そこで、とりあえず噛み付くのはやめにして、お礼を申し上げることにしました。

伝えてみたら、照れるイケメン(かわいい)。
やることをやって、結構満足な私。

 すると翌日、驚きの変化が現れました。間にあった見えない壁がすっかり消え去り、不思議なほどに“素の心”が伝わってきたのです。
 それ以降、話をすることがとても楽になりました。これまではどことなく緊張して、質問があってもうまく伝えられず、得たい情報を引き出すことができずにモヤモヤとしていたのに、言葉が自然と出てくるようになりました。先生も、どこか落ち着いて耳を傾けてくれているようでした。
 その後は何か不満に思う出来事があったかどうか、その記憶さえ残っていません。人間がいきなり変わるはずもないので、きっとそれ以前と同じ不満要素はあったはずなのに、覚えていないのです。

 そこで思ったのは、「私は、求めるばかりで相手のことをきちんと見てなかったのではないか」ということでした。相手を味方にしたいのなら、まずは自分が相手を味方と信じ、それを伝わる形にすることが必要なのだと思います。
 

医師に手渡してもらいたい、一番のもの

院内で定期的に行なっている写真展。今ではたくさんの医師も作品を応募してくれるようになりました。

 そのひとつとして、私は「患者からも何かを手渡す」ことを提案したいと思います。手渡すと言っても金品ではなく、渡してもらいたい一番のものは「気持ち」です。
 特に親しみを感じていない医師でも、何かひとつは「よかった」と思えることが見つかるはず。お礼の言葉でなくても、「説明がわかりやすかった」「声のトーンが落ち着く」とか、「白衣がカッコいい」とかでもいいと思います。まずは何かひとつ、探してみてください。それが、これまでとは違う新しいつながりを作るきっかけになるかもしれません。

「手を伸ばしてほしい」と求めるだけの人と、自分からも手を差し出して「一緒にがんばってほしい」と言う人。あなたなら、どちらの人に好感を持つでしょうか。医師は職業ではありますが、人間である限り感情があります。何より、「治療」という付き合いであっても、信頼し合っている方がお互いに心地いいし、楽しくもあります。「3分診療」という言葉がありますが、3分の濃さはきっと変わってくるでしょう。

「先生、聞いてください」に続く言葉を実際に聞いてもらうためにできることは、特別なテクニックばかりではありません。大切なのは、医師を人として理解しようとすることが、そのひとつではないかと思います。

木口マリ

「がんフォト*がんストーリー」代表
執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。2013年に子宮頸がんが発覚。一時は人工肛門に。現在は、医療系を中心とした取材のほか、ウェブ写真展「がんフォト*がんストーリー」を運営。ブログ「ハッピーな療養生活のススメ」を公開中。

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