ある日の相談で、開口一番「どうしてワクチンを打たないんですか!!」と叫びにも近い声で電話をかけてこられた女性のことが忘れられません。
その女性は、子宮頸がんになった方でした。
結婚して当たり前のように子供を持てると思っていたそうです。でも、不正出血があって婦人科を受診したところ、子宮頸がんと診断されました。それだけでもショックなことでしたが、病状が進んでいたため子宮を切除する必要があると言われたのです。
子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を防ぐ効果が期待できる「HPVワクチン」は、初めて性交渉を経験する前に接種することが最も効果が高いとされています。この定期接種の対象は小学6年~高校1年相当の女子となっています。でも、この女性がその年齢の時には、まだ定期接種が行われていませんでした。
もし受けられていたら子宮頸がんになっていなかったかもしれない……今頃は子供を抱っこしていたかもしれない……
そう思うと、悔しさ、やりきれなさ、どうして自分がという憤り、自分がいけなかったと自分を責めてしまう苦しさ等、様々な感情が押し寄せてとても苦しんでいました。 同時に、自分のような思いをしてもいいの? 守れる未来や命があるんだよ……と。
こうした思いが前述の一言につながったのです。
国は2013年に、HPVワクチンの公費による定期接種を始めました。対象年齢の女子は無料で受けられるようになりましたが、ワクチン接種後に多様な症状が報告されたため、接種を積極的に勧めることをやめました。しかし、「安全性について特段の懸念が認められないことが確認され、接種による有効性が副反応のリスクを明らかに上回ると認められました」(厚生労働省ホームページ HPVワクチンに関するQ&Aより抜粋)として、昨年4月、約9年ぶりに積極的勧奨が再開されました。
積極的勧奨が中止されていた間、ワクチンを接種する人は激減していて、子宮頸がんになる方が増えないことを祈る日々でした。
厚生労働省は、引き続き安全性の評価や接種後に生じた症状の診療実態の継続的な把握や体制強化をしていくことにも言及しています。
でも、いざワクチンを受けるとなると、痛い? 身体への影響は?等、様々な不安が出てくることでしょう。ホットラインにもそうした相談が寄せられています。
たしかに、どんなワクチンにもまったくリスクがないものはありません。怖いと感じたり、不安になったりするのは当然です。だからといって、リスクだけをみて受けないと決めてしまっていいのでしょうか。
私たちは新型コロナのワクチン接種についてよく考えたはずです。効果はあるの? 安全性やリスクは? もし何か起きた時はどのように対処されるの? 相談できる所はある? HPVワクチンも見ていくポイントは同じです。
まずは正しい情報を知ることから始めましょう。今年4月からは、これまでのワクチン(2価と4価)に加えて、9価ワクチンも加わります。ワクチンの価の前の数字は、簡単に言うとカバーできる型の数を表しています。ほかに何か違いはあるの? 安全性は大丈夫?という疑問や不安があるかもしれません。
そんな時は、厚生労働省の予防接種に関する相談窓口やお住まいの都道府県に設置された相談窓口、かかりつけ医などに相談することもできます。
定期接種の対象年齢は若いですが、保護者が一方的に判断するのではなく、本人と一緒に、受けた場合と受けなかった場合では、どんなメリットやデメリットがあるのかをそれぞれ書き出して冷静に考えてみましょう。よく話し合い、できる限り納得することが大切です。
思い描く夢や将来を想像しながら、今ある命をどう未来につなげていくのか考えていただけたらと思います。
● ヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がん(子宮けいがん)とHPVワクチン~一般の方向け基本情報
● ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種を逃した方へ~キャッチアップ接種のご案内~
【日本対がん協会のホームページ】
◆ HPVワクチンについて
HPVワクチンの基本的な情報と、HPVワクチン接種について、日本対がん協会「がん相談ホットライン」に寄せられた質問と答えをまとめています。
◆ 子宮がん検診について
子宮頸がん検診の基本情報、検診の具体的な流れ、検診の内容をご覧いただけます。