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闘病記出版20年 星湖舎・金井一弘の
「読み逃したくない1冊」
第16回「それを着るために頑張るんでしょ?」 菊地貴公著『フガフガ闘病記 オシャレは抗がん剤より効くクスリ?』

掲載日:2021年4月30日 9時30分

 グリーフケアという言葉をご存知だろうか。身近な人を亡くし悲嘆(グリーフ)にくれる人を癒し、気持ちを整理して立ち直らせる取り組みのことをいう。この本はまさに、愛しい奥さん(ナオミちゃん)を亡くされた著者のグリーフケアとして作られた闘病記だ。

 肺がん検診から見つかった大腸がん

 著者は仙台市に住む、テレビ番組やCMのプランナー・ディレクターとして活躍している人物。

 2013年夏、市から届いた無料の肺がん検診を、ナオミちゃんと2人で受診したことが始まりだった。

 数週間後に届いた検査結果で、ナオミちゃんの方だけ封書で、再検査と書かれてあった。ナオミちゃん43歳、これまでタバコ歴もなく咳もしていなかった。

 再検査で肺に小さな腫瘍があることが判明。地元の大学病院の呼吸器外科で精密検査を受ける。

 当時の自分たちのことを「バカな初心者」だったと振り返る。「我慢すれば治る! 強い気持ちがあれば勝てる! そう思ってた気がする、ナオミちゃんもオレも」と。

 精密検査の結果、やはり悪性腫瘍と判明するも、肺がんではなく、原発巣は大腸ではないかと医師は考えた。胃腸外科の検査の結果、S状結腸がんが見つかる、それもかなり大きな腫瘍であった。

 2013年11月12日に手術をし、大腸の腫瘍は切り取れた。ところが、開腹して広範囲に腹膜播種があることがわかり、手術では取れなかった。ステージⅣ、余命は2年から3年と告げられる。

 FOLFOX+アバスチンによる抗がん剤治療が始まる。一時的に効果が出るも、1年半後に卵巣への転移、FOLFOXからFOLFIRIに抗がん剤を切り替える。


 後悔しないように

 腹膜播種を手術してくれるスーパードクターが、滋賀県にいることをネットで知り、すぐさまアポを入れる。2015年7月の診断から手術まで4カ月待たなければならなかった。
 その間、腹水が溜まり地元の大学病院で何度も抜いてもらう。そして11月10日に腹膜播種、卵巣、子宮、脾臓、大網(だいもう)、そして大腸の一部を切除する手術を行い、成功した。

 しかし、翌年の夏に、腹膜播種の再発と肝臓への転移があり、抗がん剤をFOLFIRIからロンサーフに切り替える。しばらくは「見た目は元気な癌患者」が続いたが、2017年4月頃から滑舌が悪くなり、脳への転移が判明。サイバーナイフの治療を受ける。
 次は、肝臓の転移が暴れ出す。最後の希望を託して、がんに栄養を運ぶ肝動脈を塞いで兵糧攻めにして、同時に抗がん剤を直接送り込むTACE治療法を試みる。しかし、体力が限界に達し、治療を中断。2017年10月5日未明に他界した。

 残された著者の言葉が心に沁みる。
「後悔しないよう、精一杯寄り添ったつもりでも次から次へと悔しい思いが湧いてくる。それが『死別』なのだと知りました」


 洋服は命より大切

菊地貴公著『フガフガ闘病記 オシャレは抗がん剤より効くクスリ?』2018年10月5日 タイフーン・ブックス・ジャパン 定価1650円(税込)

 ナオミちゃんは抗がん剤治療の時、胸に埋め込んだポートから抗がん剤をぶら下げてショッピングに出かけた。水玉のワンピースに同じ柄のホルダーを首からぶら下げ、厚底靴を履いてファッションを楽しんでいる。本の表紙に使われた写真が、その出で立ちだ。

 ネットで好きな洋服を探したりすることをフガフガすると表現する。フガフガしていると抗がん剤の辛さも忘れてしまうようだ。

 闘病中に何度もナオミちゃんが口にした言葉がある。
「それを着るために頑張るんでしょ? お洋服はナオミちゃんのお薬だから!」

 だが、指の皮が全部はがれたり、血便が出たり、副作用に苦しんでいた。しかし、「こんなの他の人の副作用に比べたら幸せな方だよね!」と、いつもそういって自分を奮い立たせていたそうだ。

 洋服は命より大切と考えていたナオミちゃんの思いが、タイトルとサブタイトルに表されている。


 闘病生活を撮った写真は2000枚以上

 抗がん剤治療が始まった頃から撮り始めた写真は、気がつけば2000枚以上に上った。この本はその写真を中心に古い写真も交えて構成されている。

 ナオミちゃんの手作り料理や、好きなものを食べに行っている写真もある。でも、多くはオシャレを楽しんでいるナオミちゃんの姿だ。まるでファッション雑誌のようなページもある。

 また、「ピッピ」と名づけられたウサギのぬいぐるみが、4年間の闘病生活をずっと一緒に過ごした。もらったお守りを全部ピッピの首にぶら下げ、入院も旅行も必ず連れ歩いていた。
 途中で子分となった小さなウサギのぬいぐるみ「コピン」もいた。そのピッピやコピンと写っている写真もたくさんあり、読者もいっとき困難を忘れて、ホッコリさせられる。

 ナオミちゃんは、オシャレを常に楽しんでいる。その姿から、「辛くても生きていることを楽しんでいるよ」と、語りかけているようだ。

 医師に告げられた余命を大きく超えた、2人の4年間の闘病生活を静かに見守っていると、読者はいつしか本を通して2人に寄り添っている気持ちになる。そんな優しい気持ちになれる、闘病記とは思えない可愛らしい写真集だ。


これまでの、闘病記出版20年 星湖舎・金井一弘の「読み逃したくない1冊」はこちらよりご覧いただけます

金井一弘(かない かずひろ)
株式会社星湖舎(せいこしゃ)社長、NPO法人大阪公立大学共同出版会(OMUP)編集長。1956年、大阪府生まれ。99年に星湖舎を立ち上げ、主に闘病記や障がい者の本を出版している。良い闘病記には、「宗教や健康食品、民間療法に導かない。家族や会社・学校との関わりや社会情勢が描かれている。病院や医師の批判に節度がある。治療過程がしっかり書かれている」と考え、他社の本も“診断”し、普及活動に取り組んでいる。毎年100冊以上に目を通す。星が好き。

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