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シリーズがんと就労 特定社会保険労務士 近藤明美氏

掲載日:2017年6月13日 17時10分

シリーズ がんと就労②

制度・運用・配慮 がんと仕事の両立のためどれも大切

特定社会保険労務士 近藤明美氏 がんになっても働きたい人、働かなくてはならない人にとって、頼りになる存在の一つが社会保険労務士だ。がん診療連携拠点病院での就労相談など、がん患者の就労支援活動に長く携わり、自身もがん経験者である特定社会保険労務士の近藤明美氏に、相談業務を通してみたがん患者の就労の現状と社会保険労務士にできることをお聞きした。 近藤明美氏 退職に影響大きい心理的要因 ―がんと診断されて仕事を辞めてしまうのは何故でしょうか 退職の要因には大きく分けて、①身体的要因、②心理的要因、③職場環境・働き方の問題の3つがあります。私の実感としては特に②の心理的要因は大きいと感じます。心理的要因には「職場への迷惑」と「価値観の変化」があります。価値観の変化というのは人生の中で仕事の優先順位が下がるとか、今は治療に専念しようとかいう考え方の変化のことですが、気になるのは「職場に迷惑をかけたくない」、「かけるくらいなら辞めてしまおう」という意識の強さです。もちろん、一時的には職場に何らかの負担はかけることになるでしょう。でも長いスパンで考えればお互いさまなのに、迷惑をかけると思い込んでしまうのです。 ―なぜそのように思い込んでしまうのでしょう 職場の雰囲気や、以前にがんにかかった人が職場にいた時の経験など色々あると思います。私が関わった事例では、「今まで完璧に仕事をこなしてきたのに、今更弱いところは見せられない」と思っていた男性もいました。男性には自己開示の苦手な方が多いですね。そういう場合は辞める以外にも選択肢があることを示します。例えば会社の使える制度を調べるとか、管理職なら有給休暇もたまっているでしょうからそれを利用するとか、具体的な選択肢を示して視野を広げてもらうようにします。 社会は少しずつ変化 ―企業側の本音がわかりません 私たちが就労支援活動を始めた2009年ごろは、がんと伝えたら「辞めてくれ」と言われることも確かにありました。でも、社会は少しづつ変化しています。労働人口の減少もあり、私の顧問先の中小企業でも人手不足を実感している企業が多いです。それに、長年貢献してくれた社員を一時的にパフォーマンスが落ちたからと言って「はい、さよなら」というのは良くないと考えている経営者も本当に多いです。今はネットで悪い評判がすぐ広まりますし、人を大事にしない企業は今後生き残っていけないと思います。 ―どんな人からの相談が多いですか 私の場合は患者本人や家族から相談を受けますが、シングルマザーの方も多いです。男女とも自分が一家の大黒柱という方の相談がほとんどです。ですから仕事を続けることが前提で、どうしたらスムーズに、良い形で継続できるかを一緒に考えます。 個別の状況を整理し手助け ―相談は具体的にどんな風に進めるのですか まず相談者の状況を聞き、何が相談の核(主訴)かを確認し、最初に解決すべきことを整理します。そのために使える制度の確認や、本人がどんな着地点を目指しているかの意志確認、今までの職場での雇用形態や立場、仕事内容や身体的精神的にどんな負担があるか、職場の人間関係などをお聞きします。どうしようかと着地点を迷っている人も、迷う理由が必ずあります。例えば長時間労働の職場で、「こんな働き方をして再発したらどうしよう」と不安に思っているなどです。 また、がんになった時点で置かれている状況は一人ひとり違います。例えば「ちょうど転職したいと思っていた」「ちょうどやりたかったプロジェクトに入ったばかり」「一家の大黒柱かどうか」などさまざまです。退職を決心している人には、辞めるタイミングや有利な条件をアドバイスしますし、辞めるかどうか迷っている人には、退職と継続の両方のメリット、デメリットを説明します。私たちの考える方に誘導するのではなく、あくまで主導権は相談者ですが、これもケースバイケースで背中を押してもらいたい人もいるので難しいです。社労士は相談者に代わって手続きをすることが可能ですが、自ら動くことが病気をきっかけに自信を無くしてしまった相談者の力を取り戻すプロセスになるとも思います。 職場との正確な情報共有大事 ―相談者自身に望むことは 会社は本人がどうしたいのかを知りたがっています。続けたいのか辞めたいのか、続けるとして、どのくらいの治療期間でいつ頃復職できるのか、通院の間隔や副作用はどんな状況かなど、お互いの情報共有が重要です。診療計画と簡単に言っても術後の経過によって計画が変わる場合もあります。その場合も会社と密に連絡を取りあっている人の方が、復職がうまく行く傾向があります。組織と言ってもしょせんは人間同士、治療しながらで本当に大変だとは思いますが、やはりきちんと話さないとうまく伝わらなくてお互い困りますよね。もちろん転職したいと思っていた場合など、職場に信頼できる人がいない場合もあります。そんな場合でも一旦は復職して一定期間働いた方が、転職する際も得策だとアドバイスします。 ―上手な配慮の引き出し方とは 会社に病気のことを伝えるのは、自分が病気なんだと知ってもらうのが目的ではなく、それによってどんな影響が出るか、どんな配慮が必要かを伝えることが目的なのです。病気については話しづらさもあると思いますが、普段仕事で困っていることを上司に相談するのと同じようにわかりやすく話すのが良いのではないでしょうか。「医師からは1か月間時短にしたらどうかと言われていて、私自身もその方が復職しやすいと思っていますがどうでしょうか」のように、客観的なデータと本人の意向をそろえて普通に話した方がスムーズに伝わりやすいと思います。そのために医師や社労士も力になります。伝え方は本人のキャラクターにもよりますが、やはり「こうしてもらえたら、こうできるのですが―」という感じで、前向きな相談の方が会社側も受け入れやすいと思います。 ―大企業と中小企業では違いもあります 一般的には大企業や公務員の方が制度は整っています。でもケースバイケースですが、中小企業のほうが制度はなくても柔軟に対応してもらえる場合も多い。大企業の担当者は逆に個別の配慮というのは公平性に欠けるから制度を作らないといけないと言います。中小企業の方が意外に現場レベルの配慮でうまく行く場合も多いです。制度、運用、配慮の3つがうまく回ってこそ、その職場はうまく機能するのではないでしょうか。以前相談に見えた方が職場復帰した後で「職場に恩返しをしたい」と話すのも聞きました。そういう人に出会えると私自身も励まされます。(聞き手 日本対がん協会 本橋美枝) 近藤明美(こんどうあけみ)氏プロフィール 2008年近藤社会保険労務士事務所開業。2009年からがん患者の就労支援活動を開始する。埼玉県立がんセンターなど4カ所の医療機関のほか、6月からは日本対がん協会でも就労についての電話相談を月2回行う。 <がんと就労 電話相談> 毎月2回、相談時間は1人40分 相談料は無料 予約受付電話03–3562–8009で月曜から金曜の10:00~17:00受付。相談月の前月1日より、先着順。6月は8日(10:00~12:10)と20日(14:00~16:10)に実施。 1職場の制度 休暇制度 勤務制度 ・時間単位・半日単位の年次有給休暇 ・在宅勤務制度(テレワーク) ・私傷病求職制度 ・短時間勤務制度 ・治療休暇・傷病休暇 ・時差出勤制度 ・失効年次有給休暇の積立制度 ・フレックスタイム制度 ・試し出勤制度・復職支援プログラム がん制度ドッグ (http://www.ganseido.com/) [対がん協会報6月号より]
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