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元MDアンダーソンがんセンター 上野美和のテキサス便り
第3回 経済再開でもステイホーム ~MDアンダーソンの新型コロナウイルス対策 その2~

掲載日:2020年5月29日 6時44分

タトゥー・スタジオも再開

 日本でもしばしば報道されているように、アメリカでは、トランプ大統領が経済再開に前のめりになっています。

 私が暮らすヒューストンのあるテキサス州でも、4月27日と5月18日に2段階にわたり、経済再開計画が発表されました。こんな感じです(再開時は、人数制限を定員の25%から始めることが多い)。

 1)5月1日に再開  小売店、レストラン、映画館、ショッピングモール、博物館、美術館、図書館、個人事務所、ゴルフ場。

 2)5月8日  美容室、理髪店、ネイルサロン、日焼けサロン、プール。

 3)5月18日  スポーツジム、オフィス、マッサージ、タトゥー・スタジオ、保育施設、ユース・クラブ。

 4)5月22日  レストラン(人数制限を50%に緩和)、バー、ボーリング場、動物園、水族館、ロデオや乗馬などのイベント、屋外のモータースポーツ。

 5)5月29日  プロスポーツ(無観客)、ユース・キャンプ、ユース・スポーツの練習。

 6)6月1日  サマー・スクール。

 ところで、アメリカ国内では、テキサス州の解除は早すぎたのでは?と言われていました。  というのも、人口約2900万人の州で、4月の半ば頃までは1000~1500人だった新規の感染者数が、4月末頃には1000人を切るくらいまで減少しましたが、4月30日からまた1000人前後で推移してきたからです。

 5月24日以降に再び減り始めて、26日は623人でした。ただ、まだ安心はできません。マスクなしで散歩やサイクリングをしている人もよく見かけます……。

5月26日と4月22日のヒューストンの街並みを比べると、車の数が増えてきのがわかる。

マスクに対する考え方が変わった

 ヒューストンでは、車の量も増えてきました。主なレストランは全て予約制にして、人数を制限しているようです。  もっとも、3月25日にロックダウンが始まって以来、街が完全に眠っていたわけではありません。

 スーパーは、入場制限をしながらも開店していました。店外に、人と人の間に大きなカート1つ分ぐらい空けて並び、出てくる人の数に合わせて入店できる仕組みです。

 飲食店も、テイクアウトやデリバリーは営業していました。割引などのサービスが登場したことは日本と似ています。飲食店を助けようというプロモーションも見られました。  健康維持のための散歩も認められています。

 この間、マスクに対する考え方が変わったことも見逃せません。  アメリカにはもともとマスクを着用する文化がなく、MDアンダーソンがんセンターでも、日本から来た患者さんがマスクをしていて、「何か感染させるような怖い病気を持っているんじゃないかと思うからやめてくれ」と言われたことさえあります。

 それが、たとえばMDアンダーソンのサイトにも、「マスクについて知っておきたいこと」というタイトルで、こんな記事が出ました。  新型コロナウイルスへの感染防止に最善なことは、ソーシャルディスタンスを保つ、ステイホーム、そして手洗いを正しく頻繁に行うこと。

 マスクで完全に感染を防止できるわけではありませんが、3つの対策と合わせることで、相乗効果を得られます。  感染症の専門医が「外出時にマスクを着用すると、マスクは視覚的な合図となり、ソーシャルディスタンスの必要性の喚起にもつながる。このことは、特にがん経験者には重要だ。無症状の感染者が感染を広げることを防ぐ役割もある」とコメントしています。

 https://www.mdanderson.org/publications/cancerwise/masks-101-what-you-need-to-know.h00-159381156.html


外出は食料品の買い物ぐらいで

 経済再開の動きが加速しても、MDアンダーソンは、慎重な姿勢を崩していません。  5月8日には、「経済は再開されつつある。がん患者にとって外出は安全?」と題した記事がアップされました。

 マスクの記事でもコメントしていた専門医が登場し、化学療法、免疫療法から放射線療法まで含めて、多くのがん治療が免疫を弱める可能性があると指摘しています。そして、治療が終わっているがんサバイバーも含めて、できる限りステイホームを続けるべきだ、と訴えます。

MDアンダーソンがんセンター。サイトのトップページでは、マスク姿の医療者たちが並んでいる。

 外出は食料品の買い物ぐらいに留め、できるなら、それも宅配や家族らに行ってもらうことを勧めています。  公園などの屋外へ出かけることにもリスクがあると理解し、外出の際には、マスク着用、人とは2メートル離れる、頻繁な手洗い、犬猫などのペットに触れないといった注意を促しています。

 同時に、がんは個人差も大きいので、主治医に相談してから行動することを勧めています。なお、MDアンダーソンでは感染防止対策をしっかり取っているので、安心して通院できるそうです。

 では、いつになったら気兼ねせずに出かけることができるようになるのでしょうか?  記事の答えは明快です。「新型コロナウイルスの治療法やワクチンができるまで。もしくは社会の中で感染の可能性がなくなるまで」です。  ちょっと先になりそうですね……。  https://www.mdanderson.org/publications/cancerwise/covid-19coronavirus–businesses-are-reopening–is-it-safe-for-cancer-patients-survivors-caregivers-to-go-out.h00-159381945.html


おすすめサイトご紹介

 MDアンダーソンの記事は、日本の専門家の意見と一致しない部分もあるかもしれません。最大限の安全サイドに立ったうえでの情報発信なのでしょう。  完全に守ることは難しくても、心がけとして覚えておいていただければと思います。  とはいえ、人間、楽しみが必要です。最後に、私が楽しんでいるサイトをお伝えします。

①Global Citizen  かつてのLive Aidを連想させる取り組みで、音楽好きな人向けです。コミカルな動画も楽しめます。 https://www.youtube.com/user/GlobalPovertyProject

②ガラス造形作家の西中千人(ゆきと)さんの動画  ドイツ・ハンブルグの国際映像祭で金賞を受賞したガラス枯山水「つながる」のコンセプト映像です。とても綺麗で安らかな気分になれます。西中さんは、高校時代の友人でもあります。NHKの「Core Kyoto」でも紹介されました。 https://www.youtube.com/watch?v=_NREJPavags&t=12s https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/ondemand/video/2029136/

日本対がん協会のリレー・フォー・ライフの奨学金でMDアンダーソンに留学し、そのまま研究を続けている岩瀬俊明医師が撮影したアクロバット飛行。

③12人の優しい日本人を読む会  三谷幸喜氏の会議コメディ「12人の優しい日本人」(初演は1990年)の読み合わせです。「もしも日本にも陪審員制度があったら」という設定で、1人の男性の死をめぐり12人が議論を戦わせます。無料公開は5月末までのようです。 https://12nin-online.jimdofree.com/

④シルク・ドゥ・ソレイユ  1984年にカナダで生まれたエンターテインメント集団「シルク・ドゥ・ソレイユ」の舞台や舞台裏などの動画が多数、アップされています。 https://www.youtube.com/user/cirquedusoleil/videos

⑤アメリカ海軍のアクロバット飛行隊「Blue Angels」  5月5日に、人々を応援するために飛行しました。操縦席からの映像も楽しめます。 https://www.facebook.com/USNavyBlueAngels/photos/a.616923575015431/3774296205944803/?type=1&theater

 数日前、何かのニュースで、アメリカの研究者が「人間は、温度的な触れ合いなしに生きていくことが難しい」と話していました。

 新型コロナウイルスは、温もりを感じられる距離自体を防がなくてはいけない点が悲しいと思います。日本で提示された「新しい生活様式」も、本質は同じでしょう。  そんな中でも、まずは自分なりの仕事や楽しみ方を模索しつつ、かつてのような雰囲気を楽しむための工夫をしていけたらな、と思います。完全復活できる日を待ちながら。

上野美和(うえの・みわ) 1964年、和歌山県生まれ。大阪薬科大学を卒業後、薬剤師の資格を取得。1991年、結婚を機に渡米。出産後、MDアンダーソンがんセンターでのボランティアを経てリサーチナース、データマネージャーを務める。2002年にメディエゾンLLC(合同会社)を立ち上げる。米国でセカンドオピニオンや医療、医療従事者への医療研修を受けたい人をサポートしている。

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