前編では、午前10時半に始まった国立がん研究センターの若尾文彦・がん対策情報センター長による基調講演「正しいがん情報の探し方 ~がん情報サービスを活用しましょう~」の採録をお届けします。

若尾先生は、ネット情報を見極めるコツから話し始めた。
「インターネット検索には、多くの落とし穴があります。たとえばヤフーで『××がん治療』と調べると、広告のページが上位に出てきます。こういう広告は、見てはいけません。今年1月にヤフーにお願いして、ヤフーでは、単に『××がん』と引くと、広告より上に国立がん研究センターのがん情報サービスのページが表示されるようにしました」
では、ネットで出てくるどんな言葉が要注意なのか?
若尾先生は、「最新医療」「動物実験で確認された」「効果が学会で報告された」「多くの患者さんに感謝されている」「この免疫細胞療法は体に優しく効果抜群」といったフレーズを挙げた。
こうした惹句に惑わされないためには、医療情報を読み解くスキルを身に付ける必要がある。若尾先生が示したポイントは4つある。
②論理的な考え方
③情報源に関する考え方
④統計学的な考え方
「①の医療・用語に関する正しい知識とは、キーワードを知ることです」
たとえば「標準治療」。ふつうの治療ではなく、安全性や有効性が確認されている最善の治療法を指す。逆に、「最新医療」は、それらが確認されていない実験的な治療だ。特に、健康保険が使えない自由診療で行われる免疫療法は要注意である。標準治療という言葉の意味を理解していれば、怪しい療法にだまされないだろう。
「②の論理的な考え方とは、冷静に考えることです。目の前の情報を鵜呑みにするのではなく、批判的な吟味も必要です」
試験管やマウスの実験で成功したからといって、人に効くとは限らない。がんが消えたというCT写真でも、撮影方法をごまかしているケースがあるという。治療が効いた例を宣伝していても、それがたまたまで、裏に効かなかった人が大勢いる可能性もある。
「③の情報源では、もっとも信頼できる情報源は医学論文です。次が診療ガイドライン。これらは、複数の専門家のチェックを経ています。意外に思われるかもしれませんが、学会発表はあまり信頼できません。日本では、チェックを受けないからです」
あるキノコががんに効くと学会にエントリーして、抄録が載ったケースがある。だが、学会当日、発表者は来なかった。叩かれるからだろう。それなのに、そのキノコを「学会で発表した」と宣伝しているという。
がんに効くキノコなら、飛びつく人は多くないかもしれない。しかし、NHKや一般紙が報じる情報となると、そのまま信じる人が少なくないだろう。若尾先生は、信頼性が高いとされるメディアの報道でも、情報源を見極めることが大切だという。
私たちは、ウェブサイトを見るとき、どんな点をチェックすべきなのか?
若尾先生は、7つのポイントを挙げた。
②情報源が明記されているか?
③情報の掲載日が明記されているか(古くないか)?
④特定の治療法や商品を勧めていないか?
⑤スポンサーについて明示されているか?
⑥成功例の紹介など、良いことばかり書いていないか?
⑦断定的な表現や誇張された表現がないか?
「医学は進歩しているので、当初は正しかった情報が、古くなると間違った情報になることもあります。また、いかにも情報提供のサイトのように見えて、特定の治療法に誘導したり商品を売ろうとしたりするサイトも少なくありません。『多くの患者さんが快復した』と宣伝しているサイトもありますが、『多く』とは、どのぐらいなのでしょうか?」
若尾先生はそれから、正しい情報を精査して載せている、国立がん研究センターのがん情報サービスの利用法を解説した。説明を終えると、こう述べた。
「健康食品や代替医療で、がんへの効果が確認されたものはありません。有害なものや非常に値段が高いものもあります。得られた情報をもとに行動する前に、必ず主治医や周囲の意見を聞いてください。自分や家族だけで判断すると、信じたいという気持ちが強く、判断を誤ることがあるからです。全国のがん診療連携拠点病院や地域がん診療病院のがん相談支援センターでは、その病院にかかっていない人も相談できます」
がん治療において、情報収集は欠かせない。しかし、情報は、諸刃の剣でもある。情報を武器にするためのヒントに満ちた講演に、参加者たちは熱心に聴き入っていた。