リリー・オンコロジー・オン・キャンバス

復活の空

著作者:竹谷 光代 さん
出展:日本イーライリリー株式会社

復活の空

バチがあたったんだ。今までの生き方が間違っていたから。私が、正しくなかったから。

お気楽独身生活から一転、孤独なおひとりさま患者となった私はそんな考えに支配され、三十年間のアイデンティティを構成してきたすべてのものを否定し、遠ざけるようになった。誰にも会わず、息をひそめ、ただ「つらい今」が過ぎるのを待つ毎日。

ウィッグが必要なくなっても、しつこく引きこもり続ける私を外に連れ出してくれたのは、かつての飛び仲間だった。二十代半ばでパラグライダーと出会ってから、空を飛ぶというその圧倒的な非日常感覚と、風を読むといった自然相手のままならなさに魅力を感じ、週末ごとに空中散歩を楽しんでいたが、やはり病気以降はぱったりと足が遠のいていた。

久しぶりに見上げた空には、色とりどりのグライダーがゆったりと浮かんでいた。憧れと戸惑いの目で見つめていると、いつ復活するの、また一緒に飛ぼう、なんて声が次々とかかる。気を遣うのではなく、ごく自然に、私の復帰を待ってくれている仲間がいた。あぁそうか、もう何もできなくなったと決めつけていたのは、自分自身だったんだ。

現実を受け入れ、自分の人生に戻る勇気を得、私は一年半ぶりに空を飛んだ。地面から足が離れる瞬間のゾクッとした感覚、風切り音、足の下を流れる木々の丸み。すべてがなつかしく、それ以上に強烈に新鮮で、いとおしい。着地後、今までの苦しかったことや、ここに戻ってこられた喜びなど、ごちゃ混ぜの感情が押し寄せてきて、その場から動けない。そんな私のもとに駆け寄りながら、怒ったように「なにも泣くことないやん!」と言う彼女の泣き顔をみて、また涙がこぼれた。

まだまだ治療は続くし、再発の恐怖が頭を離れることもない。それでも私は、堂々と生きていく。私の選んできた道は間違っていなかったし、それに、「空飛ぶがん患者」なんて、ちょっとカッコイイじゃないか。

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この各作品はリリー・オンコロジー・オン・キャンバスの作品・エッセイです。

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