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【イベント報告】「治療と仕事」の両立に、中小企業の強みを生かそう
ネクストリボ ン2020 第1部がんとの共生社会を目指して ~基調トーク~ 

掲載日:2020年4月22日 18時35分

「がんとの共生」は言葉としては浸透してきた。では、実際にはどのような工夫で実現しているのか? 2月4日に東京・品川で開かれたネクストリボン2020(朝日新聞社・日本対がん協会主催)で発表された、さまざまな企業や人々の取り組みからは、学べることが多い。

(文・日本対がん協会 中村智志)

ネクストリボン第1部。平日の昼間にも関わらず、多くの方が集まった。

【基調トーク】がんからの復職で会社が一番大切にしたこと


ジェイエイシーリクルートメント 春野直之部長/金澤雄太・デジタルディビジョン シニア プリンシパル(当時)


「ひどい盲腸」が虫垂がん

 治療と仕事の両立は、言葉にすれば美しいが、困難も立ちはだかる。仕事への影響がゼロというケースは少ないからだ。その際に欠かせないのが、会社や周囲の理解である。
 第1部の最初のセッションは、基調トーク「がんでも仕事を諦めない、諦めさせない。上司・部下の4年の挑戦」。


 まずは、がんになった当事者として、「ジェイエイシー(JAC)リクルートメント」の金澤雄太さん(37)が語った。京都府宇治市出身で、9歳と5歳の娘がいる。


 金澤さんは、2014年の夏頃からお腹に痛みを感じていた。11月、ついに脂汗が出て立てないほどになり、大学病院へ行くと、「ひどい盲腸」と診断された。そのまま入院し、その日に手術を受けた。


 ところが入院中に、病理検査で、虫垂がん(大腸がんの一種)のステージ2Bとわかった。腸閉塞も併発しており、2カ月ぐらい食事もできず、約74キロあった体重が50キロ台に減ったという。
 そんな中で、2015年1月、入院中に次女が生まれた。同じ病院の違う階であった。

登壇者たち。右からジェイエイシーリクルートメントの春野直之さん、金澤雄太さん、コメンテーターの高橋都さん、コーディネーターの上野創さん。


「金澤はどうしたいんだ?」と上司は聞いた

 その後快復して、2月に復職した。しかし翌2016年、肝臓に2カ所転移して、手術。3カ月の休職を経て復職した。だが、さらに翌年、肝臓の近くの肝門部リンパ節に転移した。大腸がんの治療ガイドラインを見たら、5年生存率は12.5%と書かれている。


「がん治療が進歩していること、ガイドラインの数字は少し前のデータであることは知っていましたが、やっぱりショックで、深い穴に落ちたような気がしました」
 複数の病院でセカンドオピニオンを取り、がんの専門病院に移った。手術と抗がん剤治療を受けて2018年4月に3度目の復職を果たし、現在は経過観察となっている。


 勤務先のJACリクルートメントは、1988年に設立された管理職や専門職の人材の転職を支援している企業だ。
 最初の復職の際、「金澤はどうしたいんだ?」と上司に聞かれて、3カ月近い入院で体力に不安もあった金澤さんは、時短勤務を希望した。


 同社はフレックスタイム制だったので、「最初はコアタイム(11時~16時)だけ就業していればいい」ということになった。有休を半日単位で使えたほか、積立有休の制度(使わずに消滅した有休を積み立てておいて、長期療養などの場合に付与する)もあった。業務の進め方は自由度が高く、体調に応じて働けた。


「いったん役割を変えてチャレンジしよう」という会社側の提案を受けて管理職は降りたが、給与の減額はなかった。みなし労働時間制で、時間外手当も定額のままだった。


 同社では、金澤さんを含め、社員の8割が人材紹介のコンサルタントだ。このため、治療などで休むときにも同僚にフォローしてもらえたという。
「サポートを受ける機会が増えたので、感謝を伝える。サポートしてくれた同僚に代わりに自分ができることをする、ということを意識するようになりました」

金澤雄太さん。1982年生まれ。2011年にJACリクルートメントに入社。家族のことも含めて率直に語った。


がん患者ではなく、時間に柔軟性が必要な仲間

 金澤さんの元上司、春野直之・Webディビジョン部長によると、会社が最も重視したのは、金澤さんの希望を尊重することであった。


「病気のことをどこまで伝えるか、どんな働き方をしたいか。本人の意思を聞きました」
 たとえば金澤さんは、手術で治ると思っていた当初の段階では、身近な同僚のみがんのことを伝えなかった。転移してはじめて、同僚の手助けを受けることが予想されたため、公にした。そんな選択も本人に任された。


 春野さんによると、同社では、「志をつなぐ」という方向性を大切にしている。対顧客だけでなく、対社員でもそれを意識している。春野さんは語った。


「金澤のことは、がん患者ということで特別扱いをするのではなく、介護をしたり妊娠中のメンバーと同じで、時間に柔軟性が必要な仲間、と認識していました。仕事に対しては、時間ではなく価値提供の対価で評価をしていたので、期待値もほかの社員と同じでした」
 金澤さんもそれに応えて、2018年には目標の186%という高い達成率で表彰も受けた。

春野直之さん。1983年生まれ。2006年にJACリクルートメントに入社。小学生のころは将棋の棋士を目指していた。


奥さんと麻雀をしながら語り合う

 金澤さんは、2018年からはがんサバイバーとして、各地で発言する活動も始めている。その過程で、自らの環境がいかに恵まれていたかも実感したという。


「大きな変化を経た前後では、社内の人間関係は違います。それを自覚することも大切です。また、妻や両親のサポートも大きかった。仕事や飲み会よりも、恩返しのために家族との時間を大事にするようになりました。優先順位が変わりました」


 コメンテーターを務めた国立がん研究センターの高橋都・がんサバイバーシップ支援部長は10年にわたり、がんと就労をテーマにしている。こんな感想を述べた。


「会社と金澤さんがきちんとコミュニケーションを取れたことが大きかったと思います。働くことの意味が共有されていることも印象的でした。また、家族はとても大事です。従業員の背後には支える家族がいます」


 春野部長は、家族との関係を築くことも意識している。金澤さんの奥さんとは、一緒に麻雀を打ちながら率直に語り合ったりした。そんなつながりも、支えとなっている。

金澤さん(左)と春野さんは同世代でもあり、堅苦しくない関係に見えた。

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