好きだから、いつだっておいしく食べたい!

2019年10月1日

「食べることは、自分にとって一番大事なこと」と語る山川孝雄さん。2年ほど前、悪性リンパ腫のなかでも珍しい、節外性NK/T細胞リンパ腫と診断され、治療の副作用の影響で普通に食べることが困難になってしまいます。

 そんなときでも、「できる限り普段どおりの食事をしたい」という思いを貫き、自分が食べられるものを探してきました。

 好きなように食べられない時期を、どのように乗り越えたのか。そこには、山川さんらしい前向きな生き方がありました。

山川孝雄(やまかわたかお)さん

 1969年生まれ。宮城県仙台市出身。千葉県在住。1人暮らし。2017年2月、節外性NK/T細胞リンパ腫を患い、同年3月に入院して抗がん剤と放射線による治療を開始。同年5月に退院。現在は経過観察中で、再就職先で介護職についている。

料理が楽しくなった土曜日の昼ごはん

 かつて土曜日は、午前中で学校や会社が終わり、午後は休みになる「半ドン」が日常の風景でした。子どもたちは授業が終わると一目散に家に帰り、昼ごはんを食べていたものです。

 山川孝雄さんも、土曜日の授業が終わると一目散に家に帰っていた一人。でも、普通の家庭の昼ごはんとはちょっと違っていたようです。

「母親が何を思ってか、『冷蔵庫に入っているものは好きに使っていいから、土曜日の昼ごはんは自分で作りなさい』と私に言いまして……。自分が食べる分は、自分で作ることになったんです。焼きそばとか、インスタントラーメンとか、最初は簡単なものしか作れませんでしたが、いろいろ試しているうちに料理が楽しくなってきました」

 生まれ故郷の宮城県仙台市は、海の幸も山の幸も新鮮なものが手に入りやすく、いつもおいしいものに囲まれていたと言います。平日の食事はお母様が作り、休日は料理好きのお父様がカツオを丸ごと1本さばくこともあったとか。

 食べることが大好きなご家族と過ごした時期を経て、今、「食べることが一番の楽しみ。食べるために働いています」と語る山川さん。食べることが人生の喜びとなったのは、必然なのでしょう。

諦めずに続けた、食べられるもの探し

 そんな山川さんは2年ほど前、突如、食べる楽しみを奪われてしまいます。持病の副鼻腔炎が悪化したと思い耳鼻科を受診したところ、悪性の可能性を指摘され、さらに大学病院で詳しく調べた結果、節外性NK/T細胞リンパ腫と診断されたのです。

「あまりにも突然のことだったので、すぐには受け入れられませんでした。病院からの帰り道、コンビニの前に停めた車の中で涙が止まらなくなりました」

 程なく入院し、抗がん剤と放射線による治療が行われました。その副作用で悩まされたのが、口内炎とドライマウスです。

「特に辛かったのが、口内炎です。1クール目の抗がん剤治療のときはそれほどでもなかったのですが、2クール目のときは大変でしたね。口も開けられないくらい痛くて、うがいするための水を口に入れるのもやっと。看護師さんとの会話も筆談でした」
と、当時を振り返る山川さん。

 栄養をとるために、栄養剤を点滴するという選択もありますが、器具と体がチューブでつながれている感じがイヤで、我慢してでも口から栄養をとることに。

「アツアツのもの、香辛料が入ったもの、硬い食感のものは無理でした。食事が運ばれてくると、ふたを開けて30分くらい放っておき、冷ましてから食べました。本当に痛くて食べられなくなったときがあり、栄養士さんと相談して一度だけミキサー食にしてみたのですが……、ご飯もおかずも野菜も、すべてがドロッとしているのを見たら全く食欲がわかず、そのままふたを閉めてしまいました。栄養補助剤のエンシュアも試してみたのですが、半分飲むのがやっとでした。私には甘すぎて……」

 そんな山川さんの救いとなったのは、アイスです。

「いろいろなアイスを試した結果、かき氷系のものは氷の粒が口に当たってダメ。果汁入りのものは酸味がしみてダメ。脂肪分の高いアイスクリームは大丈夫かと思いきや、口の中にまとわりつく感じがして、これもダメ。最終的にたどり着いたのは、ロッテ『爽』と明治『エッセル スーパーカップ』です。食感が軽くて口内炎を刺激しないので、私の中では合格でした!」

 実は、40代の頃から糖尿病を患っていて、本来は糖質のとり過ぎに気をつけなければならないのですが、医師と相談して、その時は、食べられるものを食べることを優先したそう。

 放射線治療の副作用により、ドライマウスにも悩まされた山川さん。今も口の中が乾きやすい状態は続いていると言います。

「唾液が出にくくなったせいか、常に水分をとっていないと、口の中がカラッカラに乾いてしまいます。退院して1年くらいは、人と話していると、口が乾いて動かなくなってしまうこともありました。医師からは、生涯治らないかもしれないと言われていましたが、少しずつ良くなっているようで、最近はおせんべいが食べられるようになりました!」

胸が熱くなった思い出のラーメン

 入院中は、口から栄養をとることにこだわり、食べられるもの探しを続けた山川さん。退院したら絶対に食べたいと思っていたのは、子どもの頃によく行った中華料理店のラーメンでした。体調が回復して、それを再び食べることができたときの喜びは、どれほど大きかったことでしょう。

「田舎の中華料理店なので、いわゆる普通のラーメンなのですが、あのときの味は忘れられないですね。大人になってからは年に1度くらいしか行っていなかったにも関わらず、店のおかみさんが自分のことを覚えていてくれたんです。辛い入院生活を経て、今住んでいる千葉から宮城に来ることができるまで回復したこと。アツアツのラーメンが食べられるようになったこと。いろいろなことに胸が熱くなりました」

 ご自宅のキッチンを覗くと、料理好きの山川さんらしく、調理道具が使いやすい位置にずらりと並び、さまざまな調味料がそろっています。今は、食事は自炊が基本で、近所のスーパーに毎日のように食材を買いに出かけます。

 最近のお気に入りは、「野菜たっぷり焼きそば」。ある料理番組で、料理研究家の土井善晴さん先生が作るキャベツがたっぷり入った焼きそばを見てひらめいたそう。

「糖尿病のため、糖質を控えなければいけない自分にぴったりのレシピだと思い、キャベツだけでなく、ほかの野菜も加えてアレンジしています。野菜を麺と同量かそれ以上に入れるのがポイント。1日に必要とされている野菜の摂取量をほぼとることができるんですよ」


野菜はふたをして弱火でじっくり蒸すのがポイント。均一に火が通り、カサも減ります。

 何事も試してみないと気がすまないのが、山川さんの性格なのでしょう。ドライマウスの影響でパサつきを感じてしまうサンマの塩焼きは、大根おろしをたっぷりにして食べればOK。カレーは、辛口はまだダメだけれど、甘口ならOK。といった具合に、次々とチャレンジして、食べられるものを増やしています。

「食べられるものが増えると、そのたびに嬉しくなります。辛いものが好きなので、いつか、大好きな麻婆豆腐が食べられるようになりたいです」

好奇心と探求心が楽しく生きる源に

 料理だけにとどまらず、ちょっとでも自分のアンテナに引っかかったことは、すぐに深く追求したくなり、勉強して資格を取ることもあるという山川さん。

「商業高校だったので、いろいろな資格を取りました。だから資格の勉強や試験に慣れているんです。試験会場でも全く緊張しませんよ」

 現在は介護の資格を生かし、高齢者の介護施設に勤務。そして、新たに行政書士の資格を取り、さらに社会保険労務士の勉強中。今後は自分の経験や知識を生かし、突然の入院などで困っている人の相談窓口になりたい、とにこやかに夢を語ります。

 仕事につながる資格だけでなく、沖縄が気になれば、沖縄の伝統芸能であるエイサー検定を受ける。銭湯のことが気になれば、銭湯検定を受ける。知りたいという欲求を満たしているうちに、なんと取得した資格は約50種類!

 好奇心のままにどんどん追求する。そんな前向きな姿勢が、治療を乗り越え、今の暮らしを楽しむ原動力になっていることは、間違いないでしょう。

 同じ病気に悩んでいる人へのアドバイスをうかがったところ、意外な言葉が返ってきました。

 「治療を受けていると、いろいろな方々に『頑張って』と励ましの言葉をかけていただくのですが、医師や看護師など医療の専門家が適切な治療を施してくれるので、自分は無理して頑張らなくてもいいと思うんです。私がミキサー食を断ったように、自分の意思を通してわがままを言ってもいい。優等生である必要はないですよ」

 取材後、テーブルに置かれたポルトガル語のCDに目が止まりました。それについてたずねると、「近所を歩いていたブラジル人の会話が気になったので、ポルトガル語の勉強をしようかと思って」とのお答え。最後の最後まで、山川さんの好奇心に驚かされたのでした。

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エピソードをひとさじ

 山川さんとの出会いは、がんサバイバー・クラブが運営するツイッターに寄せられた一通のコメントです。「口内炎で食べられなかったときは、ロッテ「爽」と明治「スーパーカップ」それとヨーグルトが食べられました。しばらくそれでしのいだかなあ」具体的な情報と肩の力が抜けた言葉が印象に残りました。  コメントから山川さんのブログにたどり着き、がんへの向き合い方を読んでいたら、もっと話を聞いてみたい衝動にかられたのです。実際にお会いしてみると、ブログやツイッターの文面から想像した通り、向上心とユーモアのあふれるお人柄。SNSがある時代に感謝した取材となりました。

わたしの逸品

野菜たっぷり焼きそば

調理時間
30分
主な材料
中華麺、キャベツ、もやし、にんじん、卵
栄養価(1人分)
食塩相当量2.6g
エネルギー462kcal
たんぱく質13.8g
投稿者のコメント
野菜をたくさんとりたいので、焼きそばを作る時も麺ではなく野菜が主役。生の状態では山盛りの野菜も、じっくりと蒸し焼きにする......

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