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上園保仁の
『選べる・選んだ「漢方薬」があなたの心と体を楽にします』
第2回 〜口内炎を早く治すことができます。苦いけれど...半夏瀉心湯は優れものです〜

掲載日:2022年7月7日 16時18分

第2回 〜口内炎を早く治すことができます。苦いけれど…半夏瀉心湯は優れものです〜

 治療中のがん患者さんの副作用にはさまざまなものがあります。2015年に厚生労働省が示した、がん対策を進めるための「がん対策加速化プラン」の中に「がんとの共生をすすめましょう」という項目があり、そのためには、がん患者さんの体調を整えたり治療の副作用を減らすために行われる「支持療法」の研究を進めることが重要であると記載されました(図1)。さらに具体的に、そのためには栄養療法、リハビリテーション療法の重要性に加え、「漢方薬を用いた支持療法の研究が必要である」ということが掲げられました。

 さて、ここで示されているがん患者さんの副作用のワースト4を見てみましょう(図1)。

 1位は倦怠感で、2位に今回お話しする口内炎が入っています。ちなみに3位は食欲不振、4位は便秘です。がん患者さんは抗がん剤や放射線治療により、高い確率で口内炎を発症します。口内炎には現在もよく効く薬がない中、漢方薬半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)が口内炎を治すのに有効であることが基礎および臨床研究の結果、明らかになってきました。半夏瀉心湯は半夏(はんげ)、黄芩(おうごん)、乾姜(かんきょう)、甘草(かんぞう)、大棗(たいそう)、人参(にんじん)、黄連(おうれん)という7種類の生薬でできています(図2)。

口の中の細胞(ケラチノサイト)や実験動物を用いた研究により、半夏瀉心湯は複数の作用を介して口内炎の症状を改善していることがわかってきました。口内炎を構成する7つの生薬のひとつひとつに、抗酸化作用、抗菌作用、抗炎症作用、鎮痛作用、組織修復作用など多くの作用があることがわかってきたのです(表1)。


  • 抗酸化作用
    抗酸化作用とは、活性酸素が体の中を攻撃するのを防ぐ作用のことで、ビタミンCやビタミンEに抗酸化作用があります。半夏瀉心湯を構成する7種類の生薬のうちなんと半夏を除く6種類に抗酸化作用があることがわかりました。
  • 抗菌作用
    抗菌作用は、文字通り細菌を殺す作用です。半夏、黄連、乾姜の3つの生薬に口の中の細菌を直接殺す作用があることがわかりました。
  • 抗炎症作用
    半夏瀉心湯はさらに、黄芩、乾姜、黄連に抗炎症作用があることがわかりました。これは皆さんがよく使っているバファリンなどの非ステロイド性抗炎症薬と同様の効能があります。
  • 鎮痛作用
    半夏瀉心湯には痛みを止める成分も入っており、乾姜、甘草に鎮痛作用があることがわかりました。実際に、たとえば半夏瀉心湯をお湯に溶かしたものを口に含んでいると口内炎の痛みがおさまってきます。
  • 組織修復作用
    これらに加え、半夏瀉心湯の黄芩、乾姜、甘草には傷ついた組織を修復させる作用もあることがわかったのです。半夏瀉心湯は痛みを止め、炎症を抑え、細菌をやっつけ、傷を早く治してくれるのです。

  •  このように半夏瀉心湯の7種類の生薬がそれぞれの役割をもって口内炎の治癒に働いていることがわかってきました。特に生姜を蒸して乾燥させた乾姜は上記5つすべての作用を有しています。「蒸し生姜」恐るべしです。口内炎に対し是非、漢方薬半夏瀉心湯の利用を考えてみてください。

    【豆知識】

     医師が処方する医療用漢方薬は148種類あります。この中で口内炎治療に適応を持つ漢方薬は、今回ご紹介した半夏瀉心湯に加え、黄連湯(おうれんとう)、茵蔯蒿湯(いんちんこうとう)の3種類があります。半夏瀉心湯と黄連湯はどちらも7種類の生薬でできていて、黄連湯は半夏瀉心湯の黄芩が桂皮(けいひ)(シナモン)に代わったものです。つまりほぼ同じ生薬で構成されているということです。しかし茵蔯蒿湯は茵蔯蒿、山梔子(さんしし)、大黄(だいおう)と全く異なる3種の生薬で構成されていますが、口内炎の適応を有します。構成生薬がすべて異なる茵蔯蒿湯も口内炎に効くというのは不思議だなという思いを持つのは私だけでしょうか。生薬って深いです。


    上園保仁(うえぞの・やすひと)
    東京慈恵会医科大学疼痛制御研究講座
    特任教授
    1985年 3月 産業医科大学卒業、医師免許取得
    1989年 3月 産業医科大学大学院修了、医学博士取得
    1991年 1月 米国カリフォルニア工科大学留学
    2004年11月 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科内臓薬理学 助教授
    2009年 1月 国立がんセンター研究所がん患者病態生理研究部 部長
    2015年 5月 同センター先端医療開発センター支持療法開発分野 分野長 兼任
    2016年 1月 同センター中央病院支持療法開発センター 主任研究員 兼任
    2020年 4月 東京慈恵会医科大学疼痛制御研究講座 特任教授
    2020年 4月 国立がん研究センター東病院支持・緩和研究開発支援室 特任研究員 併任

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