先日、がんのイベントを開催しました。 これまでも何度かイベントは開催していたのだけれど、なぜかイベントのことも活動のことも『がんココ』にきちんと書いたことがなかったなぁと、今さらながらに気づきました。
コロナ禍以降、少しずつリアル開催のイベントが復活してきました。やはり直接会ってのイベントはいいですね。人間は、お互いの想いに触れ、関わり合うことでさまざまな変化を得ていく生き物なんだなと、改めて感じました。 たいていは大きな変化ではなくて、ちょっとした元気だったり、「なるほど」という気づきだったり、小さなものなのですが。 でもそれが、明日を生きるためには結構大事だったりします。
●がん経験だけど「ちょっといい瞬間」
今回開催したのは、『がんフォト*がんストーリー』(=がんフォト)という団体の写真展イベントでした。 がんフォトは仲間と一緒に立ち上げた団体で、「写真と言葉」で想いを伝える「オンライン写真展」です。がん患者・経験者、家族・友人、医療関係者から作品を募集し、誰でもどこからでも見られるようにウェブ上で展示しています。 意外かもしれませんが、私たちが集めているのは、「がんと向き合うなかで見つけた、“ちょっといい瞬間”」です。 一般的に「がん」というと「つらさ」をフォーカスされがちですが、そればかりではないと感じているがん経験者さんは意外と多いように思います。 人の優しさを改めて感じたり、身近な自然が以前よりも美しく見えたり、これまで見過ごしてきたようなさまざまな「いい瞬間」を見つけられることもたくさんあるはず(もちろん、がんが見つかったばかりのころや、そのときの状況によってそう感じられる余裕がないこともありますが)。 それらは、命と向き合っているからこそ見える景色。「そこに生きる人の心」です。 そのような、多くの人がイメージする「がん」とは異なった角度のがん経験を写真と言葉で集めたいと思いました。 また、患者さんを近くで見守っている家族や友人は、患者本人とは違う想いを抱いているものです。そして患者さんや家族を支える医療者は、さらに違う景色を見ているはず。 いろいろな視点からの景色を展示することで、お互いの想いを感じ合い、つらい気持ちでいる人は力をもらい、さらに自分の経験が誰かの助けになると気づいてもらえたらと思っています。 そして、まだがんが身近でない人たちにも「がんでもいい生き方ができる」ということを感じてもらい、社会全体のがんのイメージをちょっとずつでも変えていけたらと考えました。
●活動のきっかけは治療中のスマホ写真
私は治療中、よくスマホで写真を撮っていました。病室のベッド周りや窓から見える風景、病棟の様子など。入院なんて初めてだったので、見えるものはすべて珍しいモノばかり。「あとで何かの役に立つかも」と、記録のつもりで撮っていました。 ところが治療をするにつれ、意外とがんが進行していることが分かり思いがけずガッツリ治療ざんまいの日々に突入。なかなかに体力が落ち、活動範囲が極端に狭くなってしまいました。一時期はトイレに行くのも一苦労で、ほとんどベッド周りだけが自分の世界のようなもの。 しかしそんななかでも、スマホで写真を撮ることはできました。しかも、今のスマホカメラの性能のいいことったら。見慣れた景色や車椅子でさえ、素敵な一枚にしてくれます。撮った写真を家族・友人に送ったり、看護師さんに見せて話題にしたりすることもありました。 スマホなら、たとえ寝たきりでも片手さえ動けば写真が撮れるのです。そのときにふと気づいたのが「きっと、どんなときでも楽しみは作れるものなのだ」ということでした。 写真に限らずとも、それぞれに合った「楽しみ」はきっとあるはず。今はまだ見つけられずにいる人も、「私も、何かやってみようかな」と、心にポッと火が灯るきっかけを作れたらいいな、そのためにはどうすればいいかな、と考えていました。 そんな「想いの熱」(情熱とも言うのだろうか)みたいなものがフツフツと煮えてきたころ、何ともタイミングよくがん治療センターの緩和ケア看護師Hanaさんと出会いました。その出会いが、今も続く活動の第一歩。ある意味、運命の赤い糸だったのかもしれない。
●最初は「ノリ」で始まった
実は、当初の活動はオンライン写真展ではなく「リアル」が中心でした。というのも、がんフォトの前身は「病院内写真展」だったから。Hanaさんの勤めるがん治療センターでおこなわれていた患者・家族交流会の一環として活動を始めました。 Hanaさんとは初対面のときから話がやたらと盛り上がり、「写真展ならすぐできそうだ」という軽いノリでスタート。 しかし毎度、結構な仕事量。全国から作品を募集するところから始まり、1点1点に合った展示方法と配置を考え、データを整えてプリントし、ボランティアをつのり、展示用の額作りやら、病院内の装飾やら、1日が3日に感じるくらい激しく動き回っていました。しかも当時は、それを年に4回くらいやっていたという。 活動を始めたのは術後3カ月のころだったし、準備は大変だったけれど、とにかくいつもワクワクしていたことを覚えています。 Hanaさんをはじめ、患者さんのために自分の時間を使って動いてくれる病院スタッフのみなさんの気持ちがうれしかったし、たくさんの人の力が集まって形になっていくのが、とても楽しかったのです。
そうして始まった写真展。驚いたのは、集まった写真や言葉がいずれも深く力ある作品ばかりだったこと。なぜこんなに伝わってくるのだろう、と不思議に思うほどでした。
がんという大きな困難に向き合ってきた人たちの作品だからこそ、何気ない日常の一枚やちょっとした言葉に、それだけに留まらない奥行きが感じられるのかもしれません。 ある出展者は「あんなに素敵に飾ってもらって、皆さんの苦労を思って感謝でいっぱいです。見て泣きそうでした。初めて、癌になってよかったかも…、そう思いました(^^;」と、感想を寄せてくれました。 病室にドンと置かれたカップ麺の写真(確か、『救いの食べ物』というタイトル)に「そうそう、わかるー!」と、初対面の患者同士で盛り上がる、なんてこともありました。 誰かの気持ちが緩んだり、人と人がつながるきっかけになったり。当初は、これほどのものになるとは思っていませんでした。思いつきと勢いで始まったような活動だったけれど、誰かの心に届いたことがうれしかったです。
思い返すと、これが、私のがん経験が「活動」というカタチになった1つ目だったように思います(ブログ執筆を除けば)。
私が「イベント好き」や「アート好き」で自分に合っている分野だったことと、想いを語り合える人と出会えたことが重要なポイントでしたが、何より「楽しい!」「ワクワク!」といつも感じられたことが大きかったと思います。 もし、これから何かをやってみたいと思っている人は、自分の感情を大事にしてみるのも一つかもしれません。
木口マリ
「がんフォト*がんストーリー」代表
執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。2013年に子宮頸がんが発覚。一時は人工肛門に。現在は、医療系を中心とした取材のほか、ウェブ写真展「がんフォト*がんストーリー」を運営。ブログ「ハッピーな療養生活のススメ」を公開中。