リリー・オンコロジー・オン・キャンバス

私たちの庭

著作者:池田 奈央 さん
出展:日本イーライリリー株式会社

私たちの庭

それが糧となり、心に何かが咲いたのです。
高三の春、母のガンが見つかりました。明日は中間テストなのに、教科書が滲んで読めなくなったことを、よく憶えています。「お母さん、生きて」と願う裏で、ガンでこの世を去った祖父が浮かび、怖くてたまらなくなるのです。英単語を眺めることしかできない自分が、あまりに無力で泣けてきます。
父は、これからのことを私に説明しました。手術に薬、検査など、共通することは、たくさんお金が必要だということです。私の大学費用を、全額母に充てることになりました。幼い頃からの夢を叶える為に、進学校に通っていた私の未来は、思い描いていた方向には行けなくなったのです。この時の私が思ったことは、お金があって良かったということ、ただ一つだけでした。十何年も大切にしていた夢は、今でも大切だけれど、母の命は特別でしかありません。私は母が大好きです。
母がガンと闘っていた時、私は家事をしました。毎日家事をこなすということは、想像以上に大変なことでした。毎日笑顔で、おはよう、いってらっしゃい、おかえりと言ってくれる母は、本当にすごいと思います。これからはもっとお手伝いをしようと決めました。
しばらくして、ようやく母の治療が終わりました。元気で愛しい母の姿を見ると、助けてくれた全ての人に感謝の気持ちが溢れます。
母が元気になってから気付いたことがありました。それは家族の変化です。亭主関白な父が、母の話に耳を傾けるようになり、家族旅行の計画を頻繁に立てるようにもなりました。甘えん坊な妹は、自分のことは自分で、きちんとやるようになりました。厳しい祖母は、以前より口調が柔らかくなりました。
母はもちろん、私たち家族もガンの恐怖と闘っていました。その恐怖は糧となって、家族一人一人の心に何かが咲いたのでしょう。私の心には、真っ赤なカーネーションが綺麗に咲きました。

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この各作品はリリー・オンコロジー・オン・キャンバスの作品・エッセイです。

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