「マンガ動画の制作を、一緒にしませんか?」
数年前、NPO法人 肺がん患者の会ワンステップ代表の長谷川一男さんから、そんなメッセージをいただきました。かねてよりマンガ好きだったキグチは、願ってもないお誘いに目がキラリとしたものです。
どのようなマンガ動画かというと「がんに関する医療モノ」。患者さん向けですが、主人公は患者ではなく、医療者です。マンガという多くの人に親しみやすいツールを使い、医療者の“ウラの姿”を表現していきたい、とのことでした。
「新しい! ぜひやりたい!」と、私は身を乗り出すようにして了解。制作チームに加わることになりました。
“味方”や“見方”を見つけるマンガ動画
ちなみにマンガ動画とは、マンガのコマを切り取って動画として繋ぎ合わせ、セリフや効果音、音楽などを加えたもの。アニメのように動きはしないけれど、ページをめくることなくコマは進んでいくし、気軽に視聴できるのが利点です。
テーマとなる医療者の姿は“ウラ”といってもダークなものではなく、“がん患者と向き合う医療者としての想い、努力、苦悩”といったもの。普段、私たち患者には見せることのない部分です。
長谷川さんは、患者会活動で医療者と接するうち「患者に知られていない心情がある」と感じたそう。「医療者の心の奥を知ってもらい、味方や見方を見つけてほしい」とのことから、この企画は「生きる『みかた(味方/見方)』を見つけるマンガ動画」と銘打っています。
「医療者のウラの努力」は、私としても世の中に伝えていきたいテーマの一つ。がんになって以降、仕事やボランティア活動のほとんどが「がん」に関することになっているのだけど、そのおかげでさまざまな医療機関の奥の奥まで取材に入り、多くの医療者の話を聴く機会に恵まれました。
「医療者って、ウラでこんな努力をしていたのか!」とか「1人の患者のために、こんなに時間をかけていたの!?」という発見が多々あって、驚くこともしばしば。それを知ってもらうことは患者にも医療者にも、そしてこれから患者になるかもしれない人にも、とても重要なことだと感じています。
そんな中での「マンガ動画制作へのお誘い」は、ワクワク以外の何者でもなく。長谷川さんの「『伝える』のではなく、『伝わる』ものを作りたい」という想いのもと、制作はスタートしました。

医療者の“ウラの想い”は名言だらけだった…!
……とまあ、それから「あ!」という間に時が過ぎ、数年が経ちました。プロジェクトは2021年に始動したので、すでに4年が経っています。
その間にできたマンガ動画は10作品! 現在(2025年)は、追加で3本を制作中です。
これまでに主人公として登場したのは、「肺がんの専門医」「がん専門相談員」「患者会運営者」「薬剤師」「精神腫瘍科医」「アピアランス(外見)ケアの医療スタッフ」「栄養士」。そのほか、肺がんの治療薬についての解説マンガ動画が3本。
私はこのうちの5本(肺がん専門医、患者会、精神腫瘍科医、アピアランス、栄養士)の脚本を担当しました(プラス、2025年の2本を担当します。どんなお話かはお楽しみに!)。
作品の多くは、架空の患者である樋口恵子(39歳)の治療の流れや心の動きに沿って物語が進みます。それぞれの局面で、それぞれの医療者(時には患者会運営者も)が主人公となり、恵子の“味方”として共に歩んでいく姿を描いています。
制作で最初に行うのは、該当する医療者への取材。患者との向き合い方や感じていること、心に残っているエピソードなどをうかがうのですが、取材のたびにハッとさせられたり、ジーンと胸に響く名言を聞けるのがいいところ。これはもう、役得と言えると思う。
そのうちのいくつかを紹介しましょう。
【#1:ある肺がん専門医の言葉】
「よくない結果だと、医師も、ものすごく落ち込んでしまう」(by 青野ひろみ氏/東京警察病院 呼吸器科部長)
「手術ができる段階でありますように! 大丈夫でありますように!!」と祈りながら検査結果を開くという青野先生。「よくない結果のときは、私もすごくショックを受けるんです。しばらく机に突っ伏してしまうこともよくあります」(もちろん患者さんの前ではなく事前に結果をチェックするときです!)。
お医者さんはいつも冷静で、厳しい話をする時も淡々としているように見えますが、「そうではないんだ!」と感じさせてくれる一言でした。
冷静に見えるのは、落ち込んでもそこから頭を切り替え「それならば、何ができるか」を考えて、患者と向き合っているからなのでしょう。【#2:ある精神腫瘍科医の言葉】
「人は、いつか死ぬ。僕も死ぬ。どれだけ元気に生きている人もそう。そのことを、みんなすっかり忘れて生きているんだ。でも、あなたは大きな病気をしたことで、それを思い出した。他の人にはないチャンスをもらったんだよ。その命をどう使って生きるか。それを考えるまたとない機会が、今なんだ」(by 保坂 隆氏/保坂サイコオンコロジー・クリニック 院長)
精神腫瘍科って知っていますか? がんに特化した「心のケア」のための診療科です。そのためか、先生の一つひとつの言葉が深い! マンガを見返してみても、グッとくる名言がたくさんありました。
ちなみに、このほかに私が好きな言葉は「人間の脳はネクラ」(笑)。そのココロは、マンガ動画をご覧ください。
【#3:ある管理栄養士の言葉】
「栄養士も、他の医療者と同じように『患者さんのためにつくしたい』と考えています」(by 川口美喜子氏/札幌保健医療大学大学院教授 管理栄養士)
栄養士さんは、私たち患者と接点が少な目です。そのためどんな想いがあるのかを知る機会はあまりありません。「患者さんに対して、どんな気持ちでお仕事しているのでしょうか」とたずねたところ、このような答えが返ってきました。
栄養士さんの仕事は、手術や薬などで病気自体にアプローチするいわゆる「治療」とは異なるし、何となく“想い”の想像が付きにくかったのですが、川口先生の話を聞くにつれ「栄養士も、結構ガチな医療者だ」と感じました。
マンガ動画では、「体調がよくなくて食べられないときの簡単レシピ」も多数紹介。私は、「栄養ドリンク(カロリーメイトのような)で作るフレンチトースト」を試してみたいと思っています!
マンガ動画には、このほかにも名言が満載です。探してみてくださいね。
◇
患者に同じ人がいないように、医療者もそれぞれに違います。みんなが同じ想いでいるわけではありません(当たり前だ)。それでも、患者を支え、共に歩もうとしている医療者は確実にいる(しかもたくさんいる!)のだと、マンガ動画に関わる中で改めて感じました。
マンガ動画1作目『“患者の知らない”医師の心情(ウチガワ) 〜診断から治療まで〜』のラストシーンには、病院に勤務する多種多様なスタッフの姿を散りばめました。その中には、お掃除や事務のスタッフも含まれています。

実はこのシーンは、監修の青野ひろみ先生の提案を受けてのもの。 「お掃除の方は、入院患者さんとよくお話をしているんです。それも癒しになっているのを感じています。みんな、患者さんによくなってほしいと願っているんです」(青野ひろみ先生)
たくさんのスタッフが患者を支えたい気持ちでいるって、素敵だな〜と思いました(それに気づいている青野先生も素敵だ)。私も病院は「第2の家」くらい親しみを持っているのですが、そう感じられるのは、病院スタッフのこのような想いがあるからかもしれません。
医療者だけでなく、病院の見え方も変わる(かもしれない)マンガ動画。ぜひみなさんも、さまざまな“ウラの姿”を感じてみてください!
NPO法人 肺がん患者の会「ワンステップ」のマンガ動画 (YouTube)
※1〜3作目:【制作】NPO法人肺がん患者の会ワンステップ、ノバルティスファーマ株式会社
※4〜10作目:【制作】アムジェン株式会社、【総合監修】NPO法人肺がん患者の会ワンステップ
