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あなたの大切な人を守るには ~受動喫煙の怖さ~

掲載日:2017年6月29日 14時35分

日本は禁煙五輪の灯を守れるのか

2020年の東京五輪・パラリンピックを控えて、日本が試されているテーマがあります。
たばこ対策です。
IOC(国際オリンピック委員会)とWHO(世界保健機関)は、2010年に「たばこのない五輪」の推進で合意しています。それ以降の五輪開催地は、夏も冬もすべて、罰則付きで飲食店の屋内完全禁煙の規制を実現しています。
しかし、日本では、2017年6月の時点で、受動喫煙防止の強化を盛り込んだ健康増進法改正案が、国会に提出すらできていません。厚生労働省の案と与党・自民党の案が折り合わなかったのです。
厚労省案は、床面積30平方メートル以下のバーやスナック以外は原則として屋内禁煙。これに対して自民党案は、業種に関わらず、「喫煙」「分煙」の表示をすれば喫煙を認める。法律の適用除外になる飲食店の面積も客席100平方メートル、厨房50平方メートル以下なので、実に80%以上の飲食店で喫煙が野放しになります。
そもそも、厚労省案でも、IOCとWHOの合意からは外れてしまいます。日本は禁煙五輪の灯をともし続けられるのでしょうか。

分煙は間違った対策

15,000と49。
どちらも、受動喫煙に関する数字です。
2017年5月31日に東京都文京区で開かれた「2017世界禁煙デー記念イベント『受動喫煙防止対策について』」(日本医師会など主催)で、講演に立った北九州市の産業医科大学の大和浩教授が挙げました。
15,000は、日本で毎年、受動喫煙が原因で亡くなるとみられる人の数で、厚労省研究班の推計値です。内訳は、日本人の研究から受動喫煙との因果関係が確立した4大疾患、脳卒中8,014人、虚血性心疾患4,459人、肺がん2,484人、乳幼児突然死症候群(SIDS)73人となります。なお、東日本大震災の犠牲者が約1万8500人です。
49は、飲食店や事業所、交通機関を含む公共の場の屋内完全禁煙を実施している国の数です。世界保健機関(WHO)が示した数字です。イギリス、フランス、ロシア、カナダ、ブラジル、オーストラリアなどが入っています。米国では30州で実現しています。

どちらの数字も「えっ、そんなに多いの?」と驚かれる方もおられるかもしれません。大和教授は、なぜ分煙ではダメか、を示す動画も3本、見せました。
最初の動画では、喫煙室のドアがフイゴのように作用して煙を外に押し出しています。次の動画では、喫煙室から出てくる人の後ろにできる空気の渦に巻き込まれて、大量の煙が喫煙室の外に持ち出されています。3つ目では、喫煙後の肺には煙が貯まっていて、吸い終えた人が喫煙室の外へ出れば、その煙が吐き出されることが示されました。

大和教授はこう断言しました。
「喫煙した後は、だいたい20から30呼吸は煙が吐き出されます。また、喫煙室を自動ドアで仕切っても煙の漏れは防止できません。喫煙室があったのでは受動喫煙は防ぐことはできません。間違った対策が分煙です」
レストランを含めて屋内が全面禁煙になれば、数百万人の従業員が受動喫煙の曝露を受けずに済みます。その上、喫煙者の喫煙本数もおのずと減り、禁煙する人も増えます。大和教授は、屋内全面禁煙法がある国では、国民の入院数が最大39%も減った、というデータを示しました。
また、「全面禁煙にすると店の収入が落ちる」という説に対して、全席禁煙にしたファミレスの営業収入が変わらない、もしくは増えた、などのデータをもとに反論しました。
今の日本では非喫煙者が圧倒的多数派です。成人の喫煙率は2割を切り、子どもも含めれば国民の85%はたばこを吸いません。
「完全禁煙が店舗経営に打撃を与えるというデータは、たばこ産業が流すフェイクニュース」と大和教授は指摘しています。

子どもの受動喫煙は「虐待」!?

日本対がん協会も主催者であった5月27日の「タバコフリーサミット2017・東京」では、がん研究会の野田哲生・がん研究所所長が、「喫煙と受動喫煙は、切り離して考えたほうがいいと思います。受動喫煙は喫煙と違い、人に対する危害行為です」
と述べてから、喫煙をめぐる新しいエビデンス(証拠)を披露しました。
「人間のがんのゲノムを解読すると、喫煙者の肺がんの方には、ものすごく特徴的な喫煙によるゲノムの傷が見えます。ところが、今まで一度もたばこを吸ったことがない肺がん患者の3分の1以上の方のゲノムにも、明らかにたばこによる傷が残っています。ゲノムレベルでも、受動喫煙の影響が明白になりつつあります」
野田氏に続いてマイクを握った長谷川一男・日本肺がん患者連絡会代表は、1971年生まれ。2010年に肺がんが発覚し、ステージ4で余命10カ月と告げられました。それから7年。肺を切除したため、胸にはコルセットが入っています。腹部に転移はあるものの、落ち着いているそうです。
長谷川さんは、人生でたばこを1本も吸ったことがありません。ただ、肺がんで亡くなった長谷川さんの父は、1日2箱吸うヘビースモーカーで、リビングに換気扇がついていたほどでした。長谷川さんが大学卒業後に就職した会社はマスコミ業界で、巨大な銀色の灰皿がたくさんあったそうです。
「私たちが取った患者アンケートでは、受動喫煙が嫌で仕事をやめた人がいます。妻が肺がんになっても、夫がたばこをやめてくれないという例もあります。受動喫煙は、法律で規制するしかないと思います」

受動喫煙で見逃せないのは、公共の場よりもむしろ家庭かもしれません。
親が喫煙者の場合、家の中で、あるいは自動車の中で、子どもは煙を吸わされてしまいます。そして、子どもは多くの場合、それを拒否できません。1万5000人の受動喫煙による死の半数は、実は家庭で起きているのです。
「家族と子どもを守りたければ、屋内は完全禁煙にするしかありません」
と、大和教授は話します。家庭内の喫煙を子どもに対する「虐待」とみる医師や保育園経営者もいます。また、東京都医師会の尾崎治夫会長は、
「公共の場と子どもを守れれば、受動喫煙の害をかなり防げると思います。我々が東京都に提出した東京都受動喫煙防止条例案では、公共の場での屋内全面禁煙のほか、家庭や自動車の車内での禁煙を努力義務で求めています」
と語りました。

禁煙で優しい社会を

尾崎会長は、名刺の裏に「疾病予防→タバコ対策、介護予防→フレイル対策の徹底で、真の健康寿命延伸を目指し、元気な東京を」と刷っています。
「10年後の東京は超超高齢社会を迎えます。(厚労省がまとめた)我が国におけるリスク要因別の関連死亡者数のダントツ1位は、たばこなんです。1位の原因をやっつけないで、何が疾病予防なんですか。たばこ対策をしっかりやれば、健康寿命の延伸につながるし、お子さんもいい環境で育てられます」

2005年に発効した「たばこの規制に関する世界保健機関(WHO)枠組条約」の第8条には「屋内の全面禁煙化」が記されています。
実は日本も締約国として、ガイドラインに沿って2010年までに全面禁煙法を制定しなければなりませんでした。
しかし、WHOが2015年に行ったたばこ対策の進捗評価では、全面禁煙化については、日本は4段階評価で最低ランクに位置付けられています。
現状では、成人の喫煙は非合法ではありません。しかし、喫煙者の人でも、「たばこは健康にいい」と考えている人はほとんどいないでしょう。また、喫煙する自由は「他者に危害を与えない限り」が前提です。
受動喫煙で肺がんを発症するリスクは、受動喫煙がない人の約1.3倍です。喫煙者の肺がんリスクは男性で4倍以上です。喫煙自体で命を落としている人は約13万人。受動喫煙の9倍近くに上ります。
他人に危害を及ぼさない、自らも家族や同僚のために禁煙する、という優しい社会が求められているのではないでしょうか。

大和浩教授のホームページ:http://www.tobacco-control.jp/
日本医師会の禁煙ページ:http://www.med.or.jp/forest/kinen/#
日本肺がん患者連絡会のホームページ:http://www.renrakukaigi.net/r-index.html

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